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例会の様子
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第100回秦野物理サークル
2010.9.20.発行
第100回秦野物理サークル報告
日時:2010年7月24日(土)14:00〜17:10
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:稲葉一弘(伊勢原子ども科学館)、久保田信夫(立花学園)、倉田慎一(教育センター)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(伊勢原高校)
計6名
【1】発表項目
(1)「ガウス加速器」(鈴木孝雄)...写真1〜写真3参照
(2)DVD−book「日常にひそむ数理曲線」の紹介(倉田慎一)...写真4〜写真10参照
(3)DVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器(追試)(塚本栄世)
...写真11〜写真16参照
(4)白色LEDと光ファイバーを用いた顕微鏡落射照明装置の試作(塚本栄世)
...写真17参照
(5)クイズ形式のサイエンスショーについての紹介(塚本栄世)
...資料1参照
(6)資料「CanoSOARus FLYING CAN COOLER TOY」の紹介(塚本栄世)...資料2参照
(7)キューリー夫人のラジウム測定方法について(久保田信夫)
...資料3参照
【2】発表内容
(1)「ガウス加速器」(鈴木孝雄)...写真1〜写真3参照
100円ショップで購入した円板形ネオジム磁石とパチンコ球(鉄球...焼入れした鋼(はがね)でできている 反発係数が大きく、ほぼ1と考えてよい)を利用した「ガウス加速器」が紹介されました。最近100円ショップで強力なネオジム磁石を安く入手することができるようになりました。断面がコの字型のアルミチャンネルや木の角棒2本をレールにして、その上に直径約10mm、厚さ約2mmの円板形ネオジム磁石(円板の表、裏がN極、S極になっている)を4枚重ねて置き、その右側にパチンコ球2個(球2、球3と名付ける)を接触させてから、ネオジム磁石の左側から1個のパチンコ球(球1と名付ける)をゆっくりと衝突させる(写真1参照)と、ネオジム磁石の右側に接触させて置いたパチンコ球2個のうち、右端のパチンコ球である球3がすごい速さで飛び出します(写真2参照)。いわゆる「ガウス加速器」です。
この実験を授業の中で見せると、生徒は非常に興味を示します。ただ、なぜこのような現象が起きるのかと質問するとなかなか説明することができません。初めてこの実験を見た人には、ネオジム磁石の左側からゆっくりと1個のパチンコ球を衝突させたところ、ネオジム磁石の右側に接触させて置いた右端の球3が突然すごい速さで飛び出す現象しか見えないからです。実は、球1がネオジム磁石に衝突する瞬間には相当な速さになっているのですが、肉眼ではそのことはほとんど分かりません。磁場によってはたらく力はr2に反比例するので、パチンコ球がネオジム磁石から受ける磁力はrが小さくなるにつれて急激に大きくなり、パチンコ球に生じる加速度も急激に大きくなります。しかし、ネオジム磁石による磁力は近距離でなければはたらきませんので球1に大きな加速度を生じている距離が短いため、肉眼では衝突直前の球1の速さが非常に大きくなっていることは分かりません。実際には、衝突寸前に球1がかなりの速さでネオジム磁石に衝突し、その後、球1とネオジム磁石、ネオジム磁石と球2、球2と球3と連続衝突が起きて最終的に球3が大きな速さでとび出しますが、球3の速さがネオジム磁石に衝突する直前の球1の速さより速くなることはありません。
実際の授業の中では、原子核エネルギーについて説明する際にこの実験を見せ、原子核に外部から中性子が打ち込まれると原子核の崩壊が起き、原子核を構成していた粒子が高速でとび出してくる現象についての理解を深めることを目指したとのこと。
例会では、ネオジム磁石の左側に並べる球の数と右側に並べる球の数を徐々に増やしてみました。その結果、ネオジム磁石の左側から1個の球を衝突させるとき、ネオジム磁石の右側に並べた球のうち右端の球が勢いよくとび出すための条件は、(右側に並べた球の数)>(左側に並べた球の数)の関係が成り立つことであることが分かりました。また、円軌道に沿ってパチンコ球が運動するようにしたらどうなるだろうという話になり、子ども科学館のプラスチック製ループコースターを使って実験してみました(写真3参照)が、衝突後勢いよくとび出したパチンコ球がループコースターをとび出してしまい、それ以上に試してみることはできませんでした。
(2)DVD−book「日常にひそむ数理曲線」の紹介(倉田慎一)...写真4〜写真10参照
テレビで話題になった「ピタゴラスイッチ」を開発した慶応義塾大学の佐藤雅彦研究室の佐藤雅彦氏とベネッセ教育研究開発センターが企画・制作した「日常にひそむ数理曲線」というDVD−book(小学館 2010.7.19.初版第一刷発行)が紹介されました(写真4参照)。DVD映像は計32分間あり、解説書は計64ページです。この作品は科学技術映像祭で文部科学大臣賞を受賞しています。
その内容は、日常生活の中で見られる現象の中から数理曲線を含む現象を取り出し、解説しています。楽しくて美しい映像が印象的です。例会では以下の映像が紹介されました。
・「自転車とサイクロイド」
サイクロイドとは、地面の上を丸い物が転がるとき、円周上のある一点が描く軌跡のことです(より厳密には「円がある直線や曲線上をすべらずに回転して動くとき、円周上の一点が描く軌跡」のことです)。このサイクロイドがひそむ日常の現象として自転車の車輪上の一点の描く軌跡を取り上げています。自転車の映像とサイクロイドをうまく重ね合わせてコンピュータ処理して分かりやすい映像にまとめています。自転車の動きに合わせてサイクロイドを描くだけでなく、2回目の映像ではそのサイクロイドを消しながら自転車が動いていく(写真5参照)のですが、その動きがなかなかユーモラスです。なお、サイクロイドの数式を以下にあげておきます。
x=a(θ-sinθ) a...半径 θ...回転角 x...x座標 y...y座標
y=a(1-cosθ)
・「トンカチの放物線」
柄の部分を持ってトンカチを空中に斜めに放り投げると、柄の先端部分はかなり複雑な軌跡を描きます。それに対して、トンカチの重心はきれいな放物線軌道を描きます。この二つの軌跡の関係はトンカチの重心と柄の先端部との距離を半径とした円の中心が重心の描く放物線に沿って運動したときに描くサイクロイドになっています(写真6参照)。
・「ボールのはねかえりと指数関数」
卓球のボールやスーパーボールを床に落下させると何回も床に衝突しながら徐々に最高点の高さが低くなり、最終的に止まってしまいます。このときn回床に衝突した後の最高点の高さhnは、
hn=e2nh0
という指数関数の式で表わされます。
hn...n回床に衝突した後の最高点の高さ
h0...最初に落下させたときの高さ
e...反発係数
床に衝突した後の最高点の高さが指数関数にそって低くなっていく(写真7参照)ことを、実際のボールの運動をコンピュータで処理しながら指数関数のグラフを描くことによって分かりやすく映像で証明しています。
・「パラボラアンテナと放物線」
放物面状のパラボラアンテナに平面波の電波を入射させると、アンテナの表面で反射した電波は受信素子の置かれた焦点の位置に集まります(写真8参照)。アンテナの表面で電波が反射するときには(入射角)=(反射角)となる反射の法則が当然なりたっています。このことを水平面上に置いた放物面の軸に平行に多数のボールを落下させると、放物面に衝突した後の多数のボールがすべて焦点の位置を同時に通過するというコンピュータグラフィックの手法で作った力学的な映像を見せることで理解を深めようとしています。ただ、力学的な現象としてあり得ない映像(ボールが放物面に衝突するときの反発係数が正確に1である場合の映像)を使っていることは誤解を生む危険性もあるように思います。むしろ、放物面による水波の反射の現象と比較する方が無理がないのではないでしょうか。
・「tanθと回転灯」
砂を入れた円錐状の容器をおもりとして紐でぶら下げて鉛直面内で単振動させ、床の上に置いた長い紙をその単振動の方向と直角の方向に一定の速さで動かすと、紙の上に落下した砂の模様はサインカーブy=asinbx(y=asinθ)となります(写真9参照)。このことはよく知られたことですが、y=tanθで表すことができる現象として回転灯から放射される光のビームが壁を照射する位置にできる光点の動きをあげています。
その他、ステッピングモーターを使用した簡単な装置でリサージュ曲線(写真10参照)を描く映像もあり、物理と数学の境界分野についての一つのアプローチとして面白い試みです。
(3)DVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器(追試)(塚本栄世)
...写真11〜写真16参照
前回の例会で紹介されたDVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器の実験を追試しました。DVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器は、光を取り入れるスリットの部分にメンディングテープ(少し白く濁った色のテープ)を貼り付けることによって白色光を散乱させ(つまり、この部分が白色光を放射する光源のはたらきをする)、その白色光をDVDの一部を切り出したものに当てて可視光の連続スペクトルを見ることができるように工夫されています。実際にこの簡易分光器を作るためには、DVDを切断して中心角30°程度の扇形を切り出す必要がありますが、この作業が難しく、切断箇所がバリバリに割れてしまいます。そこで、今回の追試ではDVDを切断しないでそのまま使うことにしました。
使用した段ボール箱は縦27cm×横18cm×奥行き37cmのもので、この中に高さ10.6cmのプラスチック製の箱を入れ、その上にDVDを水平にして置きます。段ボール箱の上面に縦14cm×横6.5cmの窓をくり抜き、その上に長さ43cm×幅15cmの長方形に切った裏が黒い工作用紙を置きます。この工作用紙には幅2.0mm、長さ3.0cmのスリットとカッターの刃で1回だけ長さ3.0cmの切れ目を入れたスリットを予め作っておきます。(スリットの方向は横方向。)そのスリットの上からトレーシングペーパーを2重にしたものを貼り付けます。また、段ボール箱の手前側の上から3.0cmの位置には縦2.0cm×横2.0cmの観察窓を開けます。幅2.0mmのスリットの上に超高輝度白色LED(輝度は100ルーメン、日亜化学)を置き、スリットの位置を調整しながら観察窓から箱の中のDVDを見ると、赤色〜紫色(赤色が奥、紫色が手前)の連続スペクトルが観察されます。
今回の例会では、スリットの上に超高輝度白色LEDを置いた状態でスリットの半分の幅の部分に赤色フィルターや赤紫色プラスチック板を置いたりすると、赤色〜紫色の連続スペクトルの横に赤〜橙色のスペクトルや赤色および紫色のスペクトル(写真14参照、橙色〜青色の部分はカットされていて、黒くなっている)が観察されます。なお、この実験で、デジタルビデオカメラを通して見た場合の方が、肉眼より赤色と紫色の範囲が広いことが分かりましたが、これはデジタルビデオカメラの感度が人間の目より波長の範囲が広いためです。また、スリットの上の左半分に電球型蛍光灯(Nationalパルックボール EFT14EDG、14W...白熱球60W相当の明るさ、三波長型昼光色、パルックday色、全光束750ルーメン)を置き、スリットの右半分には懐中電灯を置くと、DVD上で左半分には懐中電灯による赤色〜紫色の連続スペクトル、右半分には蛍光灯による線スペクトルと赤色〜紫色の連続スペクトルが重なったものが観察されます(写真15参照)。このように、スリットの左半分と右半分でフィルターや光源を変えることによって、2種類のスペクトルを比較することができます。
次に、「ホログラムオーロラ」という名の反射型回折格子(写真16参照、1mmあたり1000本の溝(【参考1】参照)を切ったプラスチック製のフィルムを紙の上に貼り付けたもので、ハサミで自由な形に切って使うことができる)をDVDの替わりに使用した実験もやってみました。DVDの場合は、半径の幅に赤色〜紫色のスペクトル全体がぎりぎりで入るのに対して、この「ホログラムオーロラ」は大きさを自由に選ぶことができるので、赤色〜紫色のスペクトル全体を余裕をもって表示することができるという長所はあるのですが、フィルムや紙が変形しやすいためかスペクトルの形が変形してしまう欠点があることが分かりました。
また、例会では鈴木先生が開発されたこの分光器を今後さらに発展させるためには、どのような工夫を続けていけばよいかについて議論しました。その際に出された提案を以下に列挙します。
@DVDを透過型回折格子として使用しているのではなく、反射型回折格子として使用しているので、DVDを構成する透明プラスチックによる吸収スペクトルの影響が出ることはない。従って、光源を工夫すれば赤外線や紫外線の実験も可能である。赤外線や紫外線を観察するためには、デジタルビデオカメラやデジタルカメラが可視光に近い波長の赤外線や紫外線に対して感度を持っていることを利用する。
...白熱電球やレフランプから赤外線、蛍光灯から紫外線を取り出すことができると思われる。モンシロチョウのオスとメスを紫外線で区別する実験ができないか?
...DVDを透過型回折格子として使用する場合は、DVDを構成するプラスチックによる吸収スペクトルの影響がかなり出ると思われる。
A白色光から望みの波長の単色光を取り出すことができる装置(いわゆるモノクロメーター)を作り、光の干渉の実験などに使用する。
...この場合は、スリットの上にトレーシングペーパーやメンディングテープを貼る必要はない。
B分光器の中にDVDとCDの両方を入れ、両者によるスペクトルの比較をする。
C観察窓の位置に光を散乱するフィルムを貼り、そのフィルムの上にスペクトルが表示されるように工夫する。
DDVDを切断して中心角30°程度の扇形を切り出す方法の開発
...これができるようになれば、小型の簡易分光器を作ることができる。
E光源として、小型のLEDを3個以上使用し、スリットの部分に並べ、いろいろなLEDのスペクトルを同時に観察することができるようにする。
F赤色と緑色の光を重ねると人間の目には黄色に見える。このような光と黄色のスペクトルのみの光で肉眼では両者の区別がつかないようなものが準備できれば、「肉眼では同じ色(黄色)に見えるのに、スペクトルが違う」実験ができる。...人間の視覚(人間の目の円錐細胞は赤、緑、青に感度をもつものがある)についての説明に使える。
【参考1】CDおよびDVDの格子定数について
CDはトラックピッチが1.6μmで、1mmの幅に625本の溝がついている反射型回折格子、DVDはトラックピッチが0.8μmで、1mmの幅に1250本の溝がついている反射型回折格子とみなすことができます。
(4)白色LEDと光ファイバーを用いた顕微鏡落射照明装置の試作(塚本栄世)
...写真17参照
東急ハンズ等で購入できるプラスチック製の光ファイバー(直径1.0mm、三菱レイヨンの「エスカ」)を13本束ねてビニールホース(外径7.0mm、内径4.0mm)の中を通し、そのビニールホースの端を直径3.0mmの白色LEDにかぶせます。反対側の光ファイバーの先端を顕微鏡の対物レンズと観察対象(今回は電子回路の基板を使用)の間に差し込んで斜め上(かなり水平に近い角度θ=5°程度)から観察対象に光を当てると(落射照明)、反射光によって顕微鏡による観察ができます。まだ試作段階のため、光ファイバーを固定していない(現時点では光ファイバーの先端部を手で持って操作しています)ので、観察対象を安定して見ることができませんが、今後徐々に実用的なものにしていく予定です。
透過光ではなく落射照明による観察に適した観察対象として、植物の葉の裏側にある気孔を挙げることができます。気孔を透過光で観察すると、全体がほぼ透明に見えてしまい、その構造が余りよく分かりません。それに対して、植物の葉の裏側に木工用ボンドに水を混ぜたものを塗ってから乾燥させ、その薄い膜をはがして(「レプリカ」といいます)スライドガラスに貼り付けてから落射照明によって観察すると、気孔の周辺の微小な凸凹の影ができるためその構造がよく分かります。今後、白色LEDと光ファイバーを用いた顕微鏡落射照明装置を使って、この気孔の観察をやってみたいものです。
この装置を試作してみて気づいたことですが、プラスチック製の光ファイバーを切断するときにハサミを使うと断面がギザギザになり、光ファイバーの端面での光の乱反射が生じてしまいますが、カッターで切断すると比較的断面がきれいで光ファイバーの端面での光の乱反射を抑えることができます。インターネットで調べると、光ファイバーを切断する専用の工具が市販されているようです。
例会では、以下のような提案がありました。
・顕微鏡のカバーガラスそのものを光ファイバーの替わりに使用できないか?
・光ファイバーの端面に凸レンズを使用することで、最終的に光をビーム状にできないか?
・白色LEDの光量が充分でないので、超高輝度の白色LEDを使用してはどうか?
(5)クイズ形式のサイエンスショーについての紹介(塚本栄世)...資料1参照
子ども科学館でのサイエンスショーで実験をクイズ形式で進める試みをやってみましたが、それが好評だったので概要を紹介しました。その進め方は、まず実験についての問題を出し、それに対する正解かどうかは分からない一つの答を言います。その答が正しいと思う人は「○」、間違っていると思う人は「×」を出します(予めサイエンスショーを見に来た人全員に表側に○、裏側に×を印刷した長方形の厚紙を渡してあります)。直後にその実験をやって、正解を実験結果で示すというやり方です。この際、説明はほとんどしません。クイズを楽しみながら実験についての予想を立て、その結果を実験によって知るという繰り返しで進めます。親子がワイワイガヤガヤ話しながら、○×を示すことで意思表示し、その結果に一喜一憂する姿はほほえましいものでした。
今回のサイエンスショーに参加した親子の正解率は以下の通りです。
@「木の棒を両手の人差し指で水平に支え、徐々に近づけていくと、2本の指の中間の位置で出会う」
...最初に両手の人差し指で木の棒の両端を水平に支え、2本の指を徐々に近づけていくと必ず棒の中央の位置で出会う実験を行います。次に、以下のように実験の予想を立て、その予想が○か×かを参加者に意思表示してもらいます。
「左手の人差し指は棒の左端から1/3の位置、右手の人差し指は棒の右端の位置にして、2本の指を徐々に近づけていくと最初の2本の指の位置の中央(つまり、棒の右端から1/3の位置)で出会う」
...正解は×(棒の中央部で出会う)、正解率は69%
A〜Fについては、詳細を省略。資料1参照のこと。
A...正解は○、正解率は43%
B...正解は×、正解率は91%
C...正解は×、正解率は77%
D...正解は○、正解率は59%
E...正解は○、正解率は66%
F...正解は×、正解率は53%
(6)資料「CanoSOARus FLYING CAN COOLER TOY」の紹介(塚本栄世)...資料2参照
第99回秦野物理サークルで紹介された「新聞紙で作った飛行リング」の参考資料を紹介しました。18年前、東海大学の菊池先生(秦野物理サークル)を団長として神奈川県と東京都の高校や大学の先生約20名(?)がアメリカ各地の科学博物館を2週間に渡って見学してきたことがありました。そのときに入手した飛行リング(発泡ポリエチレン(?)製の円筒形で、前部が硬質のプラスチック(一種のおもり)になっている)の資料がみつかりましたので、紹介しました。この研修旅行で何人かの方が飛行リングを日本に持ち帰りましたが、その後それを参考にいろいろな人がペットボトルや画用紙等の身近な材料を使って作り、飛行リングが全国的に広まりました。
(7)キューリー夫人のラジウム測定方法について(久保田信夫)...資料3参照
「キューリーの放射線量計測」と題した研究がパワーポイントを使って発表されました。キューリー夫人(マリー・キューリー)がラジウムを発見した当時は、精度の高い測定装置がない時代で、例えば放射性物質が放射する放射線量をどのように検知するかが大問題でした。例えば、現代であればアンプを使用すれば簡単に解決することができる微小な電圧測定をするために光テコを利用したようです。
キューリー夫人は鉱山からピッチブレンド(瀝青ウラン鉱)18トンを入手し、それを1898年〜1902年の4年間かけて精製して計0.1gのラジウムを抽出し(キューリー夫人はポロニウムとラジウムの発見で1911年ノーベル化学賞を受賞、1903年にはキューリー夫妻はアンリ・ベクレルとともに放射能に関する研究によってノーベル物理学賞を受賞)、夫であるピエール・キューリーの発明した象限電圧計(しょうげん でんあつけい)を用いて放射線量の測定を行ないました。象限電圧計は2枚の金属板からなる一種のコンデンサーの極板間に扇形をした第3の金属板を糸でぶら下げ、この糸のねじれを糸に取り付けた小さな鏡の回転によって調べるものです。その詳細は、ラジウムが放出する放射線(α線)によって空気が電離し、その電離した空気の電荷を象限電圧計に与え、その電荷による電圧をピエール兄弟が発見した水晶の圧電効果によって生じる電圧で相殺するもので、極板間の扇形をした第3の金属板をぶら下げている糸のねじれが0になるように水晶に力を加え、その力の大きさを分銅の質量を測定することによって求めます。天秤による質量の測定は6桁程度の測定精度があるため、象限電圧計(光テコを利用)、圧電素子である水晶、質量測定用の分銅と天秤を組み合わせたこの「放射線量精密測定システム」は高い精度を持ちます。
例会では、0.1gのラジウムから放出されるα粒子によって空気が電離され、その電荷によって象限電圧計に流れる電流の値に関する以下の計算が紹介されました。
ラジウム1gから放出される放射線量は1Cr(キューリー)であるが、これをBq(ベックレル)の単位に換算すると、
1[Cr]=3.7×1010[Bq]
なお、1[Bq]とは、原子核が1秒間に1回の割合で崩壊するときの放射能の強さを表す。
Ra224、Ra226 1個から放出される放射線量はそれぞれ5.78MeV、4.87MeVなので、Ra1個あたりの平均を5.3MeVとすると、空気分子1個を電離するのに必要なエネルギーが34eVであることから、1個のRa原子核の崩壊によって電離される空気分子の数は
5.3×106/34=1.6×105個となる。
α線による空気の電離によって、α粒子1個あたり電子4個分の電荷が生じるので、0.1gのラジウムが原子核崩壊する際に放出されるα粒子によって電離される空気中に生じるイオンの電荷は1秒間あたり
0.1×3.7×1010×1.6×105×4×1.6×10−19=3.78×10−4[C]
となる。
空気の電離によって1秒間に生じる電荷が3.78×10−4[C]だから、回路に流れる電流は
3.78×10−4[A]=378 [μA] =0.378 [mA]
となる。
キューリー夫人(マリー・キューリー)がラジウムを発見することができたのは、18トンものピッチブレンドを長時間かけて精製し、最終的に0.1gのラジウムの抽出に成功し、そのため象限電圧計に充分測定可能な電圧をかけることができたためであろうとのこと。
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒259−1142 神奈川県伊勢原市田中1008−3
神奈川県立伊勢原高等学校 塚本栄世
TEL:0463−95−2578
FAX:0463−96−2558
【5】次回例会(第100回秦野物理サークル)について
9月25日(土)14:00〜17:00 伊勢原子ども科学館
なお、今年度の例会の日程は以下の通りです。
・11月27日(土)第102回例会 14:00〜17:00
・1月22日(土) 第103回例会 14:00〜17:00
・3月26日(土) 第104回例会 14:00〜17:00
例会の会場はいずれも伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
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