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例会の様子
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第102回秦野物理サークル
2011.1.17.発行
第102回秦野物理サークル報告
日時:2010年11月27日(土)14:00〜16:30
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:岩瀬充璋(神奈川大学)、倉田慎一(教育センター)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(伊勢原高校)、深津貴志(伊勢原子ども科学館)
計6名
【1】発表項目
(1)ころがる(鈴木孝雄)...写真1〜写真5参照
(2)光通信用の光ファイバー・ケーブルの紹介(岩瀬充璋)...図1、写真6〜写真9参照
(3)pH指示薬「チモールフタレイン」の紹介(塚本栄世)...写真10〜写真13参照
(4)クーロンメーターの製作(追試、2回目)(塚本栄世)...写真14〜写真18参照
(5)酸化・還元の実験(塚本栄世)...資料1、図2参照
(6)「鉛筆電池」(塚本栄世)...資料2、写真19〜写真24参照
【2】発表内容
(1)ころがる(鈴木孝雄)...写真1〜写真5参照
(写真1)のように、断面が円筒形のドリンク用のガラス瓶(色は褐色)を側面が接するように机の上に置き、そっところがすと、30〜40cmころがった後、一瞬静止してから逆向きに引き返してきて、再度一瞬静止してから元の運動の向きにころがり、...という周期1〜2秒程度の往復運動(一種の振動現象とみてよいか?)が起きます。このころがりの往復運動は結構長い時間続き、振幅が小さくなりながら5〜6回は往復運動します。
ガラス瓶を机の上でころがすと、少しころがった後静止してしまうだろうという予想に反して往復振動が起きることは意外です。ガラス瓶は厚さが一様でないからこのような現象が起きるのだろうと解釈すると、厚さが一様なパイプをころがせばこのような現象が起きないはずであると予想されますが、そのことはまだ確かめていません。ただ、ビールのアキ缶(写真2参照、周期3秒程度の往復運動)やペットボトルを輪切りにしたもの(写真3参照、周期2秒程度の往復運動)のように、かなり対称形に近いものをころがしても同様の現象が起きます。また、(写真4)のように味噌汁などを入れるための木のお椀を斜めにして机の上に置いて、ゆっくりところがした場合も往復運動をします。
また、(写真5)のようにペットボトルを輪切りにしたものの内側に意図的に軽いおもりを貼り付けて机の上でころがすと、おもりを貼り付けてないものに比べて往復運動の周期が短くなります(例会で紹介されたものの場合、周期1秒程度の往復運動になりました)。従って、逆に考えると、対称性のいいものほど往復運動の周期が長くなると思われます。
今後この現象をさらに詳しく検討するためには、円筒形の側面に回転角が分かるように線を記入し、その運動をビデオカメラで撮影してから、スロー再生して解析を進める必要がありそうです。また、断面の形状が理想的な円形で厚さが一様なパイプをころがした場合は、往復運動することなく、徐々に回転が遅くなってやがて静止すると予想されますが、実験によってそのことを確認する必要があります。
(2)光通信用の光ファイバー・ケーブルの紹介(岩瀬充璋)...図1、写真6〜写真9参照
自宅のパソコンの通信速度を上げるため、光通信用の光ファイバーを取り付ける工事を業者にやってもらった際に余った光ファイバー・ケーブルの切れ端(写真6参照)をもらったとのことで、その光ファイバー・ケーブルが紹介されました。
まず、光ファイバー・ケーブル全体を(図1)のDの部分とA、B、Cの部分に大きく2つに分けて考えることができます。A、B、Cの部分は一体になっていますが、Dの部分は補強用の金属線で、指で簡単にA、B、Cの部分から離すことができます。今回の例会に参加した人の中に光通信用の光ファイバー・ケーブルの実物を見た経験のある人は一人もいないため、実際の光ファイバー・ケーブルの断面(写真7、写真8参照)のどの部分が光ファイバーであるのかがよく分かりません。(図1)のBの部分がおそらく光ファイバーであると思われますが、A、Cの部分の材質が何であり、どのような役割を持っているのかがよく分かりません。
Bの部分が光ファイバーであるとすれば、この部分に光を入射させれば反対側の端面から光が出てくるはずです。ところが、Bの部分にレーザー・ポインターの赤色光を入射させても、反対側の端面から赤色の光が出てくることがありません(写真9参照)。Bの部分の断面積が余りにも小さいために反対側の端面から赤色の光が出てきても気づかないのかもしれません。実際の光通信には赤外線が使われているようですが、光ファイバーは石英でできているので可視光に対して透明であるはずです。従って、光ファイバーの部分に赤色レーザーの光を入射させれば反対側の端面から赤色の光が出てくるはずですが、実際にやってみると、そのようなことがありません。現時点では、その原因は不明です。光ファイバーの原理については理解しているつもりでも、実際の光通信用ケーブルとなると勝手が違い、よく分かりません。今後の課題です。
(3)pH指示薬「チモールフタレイン」の紹介(塚本栄世)...写真10〜写真13参照
チモールフタレインというpH指示薬は変色域がpH9.3〜10.5であり、中性の状態から塩基性に変化させていくとかなり塩基性の領域で、無色透明から青色に変化します。このチモールフタレインを50mLのビーカーの中でエタノールに溶かし、モル濃度0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を一滴入れると無色透明だった溶液が一瞬にして青色になります。この状態でストローで息を吹き込むと5秒程度の時間で溶液の色が青色(写真10参照)から無色透明(写真11参照)に変化します。このような現象が起きる理由は、息を吹き込むときに二酸化炭素を溶液に溶かすことになるので炭酸が生じ、水酸化ナトリウム水溶液による塩基性を中和するためです。また、この後、水酸化ナトリウム水溶液を一滴入れると青色に戻ります。息を吹き込むと無色透明 → 水酸化ナトリウム水溶液を一滴入れると青色 → ......と何度も繰り返すことができます。息を吹き込むだけでみるみるうちに色が変化するので、印象的な実験です。
例会では、ティッシュペーパーに青色になった状態の溶液をかけて時間がたつにつれて色がどのように変化するか実験してみました。青色の溶液をかけてから色の変化を観察すると、徐々に青色が薄くなり、約10秒たつと、青色だった部分(写真12参照)がティッシュペーパーの元の色(白色...写真13参照)に戻りました。このような現象が起きるのは、ティッシュペーパーはセルロースの繊維が集まったもので表面積が大きく、その繊維の表面をおおっている溶液に空気中の二酸化炭素が短時間で溶け込んでいくためであると考えられます。また、例会では、この実験について以下のような指摘がありました。
@0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液のpHは13とかなり強い塩基であり、目に入ると危険なのでこの実験をやるときには必ず安全眼鏡をかける必要がある。
A青色の状態でドライアイスを入れると、瞬間的に無色透明になるのでは?
(4)クーロンメーターの製作(追試、2回目)(塚本栄世)...写真14〜写真18参照
前回の例会で、「よせなべ物理 NO.289 2009.9.13.」の中で紹介されていた「デジタルクーロンメーターの製作 上尾橘高校 青木光男」の追試が紹介されましたが、電荷の測定値が余り正確ではなかったため、その原因について検討しました。そのときに、「アースをしっかりとらないことが原因ではなかろうか?」という指摘がありました。
そこで、今回の例会では、水道管にデジタルクーロンメーターのアース端子を接続するようにして再度同様の実験を行ないました。実際には、水道管の蛇口の部分を金属製の目玉クリップではさみ、その目玉クリップに→蓑虫クリップ付リード線→テーブルタップ付延長コード→蓑虫クリップ付リード線 と接続したものからアースをとって(写真14〜写真17参照)前回と同様に実験しました。2回直角方向に折りたたんだ台所用のアルミホイル(15cm×20cm程度の大きさ)をデジタルクーロンメーターに接続し、このアルミホイルに帯電棒を近づけると、その帯電棒の帯電量がデジタルクーロンメーターの液晶画面に表示されます。例会で実験した例では、ティッシュペーパーでこすったアクリル棒(+に帯電)を近づけたとき+32.0nCの値、遠ざけたとき+0.02nCの値を示し、ティッシュペーパーでこすった塩ビ・パイプ(−に帯電)を近づけたとき−30.7nCの値、遠ざけたとき−0.51nCの値を示しました。前回の例会で実験したときには、帯電棒を遠ざけたときの値が実験するごとにかなり変動してしまい、信頼性に欠けていたのですが、アースをしっかりとることでそのようなことがなくなりました。精密な測定をするためにはアースが重要であることを再認識しました。
また、今回の例会では、金属製の傘の骨(長さ25cm程度)を使って以下のような静電誘導の実験を行ないました。デジタルクーロンメータに接続したアルミホイルの5mm程度上に傘の骨の先端部が来るように水平に固定し(写真18参照)、傘の骨の反対側の端に+に帯電したアクリル棒を近づけると、傘の骨のアクリル棒に近い側には−の電荷、遠い側には+の電荷が誘導されます。実験した結果、遠い側に誘導された電荷の測定値は+6.4nCでした。なお、アクリル棒を傘の骨から遠ざけたときの値は+0.21nCでしたので、ほぼ元の状態(0nC)に戻っています。従って、この安価なデジタルクーロンメーターを使用して静電誘導の実験を行なうことができることが分かりました。
なお、今回は子ども科学館の実験室の水道の蛇口からアースをとりましたが、「今の水道管は昔のような金属管ではなく、塩ビ・パイプが使われていると思われ、従って、今回の実験では理想的なアースをとったことにはならないのではないか?」との指摘がありました。一通り実験が終わった後、周囲をよく見ると、水道の蛇口のすぐ近くの壁にアース端子があることに気づきましたが、時間不足のため今回はこのアース端子を使った実験はやりませんでした。また、このデジタルクーロンメーターを使った生徒実験を物理実験室や普通教室で行なうとき、10班分のアースをどのようにしてとればよいかについて議論しましたが、「黒板をアースの替わりに使えないか?」とか「大きな金属製の物体をアースとして使えないか?」との提案がありましたが、実験する時間はとれませんでした。
(5)酸化・還元の実験(塚本栄世)...資料1、図2参照
酸化・還元の本質は電子のやり取りであることを示す印象的で分かりやすい実験がないものかとインターネットで調べた結果、みつけた実験(授業の中でも生徒実験として実施)の紹介です。(図2)のようにシャーレを2個使いますが、一方(シャーレAと名づける)にはヨウ化カリウム水溶液にでんぷんを加えたもの(相手に電子を与える還元剤としてはたらく)を入れ、他方(シャーレBと名づける)には過酸化水素水と希硫酸を混ぜたもの(相手から電子を奪う酸化剤としてはたらく)を入れ、両者を硝酸カリウム水溶液をしみこませたろ紙(「塩橋」としてはたらく)でつなぎます。次に、電圧計の+側端子と3Vの−側端子それぞれにリード線を介して炭素棒をつなぎ、その2本の炭素棒を2個のシャーレの中に入れると、ヨウ化カリウム水溶液にでんぷんを加えたシャーレAのろ紙の周囲が無色透明から褐色に変化します。これはヨウ素イオンI−が電子を放出し、ヨウ素I2に変化するためです。このときの化学変化は以下の通りです。
+側 ... H2O2+2H++2e− → 2H2O ...(シャーレB) @式
−側 ... 2I− → I2+2e− ...(シャーレA) A式
なお、このとき電圧計は0.34Vの値を示します。
例会では、塩橋のはたらきについていろいろ議論しましたが、+側のシャーレBの中で@式の陽イオンH+が消費されて陰イオンとのバランスが崩れると、硝酸カリウム水溶液をしみこませた塩橋の中から陽イオンであるカリウムイオンK+が供給され、−側のシャーレAの中でA式の陰イオンI−が消費されて陽イオンとのバランスが崩れると、塩橋の中から陰イオンである硝酸イオンNO3−が供給されることによって、2個のシャーレに入っている水溶液の電位が等しく保たれているということのようです。
(6)「鉛筆電池」(塚本栄世)...資料2、写真19〜写真24参照
2年生化学T電池分野の授業の中でボルタ電池、ダニエル電池の実験をやり、その後何か電池に関するよい実験がないものかと検討していたときに、約10年前に実験したことのある「鉛筆電池」の実験(北海道の杉山剛英先生が開発した実験)を思い出し、電池分野の発展実験としてやってみました。生徒が実験したときの様子から、分かりやすく印象深い実験であり、燃料電池の基本を理解する役に立ったと言えると思います。
「鉛筆電池」の実験を行なう前に実施したボルタ電池はシャーレの中に亜鉛板、銅板、希硫酸を入れて製作し、電圧の測定をした後、電池であることを確認する意味で電子メロディーを鳴らしたり、太陽電池用のモーターを回したりしました。一方、ダニエル電池はセロハンでシャーレを上下二層に仕切ることで、亜鉛板と硫酸亜鉛水溶液、銅板と硫酸銅水溶液の組み合わせによって製作しました。いずれも、発生する電圧は1.1Vですが、ボルタ電池は銅板の表面に発生した水素による分極の結果、電圧の値はすぐに0.4〜0.5V程度に低下してしまいます。それに対して、ダニエル電池は短時間で電圧が低下するようなことはありません。生徒たちは「鉛筆電池」の実験を実施する前に、以上のような実験を実施済でした。
「鉛筆電池」の実験をするために必要なものは、鉛筆2本(両端を鉛筆削りで削って芯を出し、2本の鉛筆の間に半分程度の長さに切った割り箸をスペーサーとしてはさんで輪ゴムで固定します...写真19参照)、食塩、006-P(9Vの乾電池)、電子ブザー、500mLペットボトル、割り箸であり、006-P、電子ブザー以外は生徒にとって身近なものです。また、実験そのものも非常に簡単で、500mLペットボトルの上部を切り取ったものに3/4程度水道水を入れ、両端を削って芯を出した鉛筆2本を入れ、006-Pの+極、−極を2本の鉛筆の芯に押し当てて20秒間充電(写真20参照)してから、006-Pを外し電子ブザーを押し当てるとほんの一瞬(0.5秒程度)小さな音が出ます(写真21参照)。次に、水道水の中に食塩を大さじ1杯程度入れてから割り箸でかき混ぜて食塩水を作り、同様の実験を行ないます(006-Pを2本の鉛筆の芯に押し当てて5秒間充電してから、006-Pを外し電子ブザーを押し当てると20秒間程度大きな音が出ます)。上記の実験を行なうときに充電後の「鉛筆電池」の電圧を測定したところ、水道水のときは0.2V、食塩水のときは1.7Vの電圧が発生していました。また、食塩水を使用したときには充電中に鉛筆の芯からさかんに泡が出ます(写真22参照)。それに対して、水道水を使用したときには、1分程度充電するとかすかに泡が発生します。LEDが点灯するかどうか試したところ、水道水を使用したときには点灯しませんでしたが、食塩水を使用したときには5秒間充電してから、006-Pを外しLEDを押し当てると25秒間点灯しました。
ところで、充電中に鉛筆の芯の表面で発生した気体が何であったか考えてみると、水道水を使用して006-Pを使って充電したときに鉛筆の芯の表面で発生した気体は正極側では酸素O2、負極側では水素H2であると考えられます。それに対して、食塩水を使用して充電したときに発生する気体は正極側では塩素Cl2、負極側では水素H2であると考えられます(詳細は資料2参照)。
実際の授業の中では、以上の実験を行なう前に、食塩水と備長炭を使った手作り電池を手回し発電機で充電する演示実験を行いました(写真23参照)。まず、2Lのペットボトルの上部を切り取り、液体を入れるための容器を作ります。この中に食塩水を入れ、電極として備長炭2本を食塩水の中に離して入れてから、たこ糸とガムテープでこの容器に固定します。これで手作り電池のでき上がりです。次に、2本の備長炭の上部先端を目玉クリップではさみ、この目玉クリップに手回し発電機を接続して50回程度発電機を回して充電し、発電機を取り外してからプロペラを取り付けた太陽電池用モーターをつなぐとモーターが勢いよく回ります(写真24参照)。
この手作り電池を作るために使った備長炭は電気を流す性質を持った木炭で、バーベキュー等に使う普通の炭とは違うことを示す必要があり、電子ブザーと赤色LEDを並列接続したものに単三乾電池2本(3.0V)を接続した回路を作り、回路の途中を切って、その部分に備長炭を挟んだ場合と普通の炭を挟んだ場合の違いを示す方法をとりました。その結果は、備長炭を挟んだ場合は電子ブザーが鳴り、赤色LEDが点灯しますが普通の炭を挟んだ場合はそのようなことがありません。
また、備長炭についての余話として、この手作り電池を作るために使った備長炭は焼き鳥屋等で煙が出ない木炭として重宝がられていて、非常に硬く、2本の備長炭を軽く叩き合わせると金属音が聞こえることや、また、普通の炭は400℃〜500℃の低温で木を蒸し焼きにして作るのに対して、備長炭はウバメガシのような緻密で硬い木を最終的には1000℃以上の高温で蒸し焼きにしてから急激に冷やす方法で作り、そのため、黒鉛の結晶構造が木炭の組織の中に生じて電気を流すこと等を説明しました。
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒259−1142 神奈川県伊勢原市田中1008−3
神奈川県立伊勢原高等学校 塚本栄世
TEL:0463−95−2578
FAX:0463−96−2558
【5】次回例会(第103回秦野物理サークル)について
1月22日(土) 14:00〜17:00 伊勢原子ども科学館
なお、今年度の例会の日程は以下の通りです。
・3月26日(土) 第104回例会 14:00〜17:00
例会の会場は伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
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