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第104回秦野物理サークル
                                 2011.5.23.発行
第104回秦野物理サークル報告

日時:2011年3月26日(土)14:00〜17:00
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:稲葉一弘(伊勢原子ども科学館)、岩瀬充璋(神奈川大学)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(綾瀬西高校)
                                  計5名

【1】発表項目
(1)乾燥した紫キャベツによるpHの実験(鈴木孝雄)...写真1、写真2参照
(2)水中にアルカリ乾電池を直接投入することによる電気分解の実験(鈴木孝雄)
   ...写真3〜写真5参照
(3)水道水を熱することによりpHの変化を調べる実験(鈴木孝雄)...写真6、写真7参照
(4)朝日新聞の3Dメガネを用いた立体視について(岩瀬充璋)...写真8、写真9参照
(5)(株)ナリカの会社創設時のカタログ紹介(志村潤子)...写真10〜写真16参照
(6)ヘルツの理論による「すっとびボール」の衝突時間の計算(塚本栄世)...資料1参照
(7)酸、アルカリの中和反応を電球で調べる実験(塚本栄世)
   ...写真17、写真18参照
(8)DVDを反射型回折格子として用いた簡易分光器による色フィルターの実験(塚本栄世)
   ...写真19〜写真28参照
(9)津波、原子力発電についての情報交換

【2】発表内容
(1)乾燥した紫キャベツによるpHの実験(鈴木孝雄)...写真1、写真2参照
 最初にビニール袋に入った黒いもの(写真1参照)を見せられて「これはなんだと思いますか?」と聞かれ、ほとんどの人が炭を連想(きくらげの炭化したものと答えた人もいました)してしまいましたが、実は乾燥した紫キャベツでした。1〜2ヶ月前に実験に使うつもりで紫キャベツの一番外側の葉っぱを取っておいたのを忘れてしまい、気づいたときには真っ黒になっていたとのこと。これを一晩水に浸けておいたところ、(写真2)のようにきれいな紫色の液体が得られました。おそらく紫色の色素であるアントシアニンが水に溶け出したものでしょう。この紫色の抽出液を使って、(2)、(3)の実験でpHの変化を調べようということです。
 今回のことで、紫キャベツの葉は乾燥した状態で保存することが可能であり、また、ナス等にも含まれているアントシアニンを抽出するために普通は塩酸やメタノールを使うそうですが、水で充分抽出することができることが分かりました。
(2)水中にアルカリ乾電池を直接投入することによる電気分解の実験(鈴木孝雄)
   ...写真3〜写真5参照
 まず、試験管に少量の食塩を入れ、水道水を加えて食塩水をつくります。次に、その食塩水にフェノールフタレイン水溶液を1〜2滴入れてから、その試験管の中に単三アルカリ乾電池
を直接入れます(このとき、−極が上になるようにします)。なんと水中にアルカリ乾電池を直接投入することによって電気分解の実験をやろうという試みです。しばらくたつと(約30秒後?)、泡が発生してくる(写真3参照)と同時に、乾電池の上に赤色の部分が生じてきます。乾電池を投入してから2分後には、乾電池の上部の水全体が赤色になりました(写真4参照)。このような変化が起きる理由は、以下のように水中のH+が乾電池の−極から電子を受け取るためH2に変化し、
 2H++2e− → H2
その結果、乾電池の−極の上の水中に入っているH+が減る(つまり、相対的にはOH−が増えることに相当する)ので、乾電池の上部の水が塩基性になり、水が赤色になる(pHが8.3以上のときフェノールフタレインは赤色に呈色)と考えることができます。
 フェノールフタレイン水溶液の替わりに(1)の実験で使用した紫キャベツの葉を一晩水に漬けた紫色の抽出液を使って同様の実験を行なったところ、フェノールフタレイン水溶液ほど敏感ではありませんが、乾電池を投入してから1分後には乾電池のすぐ上の部分が緑色になり(写真5参照)、5分後には乾電池の上部の水全体が緑色になりました。
 上記の実験のどちらにも言えることですが、+側では塩素が発生していると思われます。しかし、今回はその観察をするための特別の工夫はしていません。乾電池の+側の下につまようじでもはさんでおけば塩素ガスが発生する様子や塩素による変色が分かるのではないかとの指摘がありました。
 なお、この実験でアルカリ乾電池を使う理由は、マンガン乾電池に比べアルカリ乾電池の防水性が格段にいい(乾電池の中に入っている危険なアルカリが外に漏れると危険であるため、乾電池のシール性を非常によくしてある)からだそうです。
(3)水道水を熱することによりpHの変化を調べる実験(鈴木孝雄)...写真6、写真7参照
 試験管の中に高さ3〜4cm程度の水道水を入れ、その中にフェノールフタレイン水溶液を一滴垂らしてから、ガスバーナーの炎でおだやかに熱します(この操作によって、水中に溶けていた二酸化炭素が出ていく)。ただこれだけの操作で水の色が無色から赤色に変わります(写真6参照)。次に、この赤色に変わった水の入った試験管の外側に水道水を流して冷やしてから、試験管上部の縁の部分に斜めに息を吹きつけて「ピーッ」という共鳴音を鳴らすようにして二酸化炭素を吹き込み、試験管を軽く振るということを2〜3回繰り返すと、試験管の中の水の色が徐々に無色に戻ります。上記の現象を化学反応式で表わすと、
 2HCO3− → CO3−+H2O+CO2
と表わすことができます。つまり、水道水をガスバーナーの炎でおだやかに熱すると、水道水の中に50ppm程度の濃度で含まれている炭酸水素イオンHCO3−がCO3−、H2O、CO2に変化しますが、水道水を熱することによって水中に溶けている二酸化炭素が出ていきます(このときフェノールフタレイン水溶液の入った水が塩基性になって赤色に呈色します)。次に、この水道水を冷やしてから二酸化炭素を吹き込んで溶かしていくと元の状態に戻って無色に戻ります。
 上記の実験をフェノールフタレイン水溶液の替わりに(1)の紫キャベツの色素を含む水溶液で行なうこともできて、紫色→青色(写真7参照)→紫色...と色が変化します。
(4)朝日新聞の3Dメガネを用いた立体視について(岩瀬充璋)...写真8、写真9参照
 数ヶ月前、朝日新聞に3Dメガネ(写真8参照)がついてきて、その3Dメガネを使って立体視することができる写真がときどき新聞紙上に掲載されているとのことで、3Dメガネと立体視用の写真が紹介されました。紹介された新聞掲載写真は金魚の写真(写真9参照)で、赤色の金魚が青い水の中で泳いでいます。3Dメガネをかけてこの立体視用の写真を見ると、赤色の金魚が手前にとび出して見え、びっくりするような迫力です。波長の長い赤色が手前にとび出して見え、波長の短い青色が奥に引っ込んで見えます。なお、この3Dメガネには「American Paper Optics」と書かれています。
 3Dメガネが微細なプリズムの集合からなるのか、回折格子なのかが今のところ分かりません。立体視にはいくつかの方式があり、今後それらについてまとめてみようということになりました。
(5)(株)ナリカの会社創設時のカタログ紹介(志村潤子)
   ...写真10〜写真17参照
 (株)ナリカの会社創設時(その当時の会社名は中村理化器械店、その後、中村理科工業(株)、さらに(株)ナリカに変更)のカタログが紹介されました(写真10参照)。紹介されたカタログの中で一番古いものは昭和14年3月19日に印刷されたもので、「中村理化器械店 東京市神田区○住町四番地 中村久助」と書かれています(中村久助は創設者の名前です)(写真11参照)。
 この時代はまだ写真が使われておらず、カタログに記載されている図はすべて手書きのイラストです。表紙の図は人間の目の断面図で、メガネをかけて矯正している図(写真10参照)のようです。ただ、図は古風ですが、ホフマン型電気分解装置(写真12参照)、ウィムズハーストの起電機(写真13参照)、電気盆、絶縁台(写真14参照)、真空鐘、電子線に関する一連のガラス製実験装置(写真15参照)、...と最近のカタログにも記載されているものが多いという印象でした。
 戦時中および終戦直後のカタログはなく、1962年(昭和37年)から再開。そのカタログでは手書きのイラストばかりでなく、新製品を白黒写真で紹介しています。カタログの中で紹介されている電話機は受話器(耳に当てる部分)がコードで本体とつながっている懐かしいタイプです(写真16参照)。
 1976年発行のカタログでは写真がカラーになっています。時代を反映してカタログには関数電卓が記載されています。また、カタログの写真はあちこち切り取った跡があります。この時代は、写真をデジタルデータとして扱う技術がなく、写真が必要なときはカタログから切り取るしかなかったそうです。また、アメリカに販売店ができてからは海外向けのカタログも作られました。会社のカタログにも時代が反映されていて、興味深いものがあります。
(6)ヘルツの理論による「すっとびボール」の衝突時間の計算(塚本栄世)...資料1参照
 ヘルツの理論によれば、2つの球を押し付けあうと接触部が円形の平面になり、その面積の大きさによってどのような力が加わっているか計算することができます。また、衝突時間の計算も可能です。この理論に沿って衝突時間を計算してみたところ、2個の球の衝突時間は約3.8msとなり(詳細は資料1参照)、第89回秦野物理サークル例会(2008.9.27.実施済)で紹介した理化学協会総会(神奈川大会)(2008.8.8.実施済)で発表済の「質量の異なる弾性体の連続衝突に関する研究」(平成21年度 日本理化学協会賞受賞)の測定結果(2個の球の衝突時間は約5ms)とほぼ一致しました。
(7)酸、アルカリの中和反応を電球で調べる実験(塚本栄世)
   ...写真17、写真18参照
 酸、アルカリの中和反応を電球で調べる実験は以下のような手順で行ないました。2Lのペットボトルの下半分を容器として使い、その中に約50mLの水道水を入れてから、電極である2枚の銅版を水道水の中に浸るようにして取り付けます。この容器に100V、60Wの電球を直列接続してAC100Vのコンセントにつなぎます。この状態では電球は点灯しませんが、この水道水の中に0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を1mLのピペットで9回入れると、電球がほんのりとオレンジ色に点灯し(写真17参照)、さらに2回入れるとかなりはっきりとオレンジ色に点灯します。次に、0.1mol/Lの塩酸を1mLのピペットで4回入れると電球が少し暗くなり、さらに8回入れると電球がほぼ消えてしまいました(写真18参照)。
 実験のねらいとしては、酸や塩基を含む水溶液はそれぞれ水素イオンH+、水酸化物イオン
OH−を含むので電流を流しますが、それらが中和した状態ではH+、OH−が打ち消しあってH2Oとなるため電流を流さなくなるはずだという単純なものでした。ところが、化学専門の方から見れば、この現象はH+、OH−、Cl−、Na+およびそれらが水和したものが関係した複雑な現象で、「輸率(ゆりつ)」についての定量的な考察が必要だそうです。
 つまり、水酸化ナトリウム水溶液と塩酸の中和反応が起きても、水酸化ナトリウム水溶液の中に含まれるナトリウムイオンNa+(およびその水和したもの)、塩酸の中に含まれる塩化物イオンCl−(およびその水和したもの)が水溶液の中に残っている限り回路に電流が流れるはずで、中和反応によって電球が消えてしまうという予想はできないようです。従って、水酸化ナトリウム水溶液と塩酸の中和反応によって回路に電流が流れなくなる現象が起きるということは、Na+、Cl−に比べてH+、OH−の輸率がかなり大きいはずであるとのこと。
 例会では、以下のようなさまざまな指摘がありました。
・電球の明るさで電流の大小を示すのは分かりやすいが、同時に電流値も測定した方がよい。
・回路に流れる電流の大小を電球の明るさで示す実験としてよくやられているのは塩化ナトリウムのような電解質の場合は電流が流れるが、ショ糖のような非電解質の場合は電流が流れないことを示す実験である。
・Na+、Cl−が電流に寄与しないのは、Na+、Cl−が水和していて、水中で動きにくいためであると考えられる。
・電極付近には+、−のイオンによる電気二重層ができている。50HZの周波数で+、−が入れ替わるということは、電極付近のイオンの状況が50HZの周波数に追いついて変化できる、つまり、その速さで酸化と還元が入れ替わるということで、水中でのイオンの動きがどのようになっているのか興味深い。
【参考】「輸率(ゆりつ)」について
 輸率とは電解質の溶液に電流を流した際に、ある特定のイオンが担った電流の全電流に占める割合のことである。溶液に電場をかけた場合のイオンの動きやすさ(易動度)はイオンの溶液中での大きさによって決まり、大きなイオンほど粘性抵抗が大きい。逆に、動きやすいイオンは大きな電流を担うことになり、輸率が大きい。
(8)DVDを反射型回折格子として用いた簡易分光器による色フィルターの実験(塚本栄世)
   ...写真19〜写真28参照
 第101回秦野物理サークル(2010.9.25.実施)で、DVD−Rを熱で中心角45°の扇形に切ったものを反射型回折格子として使用した裏が黒い工作用紙で製作した簡易分光器を紹介しました。その簡易分光器は幅6cm、高さ17cm、おくゆき23cmの直方体の箱で、箱の上面で後から8cmの位置に横幅3cmの単スリット(スリット幅は約1mm)を作り、その上から乳白色のトレーシングペーパーをセロテープで貼り付け、その真下に下から2.5cmの高さの位置に扇形のDVD−Rを反射型回折格子として固定したものです。今回は、その簡易分光器を使って色フィルターを用いた実験を行いました(写真19参照)。
 色フィルターを使わない状態で、箱の上部の単スリットの上に電球型蛍光灯(Nationalパルックボール EFT14EDG、14W...白熱球60W相当の明るさ、三波長型昼光色、パルックday色、全光束750ルーメン 蛍光灯を直接見ると白色に見える)を置いて、簡易分光器前面の覗き窓から反射型回折格子を見ると、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色の連続スペクトルと何本かの線スペクトルが見えます(写真20参照)。それに対して、例えば赤紫色の透明プラスチック板を単スリットと電球型蛍光灯の間に挟んで、そのスペクトルを観察すると、白色光の連続スペクトル(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)のうち、橙、黄、緑、青、藍色がなくなり、両端の赤と紫だけが見えます(写真21参照...左半分は赤紫色のフィルターを透過した光のスペクトル、右半分は白色光のスペクトル)。つまり、赤紫色は白色光の連続スペクトルの両端の色である赤色と紫色の光が混ざった色で、自然の光の中には元々含まれていない色、いわば人間の脳で作り上げた人工の色です。
 赤色のセロハンをフィルターとして使用した場合、その透過光のスペクトルは白色光の連続スペクトル(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)のうち、橙、黄、緑、青、藍、紫色の光がフィルターによって吸収され、赤色の光だけが見えます(写真22参照...左半分は赤色セロハンを透過した光のスペクトル、右半分は白色光のスペクトル)。それに対して、青色のセロハンをフィルターとして使用した場合、白色光の連続スペクトル(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)のうち、赤、橙、黄色の光はカットされますが、緑、青、藍、紫のスペクトルが観察されます(写真23参照...左半分は青色セロハンを透過した光のスペクトル、右半分は白色光のスペクトル)。さらに、緑色セロハンの透過光には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色のすべての色が含まれ、緑色が他の色に比べて少し強いというだけです。つまり、赤色セロハンに比べ、青色セロハンや緑色セロハンの透過光は余り単色性がよくないことが分かります。
 また、黄色のセロハンをフィルターとして使用した場合、白色光の連続スペクトル(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)のうち、紫色の光だけがカットされ、残りの赤、橙、黄、緑、青、藍、紫のスペクトルが観察されます(写真24参照...左半分は黄色セロハンを透過した光のスペクトル、右半分は白色光のスペクトル)。つまり、紫色の補色が黄色であることが一目瞭然です。
 また、写真用ゼラチンフィルターである「BPB45」(青色の光だけを透過させる...「BPB45」は450nmの光だけを透過するという意味、実際にはある程度の幅がある)の透過光のスペクトルは青色のみで、他の色の光をすべてカットしている(写真25参照...左半分は「BPB45」を透過した光のスペクトル、右半分は白色光のスペクトル)ことが分かり、青色セロハンに比べて、極めて単色性がよいことが分かります。つまり、透過光の単色性という面を考えると、同じ色セロハンであっても、青色セロハンに比べて赤色セロハンの単色性が極めてよいと言えます。従って、安価な単色光源として白色光と色セロハンを使って実験する場合は赤色セロハンを使用するのは問題ありませんが、青色セロハンや緑色セロハンを使用するときはその単色性の悪さを充分考慮して使用する必要があります。
 例会では、色フィルターの実験の関連で、赤色レーザーポインターの赤色の光(波長は650nm)と電球型蛍光灯の白色光を同時に簡易分光器に入射させると、白色光の連続スペクトル(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)の赤色の部分(肉眼で見ると少し暗い赤色に見える)に鋭い赤色の小さいスポットが見え(デジタルビデオカメラで撮影しながら、その映像をテレビ画面に映しながら観察すると、白いスポットとして見える...写真26参照)、レーザー光の単色性が極めてよいことがよく分かります。
 また、簡易分光器を使用しない実験ですが、赤色レーザーポインターの赤色の光を赤色のプラスチック製下敷き2枚を重ねたものに照射しても、ほとんど光が弱まることがない(写真27参照)のに対して、緑色のプラスチック製下敷き1枚に照射するとレーザーの赤色の光は完全にカットされてしまいます(写真28参照)。レーザー光の単色性と色フィルターのはたらきを際立たせる実験としてインパクトがあります。
 その他、例会では以下の指摘がなされました。
@裏が黒い工作用紙を使った簡易分光器をもっと小型化する。
A光源として、懐中電灯(白熱電球)、蛍光灯、レーザーポインター、LED(白色、赤色、緑色、青色 等)を用いた比較実験を行い、スペクトルの違いから光源の違いを明確に説明する一連の実験を実施する。
B各種色フィルターをもっと扱いやすいものにするよう工夫する。
 ...異なる色フィルターを半分ずつあわせて1枚のフィルターにしたものを製作し、色フィルターのはたらきを同時に比較することができるものを工夫する。
(9)津波、原子力発電所で起きた事故についての情報交換
 3月11日(金)午後2時46分、東北および関東地方に強い地震が起き(震源地は三陸沖 宮城県牡鹿半島の東南東約130kmの位置で、深さは約24km マグニチュードは9.0)、その後東北地方の沿岸部を大津波(最大の波高は37m)が襲いました。そのために、多くの方が亡くなりました。また、その津波は午後3時30分頃福島第1原子力発電所を襲い、非常用電源も含めて全電源が津波で使用できなくなり、原子力発電所の冷却機能が完全にストップするというとんでもないことが起きてしまいました。そのため、その後福島第1原子力発電所ではメルトダウンや水素爆発等が次々と起き、放射性物質を大量に空気中や海中に撒き散らす結果になりました。これらの津波や原子力発電所の事故について情報交換しました。
 まず、津波と海面で生じる普通の波との違いですが、海面に生じる普通の波は風が原因であるのに対して、津波は地震によって海底に生じた断層のずれが原因であることです。単純に考えると、地震によって海底に断層のずれが急に生じると、その海底の形の変化が海面にそのまま現れることになり、海面の高い位置にある海水が低い位置に流れ込むことで津波が発生します。また、波の周期や波長については、海面に生じる普通の波の周期は大きな波の場合でも10秒程度、波長は150m程度であるのに対して、津波の周期は短いものでも2分程度、長いものでは1時間以上にもなり、波長は100kmを越す場合もあります。つまり、海底から海面までのすべての海水が巨大な水の塊となって沿岸に押し寄せるのが津波です。このため、津波は勢いが衰えずに連続して押し寄せ、また、沿岸では津波の高さ以上の標高まで駆け上がります(特に、津波が崖にぶつかると、津波が崖をかけ上がる現象が起き、予想以上の高いところまで津波が届きます)。また、川に沿って数10kmも逆流することがあります。しかも、浅い海岸付近に来ると波の高さが急激に高くなる特徴があり、また、津波が引く際にも強い力で長時間に渡り引き続けるため、破壊した家屋などの漂流物を一気に海中に引き込みます。
 津波の伝播する速さは水深の平方根に比例するため、水深5000mでは例えば800km/h程度(ジェット機並みの速さ)になります。それに対して、津波が陸地に接近して水深が浅くなると津波の伝播する速さは遅くなり40km/h程度になります。波長が短くなるとともに後からくる津波が前の津波に追いつくため波高が大きくなります。
 地形の影響については、V字型の湾の奥や岬の先端に波が集中する傾向があり、東北地方のリアス式海岸はこのV字型の湾に相当し、湾の奥では大きな被害が出ます。今後、このような地形の集落については、高台に家を建てる等の対策が必要です。
 また、津波によって動かされた大きな物が他の物を破壊する現象が起き、今回の津波でも大きな船が津波によって流され、津波によって動かされるその船によって多くの物が破壊されてしまいました。
 福島第1原子力発電所で起きた放射性物質の大量飛散事故については、原子力発電所を襲った津波が想定外の大きな津波であったという面はあるのでしょうが、非常時の電源に対して津波対策(非常時の電源装置を鉄筋コンクリート製の丈夫な建物の中に保管するとか、高台に保管するとかいった対策)が取られていなかったことが原因です。津波対策が充分なされていればここまでひどい状況にならなかったと考えられます。しかも、今後いつ頃までに収束するのかについて見通しが立たない状況で、長期間に渡って被害が継続するという意味では東北地方の海岸での津波被害以上です。
 今回津波の被害を受けた福島第1原子力発電所の1号機〜6号機はすべてアメリカのGE社(ゼネラルエレクトリック社)が設計したもので、いずれも古く、営業運転開始が1970年台です。原子炉の形式はいずれも沸騰水型軽水炉(BWR)で、原子炉内を流れる一次冷却水(放射性物質で汚染されている)を直接沸騰させて、その蒸気でタービンを回すタイプです。事故が起きたときに放射能漏れを起こしやすく、事故の際にはタービン室なども汚染されてしまいます。それに対して、加圧水型軽水炉(PWR)では原子炉内を流れる一次冷却水を直接沸騰させることをせず、二次冷却水(正常運転されている状態では、放射性物質で汚染されていることはない)を沸騰させて蒸気をつくり、その蒸気でタービンを回すタイプです。1979年に事故を起こしたアメリカのスリーマイル原発や、1991年に放射能漏れ事故を起こした美浜原発はこのタイプです。
 燃料は二酸化ウランで、長さ2〜3cm程度の円柱状のペレットの集合体になっていて、燃料の周囲をジルコニウムで被覆しています。このジルコニウムが高温の水と反応すると、ジルコニウムが触媒のはたらきをして水素と酸素を発生し、小さな火花によって爆発(水素爆発)を起こします。
 原子力発電所では、放射性物質の核分裂反応によって放出される熱を常に取り去る必要があり、その意味で冷却機能は非常に重要で、核分裂反応によって放出される熱を水で冷却することができなくなる事態は絶対に起きてはいけないことです。今回の事故では、冷却機能が完全に失われ、外部から海水を注入して冷却せざるを得ないという非常事態になりました。
 放射性物質の拡散については、半減期によってその影響は異なり、半減期が8日のヨウ素 は長期間の影響が残る心配はありません(もちろん、子どもの甲状腺癌は要注意ですが...)が、半減期が2年のセシウム、半減期が30年のセシウムはその影響が長く残り、土壌にしみこんだり、海洋に流れ込んで魚や海草に入り込むと最終的に人間の体の中に入り込み、今後長時間に渡って影響が残ります。原子力発電を進めていく上で、絶対にあってはならないことが現実に起きた訳で、「想定外の天災であり、避けようがなかった」ではすまないもので、「天災ではなく、人災である」との認識の下、最大限の補償と今後の抜本的な対策が必要であると思われます。
 また、例会ではテレビや新聞の報道内容が一般の人にとって分かりにくいという指摘がありました。「マイクロシーベルトとミリシーベルトはどう違うのか?」「シーベルトとベクレルの関係はどうなっているのか?」、「なぜ、水素が発生したのか?」、「燃料棒を水の中に浸しているのはなんのためか?」、「これから先、どうなるのか?」、「最悪の場合、どのようなことが起きるのか?」、「メルトダウンと燃料棒の損傷はどう違うのか?」、「原子爆弾と原子力発電の違いは何か?(→原子爆弾は が90%以上含まれているが、原子力発電に使用されている燃料棒に含まれている は3〜5%)」、... 我々が、物理や化学を教えるときに上記の疑問に答えるような授業をしてきたのかという自戒とともに、いろいろ考えさせられることが多かったように思われます。

【3】会費について
今年度は会費を集めません。

【4】連絡先について
〒252−1123 神奈川県綾瀬市早川1485−1
神奈川県立綾瀬西高等学校 塚本栄世
TEL:0467−77−4251    
FAX:0467−76−8199    

【5】次回例会(第105回秦野物理サークル)について
5月28日(土) 14:00〜17:00
例会の会場は伊勢原子ども科学館です。

なお、今年度の例会日程は以下の通りです。
5月28日(土)
7月23日(土)
9月24日(土)
11月26日(土)
1月28日(土)
3月24日(土)
例会はいずれも時間は14:00〜17:00、会場は伊勢原子ども科学館です。
    
                                  文責 塚本栄世



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