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例会の様子
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第107回秦野物理サークル
2011.11.22.発行
第107回秦野物理サークル報告
日時:2011年9月26日(土)14:00〜17:10
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:稲葉一弘(伊勢原市役所 子育て支援課)、岩瀬充璋(神奈川大学)、久保田信夫(立花学園)、倉田慎一(教育センター)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(綾瀬西高校)、茂泉俊夫(城北工業高校)
計8名
【1】発表項目
(1)恐竜のタマゴ(岩瀬充璋)...写真1〜写真6参照
(2)「ストームV(ミニヘリコプター玩具)」の紹介(岩瀬充璋)...写真7〜写真10参照
(3)トンボのヤジロベー(鈴木孝雄)...写真11〜写真20参照
(4)缶コーヒーBOSSのおまけの玩具(倉田慎一)...写真21〜写真23参照
(5)地形図の立体視(倉田慎一)...写真24〜写真27参照
(6)本の紹介...「不死細胞 ヒーラ」(倉田慎一)...写真28参照
(7)ブラウン運動する微粒子の軌跡の解析方法(塚本栄世)...写真29参照
(8)圧電素子を叩いてLEDを光らせる実験(塚本栄世)...写真30参照
(9)マブチモーターを回して発電する(塚本栄世)...写真31〜写真33参照
(10)「ストローの中を見てごらん!!」の紹介(稲葉一弘)
...資料1、写真34、写真35参照
(11)1945〜のフォールアウト(久保田信夫)...資料2参照
【2】発表内容
(1)恐竜のタマゴ(岩瀬充璋)…写真1〜写真6参照
石膏を使って「恐竜のタマゴ」(写真1参照)を作る実験の紹介です。焼石膏に水を混ぜて(粥状になる程度に水を混ぜる)よく練ったものをジョーロを使ってゴム風船の中に流し込み(写真2参照)、口でゴム風船を吹いて直径10〜15cm程度に膨らまし、風船の口をすばやく縛ります。その後すぐに焼石膏と水を混ぜたものが風船の中でできるだけ均等な厚さになるようにいろいろな方向に回し続けます(写真3参照)。15分くらいたつと、風船の中に入っている焼石膏と水を混ぜたものが発熱しながら固化して石膏に変化します(焼石膏が石膏に変化してきたかどうかは温度や内部の流動性など手の感触で分かります)。時間が充分とれるときはこのまま1週間程度放置するといいそうですが、例会では20〜30分程度たった時点でゴム風船をハサミで切り取り、中のタマゴを取り出しました。風船の中の石膏でできた「恐竜のタマゴ」がまだ完全に固まっていない状態でゴム風船をハサミで切った(写真4参照)ために、ゴム風船の弾力で風船の中の「恐竜のタマゴ」が割れてしまいました(写真5参照)。大きな風船が手に入ればもっと大きなタマゴを作ることができますが、100円ショップで購入できる風船は少し小さいため(写真6参照)、一度口で吹いて膨らましたものを再使用することで少し風船のゴムをのばして広げてから使っているそうです。
例会では、充分時間をかけて作った「恐竜のタマゴ」を見せてもらいましたが、ほどほどに割れているため恐竜が孵化した直後のように臨場感があります。「何の説明もなしにどこかに放置すると騒ぎになりそうだ。」という人もいましたが、本当にそうかも知れません。恐竜の卵と思う人はいないまでもダチョウの卵ではないかと思う人がいそうです。
この反応の化学反応式は以下の通りです。
CaSO4・H2O + H2O → CaSO4・2H2O
焼石膏CaSO4・H2Oが完全にCaSO4になってしまうと水を加えても上記の反応は起きないとのことです。なお、焼石膏は彫刻家が塑像を製作する際に使用したり、医療用ギブス等にも使われています。焼石膏が水を加えて固めることで硬い石膏のかたまりになることや固まるときに発熱すること等、化学変化を楽しみながら体験できる実験です。
(2)「ストームV(ミニヘリコプター玩具)」の紹介(岩瀬充璋)...写真7〜写真10参照
「ストームV」(写真7参照)という中国製のミニヘリコプター玩具が紹介されました。「ストームV」はコントローラーによる無線操縦で赤外線を使ってコントロールするタイプのもので、全長19.5cm、重量9g、メインプロペラの直径13.5cmという小型のヘリコプターです。価格は3,000円ですが、いろいろなタイプがあり、1万円以上のものもあるそうです。分解するために購入した(写真8参照)とのことで、特にリチウムポリマー電池(写真9、写真10参照)に興味があったそうです。この電池は約10mm角、厚さ2〜3mm程度の小型の電池で、電圧は3.7V、一度充電すると約5分間飛べるそうです。
例会では、コントローラーを操縦してプロペラが回転することを確認することはできましたが、分解した状態だったために、メインプロペラの上に取り付けられているスタビライザーも外れていて実際に飛行させることはできませんでした。輸入、発売元は「ロボテック大阪(株)」です。
(3)トンボのヤジロベー(鈴木孝雄)...写真11〜写真20参照
まず、プラスチック製のとんぼが紹介されました(写真11参照)。このとんぼは4枚の羽を広げて少し前に伸ばし、少し下に向けています。このプラスチック製のとんぼは腹側のA点で支えると、水平な状態で安定します(写真12参照)。おそらくこの姿勢がとんぼにとって一番安定な姿勢なのだろう(写真13参照...後日、インターネットで得たもの)ということで、新聞等の中に入っている広告の紙を使って紙飛行機を作る要領で、飛行機の形を作り、さらに、とんぼには垂直尾翼がないからと、その部分を切り落とします。これでとんぼらしい形になりました(写真14参照)。この状態で、羽を前に傾け、また、羽の先端を少し下に下げてから、腹側のA点を下からハサミの先端で支えてみたところ水平な状態で安定します(写真15参照)。これは、子どもの頃に気づいた「赤とんぼが枝の先に止まるときに最初は羽を上に上げているが、しばらくすると羽を下に下げる」ことに関係しており、ヤジロベーの原理で安定であると考えられるとのこと。また、子どもの頃、「何匹かの赤とんぼが枝の先端に止まるときは、みんな同じ方向を向くのはなぜだろう?」と不思議に思ったことがあったそうですが、頭を風上に向けた方が風に対する抵抗が少ないのではないかと思い、腹側のA点を下からハサミの先端で支え、水平に息を吹きつけると頭を風上に向けて安定します。そこで、A点の位置で糸を腹側から背中側に通してから糸の上端部を持ってとんぼをぶら下げ(写真16参照)、その状態で体の周りを回転させたり(写真17参照)、歩いたり(写真18参照)してみると常に自然に頭が進行方向(つまり、風上)に向きます。また、紙製のとんぼのA部に糸を通して振り子をつくりゆっくり振動させると、行きと帰りで頭が逆の向きになり、常に頭が風上に向くそうです。
ところで、とんぼの羽は4枚あり、とんぼはこの4枚の羽を巧みに動かして(写真19参照...後日、インターネットで得たもの)急発進したり、方向転換したり、空中でホバリングしたりすることができます。例会では、その場で紙をはさみで切って、4枚羽の紙とんぼを作り(写真20参照)、飛ばしてみると結構安定して飛びます。大学では、4枚羽によるとんぼの飛行の仕組みについて研究したり、とんぼの羽の特徴を風力発電の風車の羽に応用しようとしている研究室もあるようです。
(4)缶コーヒーBOSSのおまけの玩具(倉田慎一)
...写真21〜写真23参照
BOSSという缶コーヒーにおまけとしてついている、昔の「チョロQ」によく似た、ぜんまい式の車が紹介されました。その車は「ウルトラマン」、「スペースシャトル」、「飛行機」の三種類(写真21参照)があって、ぜんまいを巻いて(車を軽く机に押しつけながら少し後退させるとぜんまいを巻くことができます)から車のタイヤを缶コーヒーの側面に押しつけると、缶の側面に沿ってぐるぐる回りながら徐々に下がっていきます(写真22参照、「スペースシャトル」だけはなぜか上がっていきます)。これらの車の底面には磁石が貼りつけてあるので、鉄製の缶と磁力で引きつけあいながら車輪が回転するので、側面に沿ってぐるぐる回りながら走ることになります。これらの車を鉛直方向のホワイトボード上で横方向に走らせてみると、前方に走りながら放物線に沿って滑り落ちていきます(写真23参照)。
ところで、缶コーヒーの側面に沿って走らせるとぐるぐる回りながら少しずつ下がったり上がったりするのに対し、ホワイトボード上で走らせた場合は、放物線軌道のように前方に走りながら滑る落ちる軌道を描くのはなぜでしょうか?その理由は、ホワイトボードのような平面上で走る場合に比べて、缶コーヒーの側面に沿って走る場合の方が車輪が接している面と磁石との距離が短いために磁力が強いからであると思われます。
ホワイトボード上で走らせた場合、「ウルトラマン」、「スペースシャトル」、「飛行機」の三種類のうち、「スペースシャトル」はホワイトボードの表面からすぐに離れて落ちてしまい、ホワイトボードの表面にくっついていることができません。この「スペースシャトル」は缶コーヒーの側面に沿ってぐるぐる回りながら徐々に上がっていきます。その原因は、「スペースシャトル」の重心の位置が「ウルトラマン」や「飛行機」に比べ、後ろにあり、また、重いために車の後が下がる(つまり前が上がる)ためのようです。
(5)地形図の立体視(倉田慎一)...写真24〜写真27参照
山岳地帯等の地形図を立体画像につくり変える方法が紹介されました。国土地理院から公開されている地形図を「カシミール」(【参考1】参照のこと)というフリーソフトを使って加工すると、その地形を上空からある角度で見たときの画像に変換することができます。つまり、このソフトを使うと自分が鳥になった体験ができます。もし、この鳥が巨大な鳥で、両目の間隔が1kmあり、その鳥が高さ4km上空から実際の地形を見たらどのように見えるか、その立体画像を仮想体験するために、箱根の外輪山をその鳥の右目で見たときの画像と左目で見たときの画像を別々に作製します(写真24参照)。次に、「アナグリフメーカー」という立体画像を作るフリーソフトを使って、右目で見たときの画像を赤色で、左目で見たときの画像を青色で描き、この両者を重ねると立体画像が完成します(写真25参照)。この立体画像を赤色のセロハン(赤い色と白い色のものが区別できなくなるが、青い色のものは黒く見える)を左目の位置に青色のセロハン(青い色と白い色のものが区別できなくなるが、赤い色のものは黒く見える)を右目の位置に貼り付けた3D眼鏡を通して見ると、箱根の外輪山をこの大きな鳥が上空から見たときの立体画像を見ることができます。
例会では、この立体画像を液晶プロジェクターで拡大表示し(写真26参照)、みんなで3D眼鏡(写真27参照)を通して見ましたが、すごい迫力です。箱根の外輪山が立体的に見え、火山が並んでいる構造であることがよく分かります。印刷した画像、パソコンのディスプレイ画面、液晶プロジェクターで拡大した画像の三種類を比較しましたが、液晶プロジェクターで拡大した画像が最も迫力があり、また、立体画像を見ている人全員が同時に同じ画像を見ることができるため、拡大した画像上で「この山が...」と指し示すことも容易にできるので便利でもあります。印刷した画像の場合は、液晶プロジェクターで拡大した画像やパソコンのディスプレイ画面に比べて立体感が弱いように感じました。
立体視するための理想は、背景の色が白色である場合、右目用の画像が赤色の単色光、左目用の画像が青色の単色光で表示され、3D眼鏡の左目用の赤色フィルターの透過する光が画像の赤色単色光と同じ波長のみであり、右目用の青色フィルターの透過する光が画像の青色単色光と同じ波長のみであることです。実際にはそのようなことは不可能で、それにできるだけ近い条件の画像や3D眼鏡を工夫するということになります。
そのような意味では、印刷された画像の立体感の改善や、「赤色に比べて青色の方が色が少し弱いような気がする」という意見にもあるように、かなり単色性がいい赤色セロハンに対して、単色性がやや悪い青色セロハンに替わるフィルターを探すこと等、光の色と波長に関する細かいつめの作業が今後必要かもしれません。また、人による利き目の違い(右目が利き目である人が多いようです)に対する対応やカラーアナグリフに対する対応(カラーの立体画像を見る場合の3D眼鏡は左目用は赤色フィルター、右目用は青緑(シアン)色フィルターにする必要があるそうです)も今後必要になってくるかもしれません。
また、例会では色の違いが区別しにくい体質の生徒に対する考慮として赤色と青色以外の組み合わせについて検討したりもしました。今後、物理の分野だけではなく、地学、生物、地理などの授業で使うことも目指していくことができそうです。
【参考1】「カシミール」について
「カシミール」は、その名のように「可視見る」つまり可視マップ(ある山が見える範囲を地図上にプロットしたもの)の作成を目的として1994年にDAN杉本氏が発表したフリーウェアで、元々は登山の計画を立てたり、自分が鳥になった疑似体験(「カシバード」と名付けています)ができるようにつくられたものです。3D画像の作成、ムービーの作成、GPSデータの活用などができる多機能のソフトです。扱える数値地形データも国土地理院の数値地図(10mメッシュの標高データも含む、現時点では無料)、USGS(アメリカ地質調査所)、スイス地理局の地形データなど多種類あり、世界中の地形を楽しむことができるようです。
(6)本の紹介...「不死細胞 ヒーラ」(倉田慎一)...写真28参照
「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生」(レベッカ・スクルート 著、中里京子 訳)という本の紹介です。ヒーラ細胞は世界で初めて培養に成功したヒト細胞で、癌や肝炎、遺伝子の研究等に広く使われ、医学分野での研究を支えてきましたが、その細胞が誰のもので、どのような経緯で採取され(本人の同意はなかった)、広く使われるようになっていったのか余り知られていません。著者は16歳のとき生物の授業でヒーラ細胞のことを知り、11年後にヘンリエッタ・ラックスの家族を捜しあてて電話をかけ、10年かけて著書にまとめたものが本書です。子宮頸癌と診断され、米国メリーランド州のジョンズ・ホプキンス病院の人種隔離病棟に入院した黒人女性ヘンリエッタの癌細胞が1951年ヒト細胞の培養を目指す研究室に運ばれ、細胞の培養に成功した結果、彼女が31才で亡くなった数カ月後にはその細胞はあちこちの研究機関で使われるようになりました。やがて国家プロジェクトとして大量培養され、ポリオウィルスを感染させてワクチンの安全性や効果を確認することに使われました。現在までに膨大な量が取り引きされ、大きなビジネスになっているそうです。ところが、彼女の子孫には一切経済的な利益がもたらされることはなく、健康保険を利用することさえできない境遇に置かれていたそうです。医学分野での倫理観、人種差別、...等、いろいろな問題を含んでいます。
(7)ブラウン運動する微粒子の軌跡の解析方法(塚本栄世)...写真29参照
数年前、森永の「クリープ」をお湯に溶かしたものを顕微鏡で観察すると、直径1μm程度の脂肪球がさかんにブラウン運動する現象を見つけ、秦野物理サークルの例会でも発表しました(第79、80回秦野物理サークル...2006年1月28日(土)、3月25日(土))。このとき、できればそのブラウン運動を解析したいと思い、そのためにブラウン運動する微粒子の位置をパソコンのディスプレイ画面上でマウス・クリックすると時刻t、座標x、yが自動的に入力されるソフトがないかといろいろ捜しましたが、適当なものが見つかりませんでした。そのまま棚上げになっていましたが、最近、動画から連続した静止画を切りだす「Area61」というフリーソフトがあることを知り、能率が悪くても手近なソフトを使って強引にやってみることにしました。
その方法は、以下の通りです。
@顕微鏡下のブラウン運動の動画をビデオテープにデジタル・データとして記録する。
...実際には、顕微鏡の接眼レンズにアナログ・ビデオテープを接触させてブラウン運動する微粒子の動画を記録しながら、その映像を液晶プロジェクターで拡大表示し、その映像を別のデジタル・ビデオカメラで撮影するという方法をとった。
A「Windowsムービーメーカー」を使って、ビデオテープにデジタル記録されたブラウン運動の映像の一部(1〜2分程度)を動画としてパソコンに取り込む。
B「Area61」を使って、パソコンに取り込んだ動画を連続した静止画に変換する。基本的には30分の1秒に1枚の静止画をつくるが、1秒に1枚の静止画を取り出すようにもできる。なお、「Area61」は物体の運動の解析に使えると思われる。
CCanonのプリンターに添付されている画像処理ソフトである「PhotoStudio」という画像処理ソフトを使って、ブラウン運動する1個の微粒子に着目し、その運動を追いかけながら一定時間間隔でその微粒子の位置にマウスのカーソルを置くと、そのx、y座標が表示されるので、その位置を記録すると同時に、新規のレイヤー上に小さな円を描く。このレイヤーを次の時刻の静止画に新規のレイヤーとして貼りつける...ということを繰り返して、微粒子の軌跡を描く。
上記の方法で、ブラウン運動する微粒子の37秒間の運動の軌跡を調べた結果が(写真29)です。実際にやってみると、時間のかかる面倒な作業であり、作業をしながら「ブラウン運動を実験で解析した初期の科学者はパソコンがない時代にどのような方法で解析したのだろうか?」と思いました。「左目で顕微鏡を見ながら、右目で紙の上にブラウン運動する微粒子の位置をスケッチする方法で本当に可能だろうか?マス目を利用すればできるのだろうか?」...といろいろ考えさせられました。
(8)圧電素子を叩いてLEDを光らせる実験(塚本栄世)...写真30参照
数年前、駅の改札口に設けられた「発電床」が話題になりました(2008年12月、JR渋谷駅...数十cm四方の板の上を体重60kgの歩行者が歩くことで、1秒あたり1Wの電力が得られるとのこと)。圧電素子の発生する電力を利用するアイデアです。当時、慶応大学の大学院の学生だった速水浩平氏が始めたことだったようですが、速水氏はその後2006年に「株式会社 音力発電」を立ち上げて、さらにこのアイデアを進め、「振動力発電」や「音力発電」というように、振動や音のエネルギーを利用して発電し、その電力を利用して、メンテナンスが困難な場所やわずかな電力で動く装置をつくろうという試みを始めました。例えば、「振動力発電」ですが、@幹線道路に架かった橋脚の振動を利用して発電し、そのエネルギーを利用してアンテナで電波を飛ばし、橋脚の老朽化の度合いをセンサーで測定したデータを老朽化を見張っているセンターに知らせる仕組みです。橋脚の振動を利用して発電するため、電源は一切必要がありません。A電池を使わないリモコン...リモコンを軽く振るだけで必要な電力を得ることができて、リモコンとして充分機能するというものです。Bダンスホールの床のじゅうたんの下に圧電素子を敷き詰め、その上でたくさんの人がダンスを踊るときに発生する振動を利用して、LED等の照明を点灯させる。
速水氏は、最初はスピーカーに向かって大きな音を出すだけで発電することができるのではないかと思ったそうですが、とてもLEDを点灯させることはできず、最終的に圧電素子に行きついたとのこと。小学生時代のアイディアを大事に温め続けて実現にこぎつけたそうです。
例会では、電子ブザーを分解して、その中に入っている圧電素子をむき出しにして机の上に置き、その上に木の棒を押し当ててもう一本の棒で叩いて、圧電素子が発生した電圧によってLEDを光らせる実験をしました。ずいぶん乱暴な実験ですが、圧電素子が大変丈夫であり、また、力を加えるだけでかなりの電圧を発生することが分かりました。今後も、面白い応用が期待される技術であると思われますので、後日また話題になることがありそうです。
(9)ローテク発電(塚本栄世)...写真31〜写真33参照
模型用モーターの軸を手で回して発電する実験です。まず、縦7〜8cm、横4〜5cm程度の木板2枚をお互いに直角になるように木ねじで固定し、さらにその板にマブチモーターRE280を固定します。これを実験台にC形クランプで固定してから、モーターの軸に直径1mm程度の太い釣り糸(大物を釣るときに使う丈夫な釣り糸)を引っかけて、釣り糸の両端を左右の手で持って交互に左右に引くとモーターが発電機としてはたらき、このモーターに接続したLEDや豆電球が点灯します(例えば、LEDの場合は、釣り糸を右に引いたときにLEDが点灯(写真31参照)し、左に引いたときにはLEDが点灯しませんが、豆電球の場合は、釣り糸を右に引いたときにも左に引いたときにも点灯します)。LEDの替わりに電子ブザーや太陽電池用モーターを接続すると、音や運動によってモーターが発電機としてはたらいていることを確認することができます。また、2台のモーター(一方は発電機として、もう一方は発電機によって回されるモーターとして使います)の間にダイオードを入れると、ダイオードの整流作用を運動を通して示すことができます。モーターの軸に釣り糸を引っかけてつかうときには、釣り糸をモーターの軸にぐるりと1回巻きつけてから両端を左右の手で引くようにしますが、もっと簡便な方法として、釣り糸の替わりに輪ゴムを5〜6本つないでモーターの軸に引っかけ(写真32参照、このときは、モーターの軸にぐるりと1回巻きつける必要はありません)、輪ゴムを引っ張って伸ばしながら左右の手で引くとモーターの軸がよく回転し、発電することができます。
上記のような方法は、モーターとギヤーを組み合わせた市販の「手回し発電機」に比べて価格が安く、原理もむき出しなので「モーターと発電機は基本的な仕組みが同じである」ことを学習することに絞れば、生徒実験にはよさそうです。
また、市販の模型用モーターの軸を回して発電する「ローテク発電機」が作れないかと最近取り組み始めた未完成の発電機を例会に持ち込みました。市販の「手回し発電機」はハンドルを手で回す小さな回転数をギヤーの組み合わせを利用して大きくし、内蔵されているモーターの軸を高速回転することでかなりの電圧を発生するものです。それに対して、「ローテク発電機」は廃棄された自転車の車輪と模型用モーターの回転軸をゴムベルトでつないだだけの単純な構造(写真33参照)で、単純に半径の違いを利用して回転数を上げる考えです。例会ではLEDを点灯しただけでしたが、自転車の車輪の慣性が大きく一種のフライホイールとしてはたらくため、手で車輪を回転させるとしばらくの間回転し続けるので、もっといろいろなことができそうです。
上記の自転車の車輪を利用した「ローテク発電機」は回転軸が鉛直方向でしたが、最終的には、自転車の車輪および模型用モーター等の回転軸を水平方向にして、回転軸に丈夫なロープをかけてその両端におもりをぶら下げ、そのおもりの重さの違いを利用して回転軸を高速で回転させる予定です。自転車の車輪の数も1個ではなく、2個あるいは3個使う可能性もあります。いわば、「重力発電」で、2個のおもりのうち1個が下りてしまったときには、2個のおもりを入れ替える等の方法で、発電し続けることができればと思っています。発生した電力は「備長炭電池」に蓄えるといいのかもしれません。現段階では全くの夢物語ですが、楽しみながら、のんびりと開発を続けていきたいものです。
(10)「ストローの中を見てごらん!!」の紹介(稲葉一弘)
...資料1、写真34、写真35参照
奈良県立青翔高校の先生が工夫された、パイプの内面での光の反射を利用した実験が紹介されました。例えば(写真34)のように、等間隔に引いた直線の上にストローを押し当て、ストローの上から見ると、(写真35)のようにストローの内側での光の反射の影響で複雑な模様に変化して見えます。ちょっと考えると、金属パイプでも同様の現象が見られそうですが、パイプの側面からパイプの内部へある程度光が透過する必要があるため、薄いプラスチック製のパイプであるストローがこの実験には向いているようです。要は、適度の光の透過率と反射率を兼ね備えている材質のものがいいのでしょう。もし、金属パイプをどうしても使いたいということであれば、パイプの下端部を紙の表面から少し浮かした状態にして、その隙間から光が入るようにする必要があります。
平行な直線以外の「星」や「六角形」等を見るのも面白いです。(資料1)の図形をストローを通して眺めながら、気楽に視覚のトリックを楽しんで下さい。
(11)1945〜のフォールアウト(久保田信夫)
...資料2参照
膨大な資料を元に長時間の説明がなされた発表でしたので、今回の会報だけでは紹介することはできないと判断し、今後数回に分けて紹介します。
発表の内容としては、広島や長崎に原子爆弾が投下された1945年以降の「フォールアウト」(「放射性降下物」)に関する資料やその解説ですが、以下のように大きく2つに分けて考えることができます。その中で、今回は@の一部のみに絞らせていただきます。
@広島や長崎に原子爆弾が投下された直後のフォールアウトについて
Aその後の核実験とフォールアウトについて
「フォールアウト」とは、「放射性降下物」のことで、核爆発や原子力事故による爆発で生じた塵のことを言います。爆発で生じた物質がいったん上空に舞い上がった後、地上に「降下する」ことからフォールアウトと名付けられました。一般には、「死の灰」として知られています。
1945年8月6日午前8時15分広島に原子爆弾が落とされ、当時の広島市の人口35万人のうち14万人が尊い命を奪われました。この日は、爆心地の北西の地域で大雨が降り、その雨は「黒い雨」(粘り気のある真っ黒な大粒の雨)であったことが知られています。雨が黒い色をしていた理由は、爆発の際に生じた放射性物質を含む大量の塵が上空に舞い上がり、降雨の中に含まれていたためです。この原子爆弾は低高度爆発(空中爆発)であったため、キノコ雲は地表に接し、爆心地に強烈な上昇気流を生じやがて上空で冷やされて雨になりました。この雨の中に大量の放射性物質が含まれていたのです。当日、広島市上空には南東の風が吹いていたため、キノコ雲は北北西に移動し降雨をもたらしました。このため、爆心地の北西部の南北19キロメートル、東西11キロメートルの楕円形の地域で黒い雨が1時間以上降り、この区域を国は1976年「大雨地域」とし、「健康診断特例区域」に指定しました。(それに対して、爆心地の北西の南北29キロメートル、東西15キロメートルの楕円形の地域で「大雨地域」を除く地域を「小雨地域」として健康診断特例区域には指定しませんでした。)
ところが、最近「広島黒い雨放射能研究会」(メンバーは広島大学原爆放射線医科学研究所、京都大学原子炉実験所、放射線医学総合研究所、長崎大学環境科学部、広島市健康福祉局などの関係者)の調査で「大雨地域」以外の地域でも放射性物質が検出されており(1945〜49年に建てられた民家の床下の土壌からセシウム137を検出)、広島市の協力の下、その報告がまとめられインターネット上でも公開されています(全体で137ページのpdfファイル)。...(資料2)の16、17、18、19、20ページ等はそのファイルの一部です。
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒252−1123 神奈川県綾瀬市早川1485−1
神奈川県立綾瀬西高等学校 塚本栄世
TEL:0467−77−4251
FAX:0467−76−8199
【5】次回例会(第108回秦野物理サークル)について
11月26日(土) 14:00〜17:00
例会の会場は伊勢原子ども科学館です。
なお、今年度の例会日程は以下の通りです。
1月28日(土)
3月24日(土)
例会はいずれも時間は14:00〜17:00、会場は伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
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