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例会の様子
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第108回秦野物理サークル
2012.1.23.発行
第108回秦野物理サークル報告
日時:2011年11月26日(土)14:00〜17:00
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:岩瀬充璋(神奈川大学)、倉田慎一(教育センター)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(綾瀬西高校)、森垣みつ代(横浜市立原中学校)
計6名
【1】発表項目
(1)渦電流の実験(塚本栄世)...図1、図2、写真1〜写真5参照
(2)コイン選別器(塚本栄世)...写真6〜写真9参照
(3)電磁調理器(塚本栄世)...写真10〜写真16参照
(4)モーターを発電機として使った実験(塚本栄世)...資料1、写真17参照
(5)ウィンド・チャイム(岩瀬充璋)...写真18〜写真20参照
(6)青空と夕焼けの実験(倉田慎一)...写真21〜写真29参照
(7)六角折り(鈴木孝雄)...写真30〜写真36参照
(8)1945〜のフォールアウト(久保田信夫)...資料2参照
【2】発表内容
(1)渦電流の実験(塚本栄世)...図1、図2、写真1〜写真5参照
まず、(写真1)のように、直径8cm、長さ25cmの押しバネの片方を力学台車の前端(鉛直面)にガムテープでしっかり固定し、また、バネのもう一方を実験机に固定した木の角棒に固定します。力学台車を引っ張ってバネが伸びた状態でそっと離すと、力学台車は単振動しますが、この単振動は減衰が少ないため、結構長い時間続きます。次に、力学台車の荷台に厚さ3mm、20cm×20cmのアルミ板をガムテープで固定し、力学台車を単振動させてから、ネオジム磁石をアルミ板の表面から2〜3mmの距離に近づけると、力学台車の単振動が急激に減衰し、すぐ止まってしまいます。例会では実験しませんでしたが、厚さ1mm、20cm×20cmのアルミ板でも同様の実験を実施したところ、明らかに厚さ1mmのアルミ板より厚さ3mmのアルミ板の方が強いブレーキがかかります。厚いアルミ板の方が電気抵抗が小さく、大きな渦電流が流れるためと思われます。
使用したネオジム磁石はハードディスクドライブのカンチレバーの根元に使われていたもので、十数年前に秋葉原で1個300円で購入したジャンク品です(図1、写真2参照)。このネオジム磁石1個を単振動している力学台車に固定したアルミ板に2〜3mmの距離に近づけるだけで、力学台車の単振動が急激に減衰しすぐに止まってしまいます。例会当日はこのネオジム磁石を持ってくるのを忘れてしまい、ネオジム磁石2個のN極、S極が約4mmの間隔で向かい合うように取り付けた木枠(図2、写真3参照)だけを持ってきたために、この木枠に取り付けたネオジム磁石2個で力学台車に固定したアルミ板を挟み込むようにして実験しました。この状態で力学台車を振動させると、1往復する前に力学台車は急激に減速し、静止してしまいます(写真4参照)。アルミ板に生じた渦電流に対してネオジム磁石による磁場がはたらき、ブレーキがかかる(いわゆる「電磁制動」)ためです。また、静止した力学台車に固定したアルミ板を木枠に取り付けたネオジム磁石2個で挟み込みながら、ネオジム磁石を単振動させると力学台車がその動きに引きずられるように単振動します。
円板型のネオジム磁石を鉛直に立てたアルミパイプの中に入れてそっと落下させ、アルミパイプの中を見ると、ネオジム磁石がゆらゆら揺れながらゆっくりと落下していきます。この実験はよく知られた実験ですが、アルミパイプの中を落下していくネオジム磁石を見ることができるのは、ビデオカメラでも使わない限り、基本的には一人だけです。それに対して、上記のように、押しばねを取り付けて単振動している力学台車に固定したアルミ板にネオジム磁石を近づけて「電磁制動」によって急激にブレーキがかかることを見せる実験は生徒全員に同時に見せることができるので、能率的です。
例会では、上記の実験との関連で渦電流に関する演示実験として以前からよくやられてきた「ワルテンホーフェンの振り子」のことが話題になりました。「ワルテンホーフェンの振り子」は、(写真5参照...厚さ0.25mm、縦15cm、横13cmのアルミ板)のような形に切り出したアルミ板を電磁石のN極とS極の間で振動させると、(イ)のような板状の振り子は「電磁制動」によって急激にブレーキがかかりますが、(ロ)のように櫛(くし)のような形状の振り子には「電磁制動」によるブレーキは余りかかりません。「(イ)の場合はアルミ板に生じる渦電流が大きいが、(ロ)の場合はアルミ板に余り渦電流が流れないからである」という説明がなされてきました。ネオジム磁石のような強力な永久磁石が簡単に入手できない時代は、強力な磁場を得るために電磁石を使用し、大きな直流電流を流すためにアルカリ電池等を使う必要があったために実験の準備が結構面倒でした。この「ワルテンホーフェンの振り子」の実験も、木枠に取り付けたネオジム磁石2個の間にできる磁場の中で(イ)、(ロ)のアルミ板を振動させるだけで手軽に行なうことができます。
(2)コイン選別器(塚本栄世)...写真6〜写真9参照
ネオジム磁石による「電磁制動」がかなり大きいので、かっていろいろな物理サークルで作られた「コイン選別器」を作ってみようと思い立ちました。プラスチック製の30cmものさし2本、敷居すべり1本、スペーサーとして使うための10円玉6個を使って(写真6、写真7)のようなコインを転がす坂道を作りました。かって作られた「コイン選別器」では、プラスチック製の30cmものさし2本の外側を磁石2個のN極、S極ではさみ込むように作りましたが、(1)の実験で使用したネオジム磁石2個を取り付けた木枠を使えば、コインが転がる坂道に磁石を使う必要がないのではないかと思い、(写真8)のように坂道を水平と約30°の角度で保ち、木枠のネオジム磁石2個に挟まれた空間にコインが跳び込むように、1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、100円玉、500円玉を次々と転がしてみたところ、50円玉と100円玉は磁場の影響をほとんど受けることなく、勢いよくネオジム磁石2個に挟まれた空間を横切って行きましたが、1円玉には強烈なブレーキがかかり、坂道を勢いよく転がってきた1円玉がネオジム磁石2個に挟まれた空間で一瞬静止したようになり、そのままゆっくり落下しました(写真9参照)。5円玉も1円玉ほどではないものの同様の現象が起きました。また、10円玉にもかなり強いブレーキがかかり、木枠のすぐそばに落下しました。
例会では、とりあえずどのような現象が起きるかを調べてみただけで、なぜ上記のような結果になったかについての分析はほとんどしていません。金属の種類(合金でできているコインが多いと予想されます)、質量、電気抵抗、...等を調べ、今後、上記の結果について分析してみたいものです。
(3)電磁調理器(塚本栄世)...写真10〜写真16参照
知人からもらった古いタイプの1200Wの電磁調理器(プレートの裏側に「58.11.8.」と書かれていることから、「昭和58年11月8日」に製造されたものと思われます)を使って、電磁誘導に関する実験をやってみました。まず、直径1.0mmのエナメル線を3回巻いて作った直径16cmの円形のループと豆電球(6.3V、0.15A)をはんだ付けしたものを電磁調理器のプレートの上に載せスイッチをONにしたところ、豆電球が点灯しました(写真10参照)。このような現象が起きるのは、電磁調理器のプレートの真下にあるコイルから垂直に出ている時間的に変動する磁力線がエナメル線のループを貫き、エナメル線のループと豆電球に誘導電流が流れるためです。エナメル線の巻き数をもっと増やせばさらに大きな誘導電流が流れるだろうと思い、直径0.6mmのエナメル線を50回巻いて作った9cm×9cmの正方形のループを電磁調理器のプレートの上に載せ、その正方形のループを60Wの白熱電球に接続してから電磁調理器のスイッチをONにしたところ、電球が明るく点灯しました(写真11参照)。ところで、最近の電磁調理器にはプレートの上に金属製の鍋が載っていない状態ではスイッチが入らないような安全装置がついているため、上記のような実験はできません。
以上のような現象が起きるのは、電磁調理器の中に入っているコイルに流れる電流が大きいことと同時に周波数の大きな交流電流であるため、プレートの上に置いたエナメル線のループを貫く磁束が時間的に大きな変化をするためと思われます。できれば電磁調理器のプレートの上での磁束を直接測定するといいのですが、とりあえずインターネットで調べてみたところ、電磁調理器の中に入っているコイルには25kHZの高周波電流が流れているそうです。
例会では、エナメル線のループにつないだ豆電球や白熱電球を点灯させる実験以外の実験として、電磁調理器のプレートの上に厚さ0.25mm、3cm×14cmの長方形のアルミ板を載せてスイッチをONにしたところ、アルミ板は上向きに力を受け、裏返しになりました(写真12〜写真14参照)。また、台所用のアルミホイルを4枚重ねにし、5cm×7cmの長方形にしたものを電磁調理器のプレートの中央部に載せてスイッチをONにしたところ、アルミホイルは常に外側に向かってスッとすべるように力を受けることが分かりました(写真15参照)。アルミ板が裏返しになるのは、アルミ板に生じる渦電流にはたらく力が時間とともに上向きになったり下向きになったりする際に、アルミ板が上向きに力を受けるときは上向きに運動し、下向きに力を受けるときはプレートからの上向きの反作用の力を受けるため、いずれの場合も上向きに運動することになるためと思われます。また、アルミホイルは常にプレートの中央部から外側に向かって力を受けますが、この理由は現時点ではよく分かりません。
この実験の最後に電磁調理器の内部を見てみようということになり、プレートを外したところ予想通り中央に大きなコイルがありました(写真16参照)。また、内部には大きなトランスが2個入っており、そのうちの1個は電圧を上げてコイルに大きな電流を流すためと思われます(実際、内部には「高圧注意」の貼紙があります)。その場でよく意味が分からなかったこととして、コイルを巻くために使っているエナメル線が1本ではなく、何本かのエナメル線をねじり合わせて作った縒り線(よりせん)構造になっていることです。例会終了後、このことについてインターネットで調べたところ、このような構造を「リッツ線」というそうで、高周波電流特有の表皮効果に対する対策(つまり、表面しか電流が流れない状態になったときにもリッツ線全体としてある値以上の電流を確保するための対策)だそうです。
例会では、今後この電磁調理器を使ってどんな実験を試してみるとよさそうか検討してみましたが、以下のような提案がなされました。
@プレート上での磁束を測定する。...磁束の最大値とその周波数
A蛍光灯が点灯するのでは?
B食塩水にはどのようなはたらきをするか?
C磁化された磁石の磁化を消す(つまり、「消磁(しょうじ)」)ことができるのでは?
(4)モーターを発電機として使った実験(塚本栄世)...資料1、写真17参照
模型用モーター(使用したのはマブチモーターRE280)の軸にひもを1回巻きつけ、ひもの両端を手で引っ張りながら交互に左右に引くと、モーターが発電機のはたらきをします。この実験を生徒実験として実際の授業の中でやってみました(詳細は資料1参照)。まず、縦7〜8cm、横4〜5cm程度の木板2枚をお互いに直角になるように木ねじで固定し、さらにその板にモーターを固定します。これを実験台にC形クランプで固定してから、モーターの軸に直径1mm程度の太い釣り糸(大物を釣るときに使う丈夫な釣り糸)を1回巻きつけて、釣り糸の両端を引っ張りながら交互に左右に引くとモーターが発電機としてはたらき、このモーターに接続したLEDや豆電球が点灯したり、別のモーターが回転したりします。例えば、LEDの場合は、釣り糸を右に引いたときにLEDが点灯し、左に引いたときにはLEDが点灯しませんが、豆電球の場合は、釣り糸を右に引いたときにも左に引いたときにも点灯します。LEDの替わりに電子ブザーや太陽電池用モーターを接続すると、音や運動によってモーターが発電機としてはたらいていることを確認することもできます。授業では、さらにコンデンサー(1F、5.5V)の充電と放電を組み合わせて、発電機としてはたらくモーターを使ってコンデンサーを充電し、その電荷を放電させてLEDを点灯させましたが、この実験がうまくいく生徒とうまくいかない生徒がいます。ところが、実験がうまくいかない生徒でも、LEDの替わりに太陽電池用のモーターは回転します(写真17参照)。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?例会では、その理由について検討しました。
生徒によってコンデンサーの充電がうまくいかないためその電荷を放電したときにLEDが点灯しない場合がある理由については、モーターの軸に1回巻きつけたひもの両端を手で引っ張りながら左右に引くときにひもに充分な張力が発生していないためにひもとモーターの軸の間ですべりが生じてしまい、モーターの軸の回転数が上がらないのではないかという指摘がありました。この可能性が高いと思われますので、再度実験する機会があれば、電圧計や電流計を使って生徒によってどの程度発生する電圧や電流に差があるのかを調べてみたいと思います。また、充電したコンデンサーによってLEDを点灯させることができない場合でも、太陽電池用のモーターが回転する理由については、LEDを点灯させるためには少なくとも2V以上の電圧が必要(LEDの種類によっても点灯させるために最低必要な電圧の値が違いますが、低い電圧でも点灯する赤色LEDであっても、2.○Vの電圧が必要)ですが、この実験のときに使用した太陽電池用モーターには「0.4V、27mA」と書かれていて、低電圧、微小電流でも回転するモーターのようです。このモーターの外観は普通の直流モーターと余り違いがなさそうに見えるのですが、分解した経験がないため内部の構造が普通のモーターとどう違うのか分かりません(ローターが軽く、エナメル線の巻数も少なく、電気抵抗が小さいためか?)。ちょっともったいないですが、一度分解してみる必要がありそうです。
(5)ウィンド・チャイム(岩瀬充璋)
...写真18〜写真20参照
伊豆高原に出かける機会があり、駅の近くにある「おもしろ博物館」の出口付近でたまたま出会ったウィンド・チャイムのいい音に魅力を感じ、作ってみようと思い立ったとのことです。DIYの店で入手できるような直径2〜3cm程度の金属パイプを50cm〜1mの長さに切り、全部で5本の金属パイプを金属の針金で作った枠(餅を焼く金網のような形状)に針金でぶら下げます。5本の金属パイプの中央部には、厚さ1cm程度の木の板を15cm×15cm程度の正方形に切ったものを水平に紐でぶら下げます。この木の板の下にはさらにCDを鉛直になるように紐でぶら下げてあり、屋外で風が吹くとCDが力を受けて木の板を動かし、鉛直にぶら下げた金属パイプに衝突すると、「カーン」という澄み切ったとてもいい音が出ます。風鈴と同じ原理ですが、響きのあるいい音が長く続くと同時に、高さや音色の違う音(金属パイプの長さや材質が5本とも違うため)が楽しめます。「おもしろ博物館」で見かけたウィンド・チャイムの場合は、風を受ける板は少し曲げたアルミ板であったそうですが、CDをぶら下げた場合は風向きによっては風の力をとらえることができないそうです。アルミ板を少し曲げるだけで、いろいろな方向から吹いてくる風の力を利用できるようになるようです。
金属パイプをぶら下げるための針金を取り付ける位置は、手で金属パイプを持って側面を木の板で叩き、もっとも音が響くところを選んだそうで、その位置に釘と金槌を使って穴を開けてから針金を使ってパイプをぶら下げています。金属パイプの側面を木の板で叩く位置によって音の高さが変化するかどうか試してみましたが、叩く位置には関係がありません。また、5本の金属パイプのうちの2本のパイプについては長い方が高い音が出るという意外な現象が起きますが、この原因もよく分かりませんでした。金属の種類やパイプの厚さによっても音の高さが変わってきそうですが、体系的な調査をしていない現時点でははっきりしたことは不明です。このあたりのことについて、調べた結果をまとめた文献があるかも知れません。
例会では、金属パイプの側面を板で叩いたときに音が出る仕組みがどうなっているのかについて議論しましたが、よく分かりませんでした。物理の教科書で扱われている「開管の共鳴」の場合は音源がパイプとは別にパイプの外側にある場合であり、パイプは単なる共鳴管です。ところが、ウィンド・チャイムの場合は金属パイプの側面を叩くことによって音を発生させていますので、金属パイプは共鳴管であると同時に発音体にもなっています。おそらく、金属パイプを伝わる縦波、横波(基本振動だけではなく、倍振動もあるはず)両方が関係していて、また、それらの共振現象も関係していると思われますが、金属パイプを伝わる振動を測定しなければ詳しいことは分かりません。発生する音の分析とあわせ、実験、理論ともにかなり複雑な検討になりそうです。
(6)青空と夕焼けの実験(倉田慎一)
...写真21〜写真29参照
秋葉原の秋月電子通商で入手したRGB三色超高輝度LEDを光源とした「青空と夕焼けの実験」が紹介されました。このLEDは一枚のアルミ製の放熱板の上に赤色、緑色、青色の3個の超高輝度LEDが貼り付けられている構造をしています。放熱板の裏側に「OS 5050A」と書かれていますが、秋月のホームページによれば、このLEDはOptoSupply LimitedのOSTCXBTHC1Sという1Wタイプのもので、価格は1個280円です。数年前まで放熱板付の超高輝度LEDは1個数千円の高価なものでしたが、今回紹介されたLEDは非常に安価な超高輝度LEDで、しかもRGB三色LEDです。RGBそれぞれのLEDの+、−の端子が独立しているため、それぞれのLEDに接続した電流制限抵抗の値を変化させることによって赤色、緑色、青色の強度を自由に変更することができるので、どんな色をつくることも可能です。放熱板上に貼り付けられているRGB三色のLEDの取り付け位置が近く、各LEDの半値幅が120°と広いため周囲をまんべんなく照らすことができるので、赤色、緑色、青色のバランスを変えることで、自由に望みの色をつくることが可能です。
「青空と夕焼けの実験」を行なうためには、RGB三色超高輝度LEDの赤色、緑色、青色の強度を変えながら、この3色を混合した結果白色に見えるようにRGBのLEDの電流制限抵抗の値を調整します。このようにしてつくり出した白色光を上に向けて照射した状態で一種のスペーサーとしてセロテープをLEDの外側にかぶせ、その上にアクリルエマルジョン(直径0.09μmのアクリル球が入っている)の入った水を入れたメスシリンダーを置くと、レーリー散乱によってアクリルエマルジョンの入った水の色がメスシリンダーの下部では青みを帯び(青空)、上部では赤みを帯びた色(夕焼け)になります。さらに、RGB三色LEDのスイッチを切り替えて、入射させる光の色を青色、緑色、赤色と変えながらその光の透過距離を比較すると、波長の短い青色が最も短く、波長の長い赤色が最も長く、緑色は両者の中間であることが一目瞭然です。この実験によって波長の短い青色の光が散乱されやすく、波長の長い赤色の光が散乱されにくいことが分かります。
また、このRGB三色超高輝度LEDは光の色の混合に関する説明のためにも使いやすいLEDで、赤+青→マゼンタ、緑+青→シアン、赤+緑→イエロー、赤+緑+青→白、...と次々と色の組みあわせを変えながら、光の色の混合の結果を実験で直接示すことができるとてもきれいな実験ができます。例会では、この混合した光の色を見せるのためにLEDの上に被せるものをその場でいろいろ試してみましたが、紙コップや乳白色のロートが効果的で、どの角度からもきれいな色の散乱光が見えました。光の色の混合の実験で特に驚く人が多いのは、赤+緑→イエロー(黄色)の実験結果だそうです。おそらく絵の具の混合の経験から考えると、赤色と緑色を混ぜて黄色になるとは予想できないためでしょう。加算混合と減算混合の基本的な違いを際立たせる実験として、光の混合と絵の具の混合を比較しながら実験を進めると面白いかも知れません。
この実験について過去の発表を調べてみると、第85回例会(2007.1.27.)で紹介された「白色LEDとホットスティックを用いた光の散乱の実験(倉田慎一)」で使用された白色LEDは青色LEDの青色の光を蛍光物質によって白色の光に変えるタイプでした。また、第86回例会(2007.6.16.)で紹介された「白色LEDとホットスティックを用いた光の散乱の実験(倉田慎一)」で使用された白色LEDは1個のLEDの中に赤色、緑色、青色のLEDが入っているタイプでした。ただ、この頃のRGB三色LEDは光の散乱の実験を行なう光源としては光の輝度が不足していましたが、今回紹介されたRGB三色超高輝度LEDは光源として充分な輝度を持っています。なお、アクリルエマルジョンとスライドプロジェクターを使った「夕焼けの実験」については、第20回例会(1995.10.21.)、第25回例会(1996.7.6.)、第43回例会(1999.7.3.)、第44回例会(1999.9.18.)の「秦野物理サークル報告」を参照して下さい。
以下に、例会で出されたいくつかの提案を列挙します。
@メスシリンダーの中に入れるアクリルエマルジョン入りの水を徐々に増やしていく(透過光の色が徐々に黄色→オレンジ色→赤色と変化していく)ようにしてはどうか?
Aメスシリンダーの上に鏡を45°の角度で固定して、透過光の色を正面から見えるようにするとよいのでは?...このようにすると、青い光を入射させた場合でも透過光は赤みをおびている(青い光の中にわずかに赤い光が含まれているため)。
B光の加算混合の実験ではメスシリンダーのどの高さを見るかによって色が違ってくるので、色を見せたい高さ以外の部分は黒い筒などで隠すようにしてはどうか?
CRGB三色超高輝度LEDの電源として直流電源を使用して5Vの電圧を得ているが、実験装置全体をできるだけ安価にするためには乾電池(単一また単三)の方がよいのでは?
(7)六角折り(鈴木孝雄)...写真30〜写真36参照
「パタパタ」についてインターネットのホームページを調べているうちに、「六角折り」の作り方が紹介されているホームページに出会い、面白そうなので作ってみたという報告です。「六角折り」はコピー用紙などを使って連続した正三角形を複雑に折り曲げたり重ね合わせたりして作った六角形のものですが、(写真30〜写真32)のように重ね合わせた部分を開きながら裏返していくと、1面→2面→3面→1面→2面→3面→...と3つの絵が次々と現れます。ただ、インターネットのホームページ上では作り方について説明していても、なぜそのようなことになるかとか、そのことがどのような意味を持つかとかいうことは余り説明されていないようです。いくつもあるホームページの中で「メビウスの帯」との関連を少しだけ触れているものがあったので、「六角折り」と「メビウスの帯」の違いについて実際に作りながら考えてみると、「メビウスの帯」は細長い短冊状に切った紙を途中で180°ひねってから両端を貼り付けているのに対し、「六角折り」は180°×3=540°ひねってから両端を貼り付けていることに気付き、短冊状に切った紙を540°ひねってから両端を貼り付けて「六角折り」を作る方法を工夫し、その方法が紹介されました。この紙面で説明するのは至難の技ですが、A3の用紙を縦に四等分してから、その短冊状の紙を540°ひねってから(写真33参照)両端を貼り付けて、徐々に形を整えていき(写真34、写真35参照)、一辺の長さが87mmになるようにする(写真36参照)と、「六角折り」ができ上がります。
例会では、その場で作り始める方もいましたが、慣れないとなかなか作るのは難しそうです。今回紹介されたものは、3回絵が変わるタイプのものでしたが、12回絵が変わるものもあるそうです。なお、この「六角折り」の正式名は「ヘキサフレクサゴン」で、イギリスの数学者アーサー・H・ストーンが1939年に考案したものだそうです。なお、数学的な詳しい検討をしているものとして、「ヘキサフレクサゴン(hexaflexagon)の一般解」(西山 豊、「大阪経大論集・第54巻第4号・2003年11月」)がホームページ上で公開されています。
(8)1945〜のフォールアウト(久保田信夫)
...資料2参照
前回の「第107回秦野物理サークル報告」で広島や長崎に原子爆弾が投下された1945年以降の「フォールアウト」(「放射性降下物」)に関する資料やその解説の一部のみを紹介しましたが、まだ紹介していない資料やその解説の続きを紹介します。また、前回の報告に添付した資料は印刷がうまくいかず非常に不鮮明なものになってしまいましたが、その後インターネット上のいくつかのホームページで同じ資料のかなり鮮明な図等を得ることができたものもあり、今回その資料(1/20〜8/20)を再度印刷しました。
9/20の「1945年のまとめ」にあるように、広島や長崎に投下された原子爆弾の特徴として、
空中爆発であったため放射性物質は急激な上昇気流に乗って上空に巻き上げられ、そのため、爆心地の地表での放射性物質による汚染は意外に少ないということが分かります。しかし、原子爆弾の爆発による高温によって生じた上昇気流に乗って上空に巻き上げられた放射性物質は雨が降ると、その中に含まれて「黒い雨」となって地上に降り注ぎました。
世界全体のフォールアウトについては、10/20の「核実験の年度別回数」にあるように、1950年代から1980年代にかけて原子爆弾の爆発実験が盛んになされたことや、11/20,12/20にあるように、大気中での原子爆弾の爆発実験が多く実施された1950年代から1960年代にかけて大量の放射性物質が大気中に撒き散らされ、フォールアウトが高い値を示しています。大気中での原子爆弾の爆発実験が最後に実施されたのは、1980年に中国によってなされたものが最後で、その後は地下での爆発実験になったため、フォールアウトの値は低い値を示すようになりました。13/20にあるように、1986年のチェルノブイリの原発事故によって急激にフォールアウトの値が高くなる(14/20のように、の降下量にしぼったグラフにも1986年のチェルノブイリの原発事故の影響がはっきり出ています)現象は起きましたが、世界全体としては徐々に値が低くなってきています。今回の福島第1原発の事故で地球規模でのフォールアウトはどれぐらい増えたのか具体的なデータはまだ公開されていないようですが、海洋の汚染とあわせかなりの量になるものと予想されます。
15/20、16/20のグラフより中国から飛来する黄砂が増えると日本で検出される放射性物質の量が増えることが分かりますが、これは中国での核実験の影響であると思われます。17/20は中国のモンゴル自治区における土壌中のによる汚染度を示す表ですが、土壌がかなり汚染されていることが分かります。18/20のまとめにあるように、空中での核実験によって地球規模で放射性物質の降下があり、日本の場合は中国からやってくる黄砂に含まれるによる汚染が全国的に広がっていたようです(マスコミ等でも余り大きな問題として扱われていなかったように思うのですが、何か政治的なからみがあったのでしょうか?)。このようなデータを見ると、今回の福島第1原発の事故が地球規模での放射性物質による汚染にどのような影響があるのだろうかと心配になります。おそらく広い範囲で長期間の影響が残るものと思われます。
19/20は日本で収穫される白米の中に含まれる、の経年変化を表わすグラフです。食品の中にも核実験の影響がはっきり出ています。20/20にあるように、生命や健康に影響が出ない範囲の放射線被爆量として年間1ミリシーベルト以下とする基準が妥当であるかどうかについてもいろいろな説があるようですが、放射線の被爆量をできるだけ少なくする努力を地球規模で進めていく必要があることは明らかだと思われます。
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒252−1123 神奈川県綾瀬市早川1485−1
神奈川県立綾瀬西高等学校 塚本栄世
TEL:0467−77−4251
FAX:0467−76−8199
【5】次回例会(第108回秦野物理サークル)について
1月28日(土) 14:00〜17:00
例会の会場は伊勢原子ども科学館です。
なお、今年度の例会日程は以下の通りです。
3月24日(土)
例会は、時間は14:00〜17:00、会場は伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
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