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例会の様子
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第109回秦野物理サークル
2012.3.19.発行
第109回秦野物理サークル報告
日時:2012年1月28日(土)14:00〜17:10
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:稲葉一弘(伊勢原市役所)、岩瀬充璋(神奈川大学)、久保田信夫(立花学園)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(綾瀬西高校)
計6名
【1】発表項目
(1)放射線量のグラフ(鈴木孝雄)...資料1参照
(2)空気の共鳴(鈴木孝雄)...写真1〜写真5参照
(3)LEDに流れる電流の測定(岩瀬充璋)...写真6参照
(4)ホットカーペットの仕組み(岩瀬充璋)...写真7、写真8参照
(5)星座早見(稲葉一弘)...資料2、写真9参照
(6)ステッカー式線量計(久保田信夫)...資料3、写真10、写真11参照
(7)「電子ブロックmini」の紹介(久保田信夫)...写真12〜写真17参照
(8)「マグネットビュアー」の紹介(塚本栄世)...写真18〜写真23参照
(9)RGB三色LEDとスペクトル(塚本栄世)...写真24〜写真31参照
(10)虹の原理(塚本栄世)...図1、写真32〜写真36参照
(11)資料の紹介(塚本栄世)...資料4〜資料7、図2参照
【2】発表内容
(1)放射線量のグラフ(鈴木孝雄)...資料1参照
第106回例会(2011.7.23.実施)で発表された放射線量のグラフの続報です。昨年3月11日の地震および津波に引き続き、福島第一原子力発電所で起きた事故によって大量の放射性物質が広範囲にまき散らされる結果となりましたが、その後時間の経過とともに各地の放射線量のデータは少しずつ落ち着いてきたようです。今回発表されたグラフもそのことを示しています。(半減期の短い放射性物質が原子核の崩壊によって非放射性物質に変化し、半減期が長い放射性物質の影響だけが残っている状態になったのかもしれません。)このグラフは朝日新聞の紙上で発表されたデータを300日以上の期間に渡り丁寧にプロットしたもので、時間の経過とともに各地の放射線量が低下してきていることがよく分かります。
これらのグラフの中で、「飯館」、「福島」、「郡山」、「南相馬」、「白河」のデータが最近急に低下しているのが目立ちますが、原因は何でしょうか?例会では、この原因として何が考えられるかについて議論しましたが、放射性物質の除染が進んだためかもしれません。積雪の影響で測定データに変化が生じたということは考えられないかという指摘もありました。一方、「浪江」のデータが高いままであるのが気になります。「浪江」のデータがしばらく新聞紙上に掲載されていなかった(グラフの右端の部分がなめらかになっているのはそのためです)ことも含め、不可解です。今後も新聞紙上にデータが発表される限りは、グラフのプロットを続ける予定だとのことです。
日本国内の陸上での放射線量はかなり落ち着いてきているようですが、長期的な観点では、河川や海洋における放射線量の変化や放射性物質の拡散、生物濃縮も含めた魚や海草への影響など未知の部分が残されています。
(2)空気の共鳴(鈴木孝雄)...写真1〜写真5参照
ギター等の楽器から出ている音の高さを調べる電子機器(写真1参照、「チューナー」といいます)が紹介されました。この電子機器は例えばギターの「ド」の音をあわせることに使うことができます。今回紹介されたものは、1,000円程度で購入することができたものだそうですが、このチューナーが入っていた箱には「KORG pitch clip」と書かれています。
まず、固有振動数440HZの音楽用の音叉(金属の丸棒で作られている)を手に持って机の角に軽くぶつけて鳴らし、その音をこのチューナーで調べると、「A」と表示されました(写真2参照)。「A」は「ラ」の音を示します。(「ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド」は「C D E F G A B C」と表します。)次に、1mの長さの木製の物差しの
先端にチューナーを取り付け、440HZの音叉を鳴らしてから、音叉の持ち手の先端部(球状になっている)を物差しに押し当てると、チューナーには「A」が表示されました(写真3参照)。音叉を押し当てる場所を物差しの上で変えながら同様のことを繰り返しても常に「A」が表示されることから、音叉に生じた440HZの振動が物差し全体に伝わる現象が起きていると考えられます。
次に、試験管の中に適量の水を入れてから試験管の口の部分を斜めに吹くと共鳴音が出ますが、この音の高さをチューナーで測定してから、この試験管の底を物差しに押し当てて同じように吹いた(写真4参照)ところ、物差しの先端に取り付けられたチューナーには同じ表示が出ました。この場合も、試験管の中に生じた気柱共鳴の振動が試験管の底を通して物差し→チューナーと伝わったと思われます。このときの試験管内での気柱共鳴について、気温や開口端補正を無視しておおまかな計算をしてみると、空気中を伝わる音の速さを340m/s、音の振動数を440HZとして、閉管における基本音が出ている状態での空気柱の長さ(つまり、音波の波長の四分の一)が19.3cmとなり、水を入れた試験管の中の空気柱の長さの実測値とほぼ一致します。従って、音波の波長を調べるのにチューナーが使えそうだとのこと。
音叉を鳴らしてから音叉の持ち手の先端部(球状になっている)を机やギターのボディー(共鳴箱のはたらきをする)に押し付ける(写真5参照)と、音波が放射される面積が大きくなるため、音が大きくなります。エネルギー保存の法則から考えて、このとき音が出ている時間は音叉を単体で鳴らした場合に比べ当然短くなると考えられますが、実際にやってみると音叉単体と余り差がないようなので、これはなぜかということが問題になりました。どの程度音が小さくなるまで音が出ているとするか(人の耳で音が聞こえている間は音が出続けているとみなすのが妥当だと思われますが、そのためには静かな場所で実験する必要があります)、また、音叉の叩き方や音源と耳との距離を一定にする等の細かな実験条件に気を配る必要があります。人間の耳に頼るのではなく、マイクを使ったパソコン計測をする必要があるのかもしれません。いずれにしても、一度実験してみたいものです。
(3)LEDに流れる電流の測定(岩瀬充璋)...写真6参照
最近いろいろなところで放熱板付きの超高輝度LEDのことが話題になっています。かってLEDの特徴は電流が小さいことであっただけに、最近話題の超高輝度LEDにどの程度の電流が流れるのか実際に測定してみたという報告です。
秋葉原で入手した「PARA EP204K-35RGB Enhanced Power LED」という超高輝度白色LED、単一乾電池4本で作った6Vの直流電源、電流制限抵抗(実際には、説明書の計算式によって求まる抵抗値の2〜3倍の抵抗を使用)を使ってLEDを点灯させ、そのときの電流を測定した(写真6参照)ところ、60mAでした。なお、このLEDの説明書には以下のように電流制限抵抗の抵抗値を計算する式が書かれていました。
「Vf...赤2.2V 緑3.5V 青3.5V If...150mA
[電源5Vの場合の計算例] 20mAの電流を流していると仮定して、計算する。
赤...(5-2.2)[V]÷0.020[A]=140[Ω]
(ここで、(5-2.2)[V]は電流制限抵抗にかかる電圧です。)
緑...(5-3.5)[V]÷0.020[A]=75[Ω]
青...(5-3.5)[V]÷0.020[A]=75[Ω] 」
20年程前のLEDでは、一般的に使われていたものは電流が1mAに満たないものが多く、豆電球を点灯させるために必要な100mA程度の電流に比べてほんのわずかな電流で光るという大きな利点がある、ただし、用途は限られているというものでした。ところが、時代の経過とともに「高輝度」→「超高輝度」→...とどんどん明るくなり、最近出回っている放熱板付きの超高輝度LEDでは直接LEDを見ると目に障害を受ける可能性があるものまで出てきています。
例えば、最近話題になっている放熱板付きの超高輝度LEDでは消費電力が1Wを越えるものがあり、このLEDに5Vの電圧をかけたとすれば200mAの電流が流れることになります。参考までに、第89回例会(2008.9.27.実施)で紹介された白色パワーLEDのデータの一部を示します。いずれも、インターネット通販の「audio-Q」で購入したものですが、この頃はまだ高価な製品でした。
・Cree XLamp 7090 XR-E (白色) アルミ基板付き 1,470円
光束:107ルーメン/350mA 電圧:3.3V/350mA , 3.7V/1000mA(Max)
指向特性:75度 大きさ:9.0×7.0×4.3mm メーカー:Cree(米)
・NS6W083BTE(白色) アルミ基板付き 880円
光束:100ルーメン 電圧/電圧:3.3V/300mA , 350mA(Max)
指向特性:120度 大きさ:六角対辺20mm メーカー:日亜化学
・LXK2-PW14-V00 Luxeon K2 (白色) アルミ基板付き 1,260円
光束:140ルーメン/1500mA(Max) 電圧/電流:3.85V/1500mA(Max)
指向特性:140度 大きさ:11.5×7.5mm メーカー:Lumileds
・5W白色LED点灯部品セット 7,400円
LED : LXHL-LW6C Luxeon Star 白色 アルミ基板付き
光束:120ルーメン/1500mA(Max) 電圧/電流:6.84V/700mA(Max)
指向特性:120度 大きさ:六角対辺19.9mm メーカー:Lumileds
定電流ユニット:AQPD-700 電源:ACアダプター 12V1A ヒートシンク:17F50-L50B
【参考】ルーメンについて
ルーメンは、「全ての方向に対して1カンデラの光度を持つ標準の点光源が1ステラジアンの立体角内に放出する光束」と定義される。
(4)ホットカーペットの仕組み(岩瀬充璋)...写真7、写真8参照
ホットカーペットをゴミとして処理するためにはさみで小さく切る必要があり、その作業の際、非常に力がいる(カーペット内部にある発熱用の電線をはさみで切断するためであると思われます)ことからカーペットの中の構造を調べてみようと思い立ったとのこと。まず、カーペットの布地は燃えにくいものが使われているだろうと予想しながら実際に燃やしてみたところ、意外に燃えやすいものでできている(ということは、内部の電線がそれほど高温にならないように作られているはず)ことが分かったそうです。続けて、発熱する電線の構造をルーペで詳細に調べたところ、以下のように非常に複雑な構造であることが分かりました。
細い糸でできた芯の周りを4重になった細い金属線(色からいって、銅線のように見えます)でらせん状に巻き、その周囲を透明なプラスチック(ポリエチレンと思われるとのこと)の被覆で包み、さらにその外側を銅製と思われるらせん状のリボン(内側の4重になった細い金属線のらせんとは逆向きの回転の向き)で巻き、最後にその外側から塩化ビニールと思われる白っぽいパイプで包んであります。単純に考えると、発熱する金属線ならニクロム線を思い浮かべますが、非常に長くて細い金属線を使う必要性からニクロム線を使うことはありえないとすぐ気付きそうに思えますが、実際にはカーペットを分解してみないとなかなか気付きません。電気抵抗の小さい銅線(あるいは、銅の合金)であっても細く長くすることで抵抗を大きくして発熱させる仕組みであると思われます。また、内側の4重になった細い金属線と外側の金属製のリボンのらせんの回転の向きが逆になっている(写真7参照)ことは、カーペットに力が加わったときに金属線を切れにくくするための工夫であると考えられるとのこと。
例会では、ルーペで拡大して発熱線の観察をするだけではなく、発熱線を完全にばらばらにしてその構造をしらべました(写真8参照)。右から順番に@細い糸でできた芯の周りを4重になった細い金属線で巻いたらせんA透明なプラスチック製の被覆Bその外側を巻いた金属製のらせん状リボンCその外側の白っぽい被覆
このような検討をしてみると、普段何気なく使用している電気製品の中にも様々なノウハウが詰まっており、製品を開発した技術者の努力の跡が偲ばれます。
(5)星座早見(稲葉一弘)...資料2、写真9参照
原体験教育研究会の緒方秀充氏が制作した星座早見が紹介されました。星座を描いた図Bの外周に月日の目盛が振られ、夜空の東西南北を描いた図Aに時間の目盛が振られています。両者の目盛を合わせると、「何月何日の何時何分に夜空の東西南北のどの方向にどんな星座が見えるか」が分かる仕組みです。実際には、図Aと図Bを組み合わせたものをCD用のビニールケースの中に入れて、回転できるようにしてあります(写真9参照)。
描かれている図や文字が非常に小さいので老眼になっている人にとってはこの細かい図や文字を見るのは大変ですが、細かいものもよく見える小学生や中学生にとっては平気なのだろうと思います。授業の際には、この星座早見だけではなく、もっと拡大印刷した「春の星座」、「夏の星座」、...も配るそうです。
普通の星座早見は時間の経過とともに星座が動く「天動説」タイプですが、今回紹介された星座早見は星座は固定していて、見える範囲が動く「地動説」タイプです。その他にこの星座早見を制作した際に留意した点として、子どもたちが学校で作って家に持ち帰ってもすぐ捨てられてしまわない大きさにすること(大きいものは邪魔なのですぐ親に捨てられてしまう傾向があるそうです)、できれば作った子どもたちもやがて机の引き出しの中に入れたまま忘れてしまい、何年かたってから再発見して興味を持ってくれればという願いも込められているそうです。
ところで、こんなに細かい図をどうやって描いたのだろうと思ってしまいますが、実は図や文字を大きく描き、縮小コピーすることで原版を仕上げているそうです。
(6)ステッカー式線量計(久保田信夫)...資料3、写真10、写真11参照
プラスチック製のカードでできたステッカー式線量計(写真10、写真11参照)が紹介されました。栃木県の宇都宮市のスーパーマーケットでたまたま見かけて2,500円で購入したとのことですが、インターネットでも同じ金額で簡単に手に入るそうです。このステッカー式線量計はカードの一部に照射を受けた放射線量に応じて色が変化する(ただし、いったん色が変化すると元に戻すことはできない)部分があり、その色によってこの線量計を身につけている人が被曝した放射線量のトータルが分かるようになっています。色の変化は速いようで、説明書には「応答時間:即時」と書かれています。線量計の有効期限は3年間で、3年経過すると現在の黄色から薄い灰色に変色してしまいます。久保田先生が身につけている線量計の色は購入した時と同じ黄色のままです。
ところで、放射線の照射によって色が変わる仕組みはどうなっているのでしょうか?いろいろ調べていますが、まだ詳しいことは分からないとのこと。放射線の照射によって起きる化学反応で色が変わるものがあるということでしょうか?
(7)「電子ブロックmini」の紹介(久保田信夫)...写真12〜写真17参照
「大人の科学 vol.32 2011年12月10日発売」(価格は3,990円)の付録(付録というよりこれがメインですが...)の「電子ブロックmini」(写真12、写真13参照)が紹介されました。この電子ブロックは1.5cm角ぐらいの正方形のプラスチック製のこま[表側には抵抗やコンデンサー等の電子素子の記号が描かれており(写真14参照)、裏側にはその電子素子と配線用の薄くて細い金属板がはんだ付けされている(写真15参照)構造です]を配線盤に沿ってはめ込んでいくだけでその回路をはんだ付けしたものと同じ性能を持つ回路を組み上げたことになり、その回路が正常に作動するというものです。もちろん、回路を変更するのは簡単で、こまを入れ替えるだけで完了です。短時間にいろいろなことを試すには非常に便利で、電子回路を組む実力をつけるためのトレーニング用として効果がありそうです。
「大人の科学 vol.32 2011年12月10日発売」の書籍の中では「LEDの点灯」、「ラジオの製作」、...AND、OR、NOT回路等も含め50種類の電子回路が紹介されており(うたい文句としては、「ラジオ、アンプ、うそ発見機など 25個のブロックで50の回路が組めます!」となっています)、それらの回路を配線盤にこまをはめ込むだけで簡単に作り、すぐにその動作を試すことができます。例会では、発振回路の学習用に準備されている「シンセサイザーの原理回路」をその場で試してみました。こまを配線盤にはめ込んでから、予め配線盤の右上に取り付けられているつまみ「チューニングノブ」を動かす(写真16参照、内蔵されているコイルの自己インダクタンスを変化させることになる)とスピーカーから出る音の高さが連続的に変化します。また、この状態で回路の中のコンデンサーの電気容量を変化させる(コンデンサーのこまを入れ替える)と音の高さが急に変化します。ハンダ付けによってこのようなことを実際に試そうとすると、配線されているコンデンサーをハンダゴテで外してから別のコンデンサーを再度ハンダ付けするという面倒な作業をやる必要があるのですが、電子ブロックではこまを1個入れ替えるだけで簡単に試すことができます。なお、このスピーカーはこの電子ブロックのキットの中に初めから入っており、スピーカーとしてもマイクとしても使用することができます(写真17参照)。
電子ブロックは1960年代以降途切れることなくいろいろなタイプのものが販売されてきたそうです。長い年月の間、生産中止になることなく販売が続いてきたということはそれだけの需要があるということで、電子ブロックで楽しみながら電子回路に親しみ、その後ハンダ付けに進むという流れで電子回路に慣れていった人がたくさんいたと考えられます。
(8)「マグネットビュアー」の紹介(塚本栄世)...写真18〜写真23参照
「マグネットビュアー」は磁場を色の変化で表示するやわらかいシートで、磁場がシートに垂直方向に加わると、その部分のシートの色が黒色に変化します(もともとの色は少し黒味を帯びた黄緑色)。実際には、シートを磁石に接触させると磁極に接触した部分の色が黄緑色から黒色に変化することを利用して磁極の位置、大きさ、形を知ることができます。ただし、磁極がN極であるかS極であるかまでは区別することができません。例えば、「マグネットビュアー」を机の上に置き、黒板にプリントなどを固定するための円板の形をしたフェライト磁石(黒板に接触する側は直径20mmの円形のフェライト磁石、黒板に接触しない側は直径38mmのプラスチック製円板)のフェライト面を「マグネットビュアー」(写真のものは21cm×10cmの長方形)の上に置いて(写真18参照)から磁石を取り去ると、平行な黒色の直線からなる縞模様が見られます(写真19参照)。隣り合った黒色の直線はおそらくN極とS極が繰り返されている構造で、そのように磁化する理由はN極からS極に向かう磁力線を狭い領域に閉じ込めることで磁力を強める工夫であると思われます。それに対して、表と裏がN極とS極に磁化された円板型のフェライト磁石(直径5cm、厚さ1cmで、中央部に直径1cmの穴が開いている)を机の上に置いた「マグネットビュアー」の上に置いて(写真20参照)から取り除くと、黄緑色のシートの上に黒色のドーナツ型の模様が残ります(写真21参照)。このフェライト磁石は厚さ方向に磁化されているので、表と裏(N極とS極)のどの面を「マグネットビュアー」の上に置いた場合にも同じ結果となります。黒色に変色した「マグネットビュアー」を元の色に戻すには、シートの面に平行な方向に磁場を加える(写真22参照、つまりシートの端に沿って上記円板型のフェライト磁石の表面または裏面をこすり付けるように動かす)ことでできます。
ところで、「マグネットビュアー」の色が変化する仕組みはどうなっているのでしょうか?その構造は、大きさが50〜100μmの扁平な磁性粉が入ったマイクロカプセルがシートの表面に印刷されていて、そのマイクロカプセルの向きがシートの面に対して平行か垂直かによってシートに入射した光が反射されるか透過されるか(このときは最終的に光が吸収されることになります)が決まり、シートの色が黄緑色になったり黒色になったりします。
例会では以下の実験を行ないました。鉛直に立てた外径15mm、内径12mm、長さ1mのアルミパイプの上端部から円板型のネオジム磁石(直径10mm、厚さ5mm)を4枚重ねたもの(全体として円柱形)を落下させると、アルミパイプのアルミニウム内部に渦電流が生じ、その渦電流とネオジム磁石の相互作用によりネオジム磁石がアルミパイプの中をゆっくり落下するという「電磁制動」の現象が起きます。このアルミパイプの外側に「マグネットビュアー」を巻きつけビニールテープで固定してから鉛直に立て、アルミパイプの上端からネオジム磁石を落下させると、ネオジム磁石が「マグネットビュアー」の位置にきたときに「マグネットビュアー」の色が黄緑色から黒色に変わります(写真23参照)。つまり、アルミパイプの外からネオジム磁石が見えるのです。アルミパイプの中をネオジム磁石が落下していくとき「マグネットビュアー」の色が黒色に変わるということは、ネオジム磁石のつくる磁力線がアルミパイプの外に洩れているということだと思われます。
以上の実験は10数年前「マグネットビュアー」について知ったときに教わったものですが、物理の授業の中で久しぶりにこの実験をやってみたところ生徒の反応が非常によかったので例会で取り上げることにしました。「マグネットビュアー」の色が磁場によって変化する仕組みは興味深いものがあり、「磁場を可視化することができるのであれば、電場も可視化することができるのだはないか?」と思えます。その他の分野でも現象をどのようにして可視化するかということは重要なことで、磁性粉が入ったマイクロカプセルの技術のような可視化に応用することができる基礎技術が他にもいろいろありそうです。
(9)RGB三色LEDとスペクトル(塚本栄世)...写真24〜写真31参照
前回の例会(2011.11.26.実施)の「青空と夕焼けの実験」(倉田慎一)の中で紹介された超高輝度RGB三色LED(赤色LED、緑色LED、青色LEDが共通の一枚の放熱板の上にハンダ付けされている)のスイッチボックスの電流制限抵抗を可変抵抗で置き換えればもっと使いやすいものになるのではないかと考え、電流制限抵抗として500ΩB級の可変抵抗3個を使ったスイッチボックスを作り(写真24参照)、光のスペクトルの実験をやってみました。ただし、前回の例会で紹介された超高輝度RGB三色LEDが今回の例会に間に合わなかったため、たまたま手元にあった高輝度RGB三色LED(写真25参照)を使用した実験です。
スイッチボックスの中には、RGB三色LEDの中の赤色LED、緑色LED、青色LEDを点灯させるそれぞれの回路の中に、押したときのみONになる「プッシュONスイッチ」(写真26参照)が使われているので、RGB三色LEDから放射される光の色は赤色、緑色、青色(3種類のスイッチのうち1個のスイッチだけをONにした場合)、黄色、シアン、マゼンタ(3種類のスイッチのうち2個のスイッチをONにした場合)、白色(3種類のスイッチ全部をONにした場合)の計7色の光を放射させることができます。それに対して、スイッチボックスの電流制限抵抗を可変抵抗に置き換えると赤色LED、緑色LED、青色LEDから放射される光の強度のバランスを自由に変えることができるので、原理的にはどんな色の光でもつくることができます。従って、光のスペクトルの実験を行なうための光源としては理想的です。
今回光のスペクトルの実験としてまず行なったのは、黄色の光についての実験です。人間にとって黄色に見える光としては、@黄色のスペクトルをもつ黄色の光、A赤色と緑色の光が適度な強度で混ざっているために黄色の光に見える場合 の二つの場合がありますが、このことを示す実験にRGB三色LEDを使うことができるかどうか検討しました。まず、黄色のLEDとRGB三色LEDの中の赤色LEDと緑色LEDを同時に点灯させ、両者の色がほぼ同じになるように赤色LEDと緑色LEDの可変抵抗を調節します。次に、黄色のLEDを点灯させ(写真27)のように「DVDを用いた簡易分光器」を使ってこの黄色の光のスペクトルを観察すると、(写真28)のように光のスペクトルは黄色のみです。それに対して、RGB三色LEDの中の赤色LEDと緑色LEDを同時に点灯させた場合(この場合も、光の色は黄色に見えます)の光のスペクトルは赤と緑を含みますが、黄色は入っていません(写真29参照)。肉眼ではこの2種類の黄色を区別することができませんが、スペクトルは明らかに違います。
人間の色の知覚は、目の網膜にある色を検知する細胞である3種類の円錐細胞(赤色の光を受けると興奮する細胞、緑色の光を受けると興奮する細胞、青色の光を受けると興奮する細胞)が興奮するバランスの違いによって最終的には脳が色を判別しています。従って、@黄色のスペクトルをもつ黄色の光の場合(赤色の光を受けると興奮する細胞と緑色の光を受けると興奮する細胞が、脳が黄色と判断するバランスで興奮している場合)と、A赤色と緑色の光が適度な強度で混ざっているために黄色の光に見える場合(光のスペクトルの中には赤色と緑色が中心として含まれているが黄色は含まない場合、赤色の光を受けると興奮する細胞と緑色の光を受けると興奮する細胞が、脳が黄色と判断するバランスで興奮している場合)を区別することができません。
次に、白色LEDについての光のスペクトルの実験を行ないました。上記と同様に、人間にとって白色に見える場合、3種類の円錐細胞が脳が白色と判断するバランスで興奮していることになり、その条件さえ満たせばスペクトルの違いを人間の目と脳のシステムは区別することができません。白色LEDにはいくつかのタイプがあり、今回は@青色LEDと蛍光物質を組み合わせた白色LED(詳細は【参考1】参照) A赤色、緑色、青色の光が適度な強度で混ざっているために白色に見える(当然、光のスペクトルの中には黄色は含まれていない)白色LED(詳細は【参考2】参照) の2種類について実験しました。両者を点灯させてその色を比較すると、どちらも白色でほとんど同じ色に見えますが、そのスペクトルを観察してみると、@の白色LEDのスペクトルは赤〜青のほぼ全域をカバーしている(写真30参照)のに対して、Aの白色LEDのスペクトルは赤、緑、青を中心としていろいろな色が入っていますが、黄色は含まれていません(写真31参照)。
人間の目が色の違いに対して敏感であるのは、ヒトと猿の共通の祖先がアフリカの樹上で暮らしていた頃の名残り(果物が熟しているかどうか色で判別していた)なのでしょうか?人間の感覚に関係した実験をするときには、進化の過程についていろいろ想像をたくましくすることにもなり、楽しむことができます。
【参考1】
白色LED 日亜化学工業 NSPW500BS 4000mcd 4〜20V 15mA一定
...1999.8月秋月電商にて400円で購入
【参考2】
フルカラーLED 日亜化学工業 NSTM515 If=20mA
光度 : 150mcd(赤)、520mcd(緑)、110mcd(青)
(10)虹の原理(塚本栄世)...図1、写真32〜写真36参照
透明アクリル円板(直径5.0cm、厚さ2.0cm)を水滴とみなし、それを透明なアクリル製の円筒形容器(直径13.0cm、深さ4.5cm)の中に入れ、容器の内部に線香の煙を満たしてからレーザーポインターの赤色光線を使って、空気とアクリルの境界面での光の反射や屈折の様子を調べる予定でした(写真32参照)。ところが、落ち着いて実験する時間がなくなってしまったため、線香の煙を使うことをあきらめ、透明アクリル円板にいろいろな角度からレーザー光線を入射させて空気とアクリルの境界面での光の反射や屈折のおおまかな様子を調べる実験に切り替えました。
虹ができるとき、(図1)に示すように、水滴に入射する白色光は空気→水の境界面で屈折して水滴の中に入射し、続けてA点で反射してから、水滴から出るときに水→空気の境界面で再度屈折します。その間、光の波長によって光の伝わる速さが異なる(光の波長によって光の屈折率が異なる)いわゆる「光の分散」の現象のために光の波長によって光の進む経路が少し違ってきます。そのため、見上げる角度によって色が異なるので虹が生じます。A点で光が反射する際、おそらく大部分の光は屈折して空気中に出ていくだろうと予想されます((図1)のA点において水→空気の境界面に入射する光の入射角θは水の臨界角48.6°より小さく、そのため光の全反射の現象は起きていないと思われます)が、そのことを実験で確かめたいと思っていました。
例会では、透明アクリル円板にいろいろな角度からレーザー光線を入射させて空気とアクリルの境界面での光の反射や屈折について調べてみましたが、予想通りの結果でした。つまり、A点で光の全反射の現象は起きず、大部分の光はA点で屈折して空気中に出ていき、A点で反射する光はかなり弱い(そのため、虹の色はうすい)ことが分かりました。続けて、虹が生じる場合(水(屈折率は1.33)と空気(屈折率は1.00)の組みあわせ)と物質の組みあわせが違います(アクリル(屈折率は約1.5)と水(屈折率は1.33)の組みあわせ)が、透明なアクリル製の円筒形容器の中にアクリルエマルジョンの入った水を入れ、さらにその中に透明アクリル円板を入れて虹が生じる場合の光の屈折や反射について検討しました(写真33参照)。そのとき「アクリル円板を使うのではなく、透明なアクリル製円筒形容器の中に入ったアクリルエマルジョン入りの水そのものを水滴だと考えればいいのではないか?」との指摘がありました。実際に試してみると、この方法の方が水滴の中での光の屈折や反射の様子がよく分かります(写真34参照)。また、水滴を表わす透明なアクリル製円筒形容器の中に入ったアクリルエマルジョン入りの水の周囲が空気なので、透明なアクリル製容器のうすいアクリルの層を無視すれば、虹について検討する際の空気中に浮かんだ水滴と同じ条件です。
例会では、また、水滴の役割をするアクリル製円筒形容器の中に入ったアクリルエマルジョン入りの水に白色光((9)の実験に使用した白色LED NSPW500BSを光源として使用)を入射させた場合、虹が生じるときと同じように空気→水滴の境界面で屈折して水滴の中に入射し、続けてA点で反射してから、水滴から出るときに水滴→空気の境界面で再度屈折した光に相当する光が色づいているかどうか調べてみた(写真35参照)ところ、少し赤みを帯びた部分と青みを帯びた部分が見られました。今回はこのような実験をする予定ではなかったため単スリットの準備もしないでラフな実験をしましたが、後日、白色光を単スリットで細く絞って同様の実験をやってみたいと思います。
(11)資料の紹介(塚本栄世)...資料4〜資料7、図2参照
@トンボと風力発電...資料4、図2参照
日本文理大学工学部宇宙工学科教授、マイクロ流体技術研究所長である小幡章(おばた あきら)氏のホームページの中では、トンボの翅(はね)の特徴を風力発電の羽根に応用した技術について紹介されています。(図2)の白い線はトンボの翅(ギンヤンマの前翅)の断面で、非常に複雑な形状をしていますが、これは翅に粘りつく空気を渦として翅から引き離すことに役立っています。
トンボは4枚の翅を別々に自由に動かすことができ、急旋回や空中でのホバリングなど自由自在に飛び回ることができます。また、少々風が吹いても平気で、強風の中でも安定した飛行が可能です。これは強い風の力を受け流すことができるからで、この特徴を風力発電の羽根に応用することが可能なのです。
A六角折り...資料5参照
六角折りの型紙が紹介されていたホームページがありましたので、その型紙を印刷して配りました。是非、作ってみましょう。...http://e38.blog98.fc2.com/blog-entry-28.html
また、六角折り等についての本格的な研究論文がみつかりましたので、その紹介をしました。
...「ヘキサフレクサゴン(hexaflexagon)の一般解」(西山 豊、大阪経大論集・第54巻第4号・2003年11月)
...http://www.osaka-ue.ac.jp/gakkai/pdf/ronshu/2003/5404_ronko_nisiyama.pdf
B「アルミパイプをたたいたときに出る音」...資料6参照
前回の例会で話題になったウィンド・チャイム(何本かの金属パイプを糸でぶら下げて叩くと、とてもいい音が出る風鈴のようなもの)に関連した資料です。吉澤純夫先生が「続KBGK」という物理教育サークルにアルミパイプをたたいたときに出る音についての理論的な解析を依頼し、2004.12.3.都立戸山高校で実施された続KBGKの例会で霜田光一先生(東京大学名誉教授)からその解析結果の説明を受けた内容をまとめた資料です。
C日本の硬貨...資料7参照
前回の例会で発表された「コイン選別器」について検討した際、日本の硬貨がどのような金属の合金であるかが話題になりました。そのことに関する資料が得られたので、紹介しました。
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒252−1123 神奈川県綾瀬市早川1485−1
神奈川県立綾瀬西高等学校 塚本栄世
TEL:0467−77−4251
FAX:0467−76−8199
【5】次回例会(第110回秦野物理サークル)について
3月24日(土) 14:00〜17:00
例会の会場は伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
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