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例会の様子
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第95回秦野物理サークル
2009.11.20.発行
第95回秦野物理サークル報告
日時:2009年10月3日(土)14:00〜17:10
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:岩瀬充璋(神奈川大学)、倉田慎一(教育センター)、久保田信夫(立花学園)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(厚木東高校)、平野郁子(山北高校)、深津貴志(伊勢原子ども科学館)
計8名
【1】発表項目
(1)身近な容器による共鳴音についての検討(鈴木孝雄)...写真1、写真2参照
(2)富士山登山における温度、気圧等の測定(志村潤子)...写真3参照
(3)ワームを利用した浮沈子の紹介(岩瀬充璋)...写真4、写真5参照
(4)不思議な長方形(岩瀬充璋)...写真6〜写真9参照
(5)六方最密構造と立方最密構造の違いを説明する立体模型の制作(岩瀬充璋)
...資料1、写真10、写真11参照
(6)鉄パイプやアキ缶を使った釜鳴りの実験(久保田信夫)...写真12〜写真18参照
(7)魚に手で触われる水槽の実験(塚本栄世)...図1、写真19参照
(8)水を利用したボイルの法則の実験(追試)(塚本栄世)...図2、写真20参照
(9)擬似太陽による温度上昇の測定(追試)(塚本栄世)...資料2、写真21〜写真25参照
(10)地球独楽を用いた惑星系における惑星の自転の実験(倉田慎一)
...写真26〜写真29参照
【2】発表内容
(1)身近な容器による共鳴音についての検討(鈴木孝雄)...写真1、写真2参照
ペットボトル、ガラス瓶、各種プラスチック製容器、ジュースの空き缶 等、身近な容器(写真1参照)を集め、その口の部分に斜めにそっと息を吹き込むと、その容器に固有の高さの「ポー」といういい音が出ます(写真2参照)。これは容器の大きさや形に固有の共鳴音が発生したために起きた現象で、その共鳴音発生の仕組みには興味をそそられます。いろいろな容器を鳴らしてみると気づきますが、発生する共鳴音の高さは物理の教科書等で解説されている閉管や開管の共鳴だけで説明できる訳だけではなく、明らかにそれとは異なる共鳴音が発生しています。つまり、試験管を吹いたときに発生する共鳴音は試験管の口の部分に定常波の腹(開口端補正を無視した場合)があり、試験管の底の部分に定常波の節がある典型的な閉管の共鳴(試験管の長さの中に音波の1/4波長が入っている)ですが、同じ長さのガラス製の容器であっても、丸底フラスコでは共鳴音の高さがぐっと低くなります。このときの共鳴をヘルムホルツ共鳴と言いますが、その共鳴音の振動数は、丸底フラスコの球部の体積をV、パイプ部分の長さをL、半径をr、断面積をS、開口端補正をδ、音速をcとおくと、
という式で表わすことができます。
実際にいろいろな容器の口の部分に息を吹き込んで、その容器固有の共鳴音を出そうとすると、うまく音が出るものとどうやっても音が出ないものがあります。音が出ない容器の口の部分は外側に出っ張りがあり、吹き付けた空気の流れによって渦ができないことが音が出ない原因のようです。音が出る容器では、吹き付けた空気の流れが容器の口の部分に作られている一種のエッジのはたらきをする部分にぶつかって渦が発生し、この部分でいろいろな振動数の音が発生します。発生したいろいろな振動数の音の中で容器の大きさや形によって決まるある振動数の音波が生き残ることになります。
ところで、ヘルムホルツ共鳴に興味をもったきっかけは、前回の例会で紹介された「紙風船を叩くとふくらむのはなぜか?」という疑問を解決するために、紙風船がふくらむ仕組みを考えたとき、音波の反射や共鳴について調べる必要があると感じたためとのこと。
今後の課題として、以下のようなことが考えられます。
@容器を吹いたときに発生する共鳴音の周波数を調べて、ヘルムホルツ共鳴の式と比較する。
A小型のマイクを容器の中に入れて、容器の中のどの部分が定常波の腹や節であるかを調べる。
(2)富士山登山における温度、気圧等の測定(志村潤子)...写真3参照
夏休み中の8月22日〜23日に富士山に登り、せっかくの機会だからいろいろデータを取ってみようとデータロガーである「イージーセンス」をリュックサックに入れて、温度、湿度、圧力、光の強さ、音量を測定した結果が紹介されました。
新5合目→頂上→新5合目の往復に1日と4時間55分かかりましたが、その間の温度、湿度、圧力、光の強さ、音量を時間を横軸としてパソコン画面上にグラフとして表わしたものが紹介されました。まず、圧力ですが、新5合目で76.3[kPa]、頂上では64.4[kPa](地表での圧力は100[kPa]...下記【参考】を参照のこと)でした。志村さん自身、頂上では頭痛がして、少し気持ちが悪かったそうです(軽い高山病の症状か?)。標高8848mのエベレスト(酸素濃度は平地の三分の一程度)のような高い山に登るときは低い気圧(低い酸素濃度)に体を慣らすために時間をかけて徐々に高度を上げていくそうですが、標高3776mの富士山(酸素濃度は平地の三分の二程度)でも短時間で登山すると、高山病にかかることがあるそうです。
【参考】圧力の単位について
1[atm](1気圧)=1.0×105[Pa]=1.0×102[kPa]
つまり、地表での圧力が100[kPa]です。
気温については、頂上で7.9℃だったそうですが、風が強かったため体感温度が低く、手が凍えるほど寒く感じたそうです。「高度が100m上がると、気温が約0.6℃下がる」と言われていますので、平地での気温は3776÷100×0.6+7.9=30.5℃となります。頂上に到着した時刻の平地での気温は何℃だったのでしょうか?
また、下山するときの温度と湿度の関係については、「山を下り、温度が上がると湿度が下がる」傾向がグラフにはっきり現れています。
今回の測定では、グラフの横軸が時間軸になっていますが、標高を横軸にとって気温や気圧がどのように変化するのかを直接グラフにできればデータとしてもっと面白いのではないでしょうか。そのためには、GPS等を利用して標高を測定する必要がありますが、そのようなセンサー(?)があるといいですね。その代わりに、気圧の値から標高を計算してその値を横軸にとって気温や気圧のデータをグラフにしてもいいのかもしれません。
また、よく言われているように、平地で購入した「ポテトチップ」の袋が富士山の頂上ではパンパンに膨れてはち切れそうになる(あるいは、頂上で空っぽにしてフタをしっかり閉めたペットボトルが平地ではペチャンコにつぶれてしまう)そうですが、その写真を見たかったです。
(3)ワームを利用した浮沈子の紹介(岩瀬充璋)...写真4、写真5参照
釣り用の疑似餌の一種である「ワーム」を利用した浮沈子が紹介されました。紙パック式ジュース等に使われている細くて短いストローの下におもりとしてナットをつけ、ストローの上にはワームをかぶせます(写真4参照、たまたま寸法がぴったりで、水が洩れません)。これで浮沈子のでき上がりです。この浮沈子を水を入れたペットボトルの中に入れ、フタをしてからペットボトルの側面を強く握ると浮沈子が沈み、手を離すと浮沈子が浮かび上がります。ペットボトルの側面を握ったり手を離したりしても浮沈子が動かない場合は、ストローの中に入っている水の量を丁寧に調整すると、浮沈子本来の動きをするようになります。浮沈子が沈むときはワームの腕が広がり(写真5参照)、浮かび上がるときは腕がすぼまった状態で浮かび上がります。沈むときにワームの腕が広がるため、それが水の抵抗となり、浮沈子の動きがゆっくりとしたものになります。ワームは釣道具を販売している店でももちろん買えますが、最近100円ショップで5〜6個100円で販売されるようになったそうです。
(4)不思議な長方形(岩瀬充璋)...写真6〜写真9参照
第93回秦野物理サークル(2009.5.30.実施)で「錯視や紙を使った手品の紹介(鈴木孝雄)」の中で紹介された「B牛乳パックと紙テープで作る不思議な長方形」をさらに発展させたもので、縦6列、横3行に分割された絵(全部で18枚)をあわせて1枚の写真(潮岬しおのみさき、写真6参照)ができ上がるように作られています。縦6列を交互に折りたたんで1列にしてから、最初と違う面が出るように開いていくと、別の写真(丹沢の塔ノ岳で見かけた鹿の写真、写真7参照)が現れます。この他にも2枚の写真(写真8、写真9参照)が現れ、全部で4種類の写真を見せることができるようになっています。
(5)六方最密構造と立方最密構造の違いを説明する立体模型の制作(岩瀬充璋)
...資料1、写真10、写真11参照
六方最密構造と立方最密構造(面心立方構造)の違いを図に描いて説明することは非常に難しく、立体模型を使って説明するのが最も賢明な方法です。その目的のために手作りした立体模型2種類が紹介されました。一つは、透明アクリル板とガラス製のビー玉を使ったもの(試作品1と名づける、写真10参照)で、もう一つは、透明アクリル板と手作りのガラス球を使ったもの(試作品2と名づける、写真11参照)です。
六方最密構造と立方最密構造(面心立方構造)の違いは、資料1に示されているように、六方最密構造は第1層の平面における最密構造のAの位置に大きさの等しい球を並べ、次にAの位置の間にあるBの位置に第2層の球を並べます。次の第3層、第4層はそれぞれAの位置とBの位置に重ねていきます。つまり、六方最密構造はAの位置、Bの位置、Aの位置、Bの位置、...と繰り返す構造です。それに対して、立方最密構造(面心立方構造)は第1層の平面における最密構造のAの位置に大きさの等しい球を並べ、次にAの位置の間にあるBの位置に第2層の球を並べ、さらに、Bの位置の間にあるCの位置に第3層の球を並べます。次の第4層、第5層、第6層はそれぞれAの位置、Bの位置、Cの位置に重ねていきます。つまり、立方最密構造(面心立方構造)はAの位置、Bの位置、Cの位置、Aの位置、Bの位置、Cの位置、...と繰り返す構造です。
以上のような立体的な構造の違いを透明アクリル板にガラス製のビー玉を接着しながら手作りしたものが試作品1で、ガラス製のビー玉を接着した4枚の透明アクリル板を水平にして上下に重ねた構造です。真上から見ると六方最密構造である状態で、上の2段を引き出すと立方最密構造(面心立方構造)となります。ただ、ビー玉は大きさがいろいろであり、形もきれいな球状ではありません。また、ビー玉が大きいため下の層のビー玉が見えにくくなるという欠点もあります。試作品2はこの欠点を補うために原子を表わす球としてビー玉より小さいガラス玉を色ガラス棒を材料にしてガラス細工によって手作りし、それを透明アクリル板に接着しています。
(6)鉄パイプやアキ缶を使った釜鳴りの実験(久保田信夫)...写真12〜写真18参照
釜鳴りの実験である以下の@、Aの実験が紹介されました。
@直径約3cm、長さ約80cmの鉄パイプの中に端から約5cmの位置に金網を入れ、その鉄パイプを鉛直に立てた状態にして下からハンディー・ガスバーナーの炎で金網を真っ赤になるまで約5秒間強熱し(写真12参照)、鉄パイプを立てたまま横にずらすと、「ボー」というかなり大きな音が出ます。ところが、鉄パイプを鉛直に立てた状態でガスバーナーの炎で熱してから、鉄パイプを水平にしながら横にずらすと音が出ません。この場合も、すぐ鉄パイプを鉛直に立てると音が出ます。
A350mLのビールのアルミ缶3個(このうち、2個は上下の部分を取り除いて筒状にし、残りの1個は上の部分だけを取り除いて底の部分は残してあり、このアルミ缶を一番下にする)を縦につないだ容器を作り、下から約5cmの位置に軸方向と垂直に金網(写真13参照)を張っておきます。この容器の中に20〜30mL程度の水を入れ(写真14参照)、下からガスバーナーの炎で熱して水を沸騰させます。容器の上からアップルパイ等のお菓子を作るときに重しとして使うアルミの粒(写真15参照)を10粒程度入れる(写真16参照)と、「ボー」という大きな音が出ます。
例会では、これらの音を「HandyOscillo」(音波を解析するフリーソフト、第92回秦野物理サークル(2009.3.28.(土)実施)で「音波解析フリーソフトを利用した教室内での音速測定」として紹介されたもの)で調べた結果が報告されました。@、Aともに発生する音の波形はかなりきれいなサインカーブ(写真17参照)で、音波の振動数は@が375HZ、Aが250HZという結果でした。
これらの現象がなぜ起きるかについて検討するためのヒントとして、日本の神社等で行なわれる釜鳴りの神事についても紹介されました。釜鳴りは岡山県の吉備津神社等で吉兆を占う鳴釜神事(なるかましんじ)として知られています。釜鳴りを起こすには、鉄製の釜でお湯を沸かし、その上に置いた甑(こしき、「蒸籠(せいろ)」と同じ)の中にある「すのこ」の上に玄米を入れると、「ボー」という低い音がします。この音が強く長く鳴るほど良いとされます。上田秋成の「雨月物語」の中でも鳴釜神事が描かれているそうです。
ところで、これらの現象が起きるメカニズムについてですが、@の実験装置は「レイケ管」(1859年オランダのレイケが発見した現象を再現する実験装置)として知られている実験装置で、この現象は現時点では熱音響自励振動の一種であると解釈されているようです。「レイケ管」は@の実験装置のことを言い、内部に金網を入れた金属パイプを立てて、この金網をガスバーナーの炎で真っ赤になるまで加熱してから炎から出すと「ボー」という低い音が出ます。このように、熱エネルギーが音エネルギーに変換される現象がひとりでに起きます。この現象が起きる仕組みについては、衝撃波や金網付近の空気の膨張と収縮などが考えられていますが、まだ解明されていないようです。
例会では、音が出る仕組みについていろいろ検討しました(写真18参照)が、すっきりした説明をするのは現時点では難しく、今後の課題です。
(7)魚に手で触われる水槽の実験(塚本栄世)...図1、写真19参照
1.5Lのペットボトル2本を組み合わせて製作した水槽のA部の圧力を下げるための逆流防止弁と圧力を上げるための逆流防止弁をペットボトルのふたに取り付け、さらにそれらの逆流防止弁にそれぞれプラスチック製のシリンジを取り付けたものを製作しました。2個のシリンジを操作してA部の圧力を外気圧より少し低くすると、水平に取り付けたペットボトルの中の水面の位置を水平に取り付けたペットボトルの上端部Bと同じ高さに調整することができます。
このような構造の大型水槽を作り、水槽の中にいろいろな魚を入れて泳がせれば、B部の水面の位置で魚に手で触ることができます。例会では、「サンシャイン60の水族館にある。」とか、「四国で見たことがある。」という指摘がありました。
ところで、水族館でこのような水槽を持っているところは、A部の圧力を下げるための真空ポンプを常に作動させていると思われます。水の中に溶けている酸素の濃度を保つために、水中に空気を吹き込むエアーレーションを常に行なっているはずであり、また、餌やりの際にA部に空気が入ることもあるはずです。A部を真空にすると、水中に溶けている酸素がなくなり、魚が窒息する可能性がありそうですが、実際には水中に酸素を送り込みながら同時に真空ポンプでA部の空気を吸い出していると思われます。
(8)水を利用したボイルの法則の実験(追試)(塚本栄世)...図2、写真20参照
2009年度の日本理化学協会三重大会の研究集録に出ていた実験の追試です。図2のように、長さ1mの透明アクリルパイプ2本を鉛直に立て、2本のパイプの下部に中央に細いパイプを通したゴム栓を取り付け、その2個のゴム栓に通した細いパイプどおしをゴム管でつなぎます。この装置に水を入れ、2本のパイプの下部1/4程度の高さまで水を入れます。次に、片方のパイプ(このパイプをAとする)の上部にゴム栓を取り付けて(この時点で、パイプAの中に封入されている空気のモル数が決まってしまいます)から、もう一方のパイプ(このパイプをBとする)を上に上げていくと、パイプAの上部にある空気が圧縮され、空気柱の長さL[m]が短くなり、逆に、パイプBを下に下げていくと、パイプAの上部にある空気が膨張し、空気柱の長さL[m]が長くなります。従って、2本のアクリルパイプの中に入っている水の水面の高さの差をh[m]、パイプAの中に入っている空気の圧力をP[Pa]、大気圧をP0[Pa]、水の密度をρ[kg/m3]、重力加速度をg[m/s2]とおくと、下記関係式がなりたちます。
P=P0+ρgh
ここで、P、P0の単位を[atm]とし、P0=1[atm]、水深10[m]あたりの圧力を1[atm]であるとすると、下記近似式がなりたちます。
P=1+h/10
上記の近似式を使うと、アクリルパイプA、Bの水面の高さの差h[m]を測定するだけですぐにパイプAの中に入っている空気の圧力P[atm]が計算でき、パイプAの中に入っている空気柱の体積に比例する空気柱の長さL[m]との関係をグラフに表わすことができるので、簡単な測定をするだけで、ボイルの法則が成り立つことを確かめることができます。
普通はボイルの法則の実験をするときには水銀を使用しますが、教室で水銀を使って上記のような実験をすると、パイプに使用しているゴム栓が抜けたりすると、教室の床に水銀をばらまくことになり危険です。それに対して、この実験は水銀の替わりに水を使用しているので、もしパイプに使用しているゴム栓が抜けても床を濡らすだけで済みますので、気楽に生徒に実験させることができます。
(9)擬似太陽による温度上昇の測定(追試)(塚本栄世)...写真21〜写真25参照
発泡スチロール製の箱のフタの中央部に6cm×6cmの正方形の窓を開け、その部分に透明なアクリル樹脂板を接着します。この窓の上部からミニレフ球の光を入射させたとき、箱の内部の温度がどのように上昇するかを赤外線カットフィルターや可視光カットフィルターを使って測定しました(写真21参照)。発泡スチロール製の箱の大きさは箱の内側の寸法で高さ18cm、縦22cm、横18cm(この箱を「箱A」と呼ぶことにします)で、使用した光源は50Wのミニレフ球(写真22参照)「ELPA G−92H(F) ミニレフ球(フロスト) 50W E−17」で、「スポット照明に最適 口金17mm、全長75mm、バルブ径50mm 用途:スポットライト、スタンド、ディスプレイに適しています。」と書かれています。使用した温度計はD.I.Y.の店で購入したデジタル温度計で、おそらく半導体センサーが使用されていると思われます。温度センサーは温度計内部と長さ1m程度のリード線でつないだ外部センサーの2個が取り付けられていますが、今回の測定には熱容量の小さい外部センサーの方を使用しています(写真23参照)。
実験方法は、耐熱性口金を取り付けた木の板にミニレフ球を取り付け、その板を発泡スチロール製の箱の窓の真上約4cmの位置にスタンドで固定します。光が窓以外の部分を照射しないようにするためミニレフ球に裏が黒い工作用紙で作った円筒(内側が黒)をかぶせます。この状態で、ミニレフ球のスイッチをONにすると、ミニレフ球から放射される可視光や赤外線が窓から箱の中に入り、箱の内部の温度がかなり急激に上昇します。窓の外側に赤外線フィルターや可視光フィルターを取り付けたりして、いろいろな条件で箱の内部の温度がどのように上昇するか測定しました。
グラフ1は箱Aより少し大きい発泡スチロール箱を使って、フィルターの違いによる17分間の温度上昇を測定した結果です。窓にフィルターを一切つけない場合は25.9℃から48.4℃に22.5℃上昇、「チェックシート」(英単語を覚えたりするときに使う赤色と緑色のプラスチック製のシートで、可視光をほとんど通さないと考えられます)をつけた場合は25.6℃から43.3℃に17.7℃上昇、OHPの熱線カットフィルター(OHPのランプのすぐ上についている青みを帯びたガラス板...最近OHPを廃棄処分する学校が多いので、その際にOHPを分解して入手したい。赤外線をかなりカットします。)をつけた場合は26.3℃から35.1℃に8.8℃上昇しています。地表に届く太陽のエネルギーが赤外線50%、可視光48%、紫外線2%であることを考えると、上記の実験結果から、ミニレフ球から放射されているエネルギーは、太陽光に比べ、赤外線エネルギーの比率がかなり大きい(つまり、このミニレフ球は太陽に比べてかなり色温度が低い)と思われます。また、夏場の車用日除けに使われている「サンシェード」(表面がアルミ蒸着されている発泡ポリエチレンシート)を窓の外側に貼り付けた場合は、26.0℃から29.3℃に3.3℃しか上昇していません。
グラフ2は箱Aを使って、フィルターの違いによる6分間の温度上昇を測定した結果です。窓にフィルターを一切つけない場合は27.2℃から43.8℃に16.6℃上昇、NIRA−50Cという近赤外線カットフィルターをつけた場合は27.6℃から32.9℃に5.3℃上昇しています。近赤外線をカットすると温度上昇がかなり少なくなることが分かります。一方、チェックシートを使って可視光をカットした(赤外線はカットしていない)場合は27.1℃から40.9℃に13.8℃上昇しています。また、アルミ蒸着シートを窓の外側につけた場合(写真24参照)と窓の内側につけた場合の温度上昇を比較すると、外側につけた場合は27.1℃から28.6℃に1.5℃上昇したのに対して、窓の内側につけた場合は27.5℃から30.4℃に2.9℃上昇しています。アルミ蒸着シートを窓につける場合は、外側につける方が温度上昇を抑える効果が高いことが分かります。アルミ蒸着シートを窓の内側につけた場合は、透明アクリル板の窓から箱の中へいったん赤外線や可視光が入り、アルミの蒸着面で赤外線や可視光が反射されるものの、透明アクリル板の温度が上がってしまう(実際、実験終了後に透明アクリル板を手で触るとかなり熱くなっている)ために箱の中の空気の温度もアルミ蒸着シートを窓の外側につけた場合に比べて上昇します。なお、アルミニウムは赤外線のエネルギーを約90%反射します。
グラフ3は箱Aの内側に黒色の色画用紙を貼り付けた場合と黄色の色画用紙を貼り付けた場合(写真25参照)の12分間の温度上昇を測定した結果です。箱の内側に黒色の色画用紙を貼り付けた場合は23.6℃から55.7℃に32.1℃上昇、黄色の色画用紙を貼り付けた場合は24.5℃から49.8℃に25.3℃上昇しました。明らかに、黒色の色画用紙を貼り付けた場合の方が黄色の色画用紙を貼り付けた場合より温度上昇率が高いのです。ヨーロッパの氷河が融けるのを防ぐために、白色のシートを氷河にかぶせると氷河の後退を防ぐことができるそうです。その仕組みは、氷河は可視光や赤外線をよく反射しますが、地球温暖化によって氷河の一部が融けるとその部分は地面がむき出しになり、可視光や赤外線をよく吸収するようになるのでその周囲の氷河がどんどん融けていきます。
今後の課題として、以下のことが考えられます。
@地表に照射される太陽光とほぼ同じスペクトルの光源を使って実験する。
A今回の実験に使用したミニレフ球の可視光や赤外線のスペクトル(波長とエネルギー強度の関係)を調べる。
B地球温暖化についての実験として、箱の内部に二酸化炭素をつめた場合と、そうでない場合(普通の空気が入っている場合)の温度上昇について調べる。
C箱の窓の材質が透明アクリル樹脂である場合と透明ガラスである場合の温度上昇の違いを調べる。
Dアルミ蒸着シートを何枚も重ねた場合の温度上昇について調べる。
...宇宙服は金属の蒸着膜と断熱材の層を7〜8層重ねている。
E赤外線がフィルターを透過するかどうかをデジカメ(近赤外線に対しても少し感度を持っている)を使ってしらべる。
F箱の窓に赤、緑、青のセロハンを重ねて貼り付けた場合(可視光はほとんど完全に遮断されているが、赤外線は透過していると思われる)の温度上昇について調べる。
(10)地球独楽を用いた惑星系における惑星の自転の実験(倉田慎一)
...写真26〜写真29参照
100円ショップで購入した地球独楽2個を厚さ1mm、幅約2cm、長さ約40cmの金属板の両端にぶら下げ、鉛直に立てた金属棒の上にのせてバランスを取ります。このとき、地球独楽は金属板にゴム板を使って取り付け、抜け落ちないようにしています(写真26、写真27参照)。また、鉛直に立てた金属棒の先端には針を上に向けて画鋲を接着し、画鋲と接触する金属板の部分には金属製のホックの凹んだ部分(写真28参照)を使います。このような準備をしてから金属板を指で回転させ、ある程度の速さになってから指で金属板の動きを減速させる(写真29参照)と、止まっていた2個の地球独楽は金属板が回転していた向きと同じ向きに回転し始めます。この動きを太陽系の惑星の公転と惑星の自転の向きが等しいことの説明に使うために開発した実験です。金属板の回転の向き(太陽系の惑星の公転の向きに相当する)と地球独楽の回転の向き(惑星の自転の向きに相当する)が等しいことから、このような現象を角運動量保存の法則によって説明しようとしています。ただ、角運動量保存の法則が成立するための条件は、外力のモーメントの和が0であることですが、回転中の金属板を指で減速させる際に外力のモーメントがはたらいているので、角運動量保存の法則は成立しません。ただし、指で加えた力のモーメントは力学系全体の角運動量を減少させる方向にはたらいているので、太陽系の惑星の公転に相当する金属板の回転の角運動量が惑星の自転に相当する地球独楽の角運動量に変化していることは確かです。
例会では、今後の課題として以下のような指摘がありました。
@金属板をもっと長くそして重くした方が、指で軽く金属板の回転を減らした場合でも地球独楽の自転がはっきり現れるのではなかろうか?
A1/1000秒の解析が可能なビデオカメラを使ってこの運動を解析してみた方がよい。
...地球独楽の回転が始まるのは、金属板に指で触れた直後なのか、それとも金属板の回転がかなり減速してからなのか?
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒243−0817 神奈川県厚木市王子1−1−1
県立厚木東高校 塚本栄世
TEL:046−221−3158
FAX:046−222−8204
【5】次回例会(第96回秦野物理サークル)について
11月28日(土)14:00〜17:00 伊勢原子ども科学館
なお、今後の例会の日程・場所は以下の通りです。
・1月23日(土)14:00〜17:00
・3月27日(土)14:00〜17:00
場所はすべて伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
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