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例会の様子
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第96回秦野物理サークル
2010.1.18.発行
第96回秦野物理サークル報告
日時:2009年11月28日(土)14:00〜17:00
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:岩瀬充璋(神奈川大学)、久保田信夫(立花学園)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(厚木東高校)、平野郁子(山北高校)、深津貴志(伊勢原子ども科学館)、茂泉俊夫(綾瀬西高校)
計8名
【1】発表項目
(1)ストローを利用した空気ロケット(岩瀬充璋)...写真1〜写真3参照
(2)ペットボトルを使った空気砲(鈴木孝雄)...写真4〜写真6参照
(3)HandyOscilloを使って身近な容器による共鳴音を解析する実験(全員)
...写真7〜写真10参照
(4)針の先端やカッターの刃が黒く見える実験(塚本栄世)
...図1、図2、写真11、写真12参照
(5)モーター2台の軸をモーター・ピンバイスでつないで回転させる実験(塚本栄世)
...写真13〜写真16参照
(6)擬似太陽による温度上昇の測定(METEXのマルチメーターを使った温度測定)(塚本栄世)
...グラフ1、グラフ2、写真17参照
(7)ブラウン運動観察用永久プレパラートの試作(塚本栄世)
...図3、図4、写真18〜写真23参照
(8)超小型マイクの紹介(塚本栄世)...写真24〜写真26参照
【2】発表内容
(1)ストローを利用した空気ロケット(岩瀬充璋)...写真1〜写真3参照
「化学塾」(神奈川県内の化学サークル)で教わった子ども向けのストローを利用した空気ロケットが紹介されました。その作り方は、まず弁当のソース入れ等に使われている柔らかいプラスチック製容器のフタの中央部に半田ごてを押し当てて、熱で穴を開けます(子どもたちが自分で工作できるように、ドリルではなく半田ごてを使用)。その穴に直径5mmのジャバラ付きストローを差し込み、容器の側面に両面テープを貼り付けて机の上に固定します。次に、ジャバラ付きストローの先端部の角度を水平より少し上向きに調整します。これがロケットの発射台になります。飛び出すロケットは、直径6mmのストローを長さ7〜8cm程度に切り、先端部におもりとしてビービー弾を押し込んだものを使います。さらに、画用紙を切り抜いて作った
羽根をストローに貼り付けると、ロケットらしくなります。
発射台のジャバラ付きストローの先端部にストローロケットを取り付けて(写真2参照、直径5mmのストローの外側に先端をビービー弾で閉じた直径6mmのストローがかぶさっている状態になります)から、机の上に固定した発射台のプラスチック製容器の側面をげんこで叩くとストローロケットが勢いよく飛び出し(写真3参照)、天井に斜めに激突します。相当な勢いで
飛び出すので、広い場所で何メートルぐらい飛ぶのか(約15m飛ぶらしい?)試してみたいものです。また、発射台のジャバラ付きストローのジャバラ部分を曲げて、ロケットが真上に飛び出すように調整してからロケットを飛ばすと、あっという間に天井にぶつかってしまいます。発射台のジャバラの角度を調整するのは簡単にできるので、こどもたちが遠くへ飛ばしたり、高く飛ばしたり、的に当てたりいろいろな遊び方を工夫することができそうです。
ただ、飛び出すストローロケットがあまりにも勢いがよすぎるので、事故が起きないように安全面での配慮が必要ではないかとの指摘もあり、特に発射台のジャバラ付きストロー先端部の左右方向の向きを制限するようにガイドを取り付ける等の対策をとった方がいいのではないかという指摘もありました。
例会では、空気の替わりに水を入れたらどうなるかとやってみましたが、ストローロケットはほとんど飛びません(水平距離で1m程度しか飛ばなかった)でした。ストローロケットを遠くへ飛ばすには、水のような非圧縮性流体を使うのではなく、空気のように容易に圧縮することができる流体を使う必要があることが分かりました。
(2)ペットボトルを使った空気砲(鈴木孝雄)...写真4〜写真6参照
第94回秦野物理サークル(2009.7.25.実施)で発表された「紙風船が膨らむ仕組み」についてその後も考える中で、「中途半端にしか膨らんでいない紙風船を手でついたときに紙風船の内部に一種の衝撃波のようなものが発生するのではないか?」との考えから、空気砲について実験してみようと思い立ったとのことです。
「サイダー」等の発泡性飲料用のペットボトル(断面の形は円形)の底の部分をカッターで切り取り、その部分にゴム風船を張ってからビニールテープで固定します(写真4参照)。そのゴム風船の中央部を指で引っ張ってパッと離すと、ペットボトルの中に入っている空気が勢いよく飛び出し、いわゆる渦輪となってかなりの距離勢いを失うことなく飛んでいきます。この渦輪が人に当たると、その渦輪が当たった人には空気の固まりが自分にぶつかったことがはっきり分かります。つまり、ペットボトルと風船を使った簡単な工作で空気砲を作ることができます。
例会では、空気砲から飛び出す渦輪を観察するために蚊取線香の煙(線香の煙では余りうまくいかないとのこと)をペットボトルの中に満たしてからペットボトル式空気砲のゴム風船を引っ張って離すと、ペットボトルの口から煙でできた渦輪が飛び出す様子がはっきり見えました(写真5参照)。また、お茶やジュース等の発泡性ではない飲料用のペットボトル(断面の形は正方形)の場合は、ペットボトルの底を切り取ってその部分にゴム風船を張るという工作をしなくても、ペットボトルそのままで側面を叩くと渦輪が飛び出してくることが蚊取線香の煙を使った観察によって分かります。同じことを「サイダー」等の発泡性飲料用のペットボトル(断面の形は円形)で試してみても、そのような現象は起きません。ペットボトルの側面を叩いたときのペットボトルの体積変化が、断面の形が正方形の場合の方が円形の場合より大きい(ペットボトルの中に入っている空気の圧力変化が大きい)ためと思われます。断面の形が正方形のペットボトルの場合は、叩く方の手と反対の手でペットボトルをしっかり固定することができるのに対して、断面の形が円形の場合はそれがうまくできないことも影響しているようです。
子ども科学館には「スモークマシーン」があり、それを借りて渦輪の様子を見てみましたが、渦輪が真っ白で非常にはっきりと見え、また蚊取線香の煙より長い時間形が安定しています。そのため、連続的にいくつもの渦輪を空中に打ち出すことができ、多数の渦輪が同時に空中に漂っている状態になります(写真6参照)。
今後、渦輪や衝撃波も含め、手でついたとき「紙風船が膨らむ仕組み」について考えていきましょう。
(3)HandyOscilloを使って身近な容器による共鳴音を解析する実験(全員)
...写真7〜写真10参照
首の長いガラス瓶に斜めに息を吹き込むと、「ボー」という低い音が出ます。それに対して、同じ程度の長さの試験管ではもっと高い音が出ます。同じ程度の長さでありながら共鳴音の高さにかなり差がある理由は、首の長いガラス瓶は一種のヘルムホルツの共鳴器であるのに対して、試験管は高校物理の教科書等で扱っている閉管であるためであると考えられますが、共鳴音の振動数を実際に測定して、基本音の振動数についての計算結果と比較してみようということで、全員で手分けして測定、計算をやってみました。
HandyOscilloという音波解析用のフリーソフトをインストールしたノートパソコンの近くで首の長いガラス瓶を鳴らし、その共鳴音の振動数を測定したところ328HZであり、その波形はかなりきれいなサインカーブになっています(写真7参照)。それに対してガラス瓶とほぼ等しい長さの試験管(実際には試験管の方が少し長いため、水を入れて長さを等しくしました。写真8参照)を鳴らして、その共鳴音の振動数を測定したところ656HZであり、その波形は倍音が混ざっているため少し複雑な形をしています(写真9参照)。
それに対して、ガラス瓶の大きさや形についての値を測定して計算した(写真10参照)結果、356HZとなり、かなりよい一致をみました。
V...太くなっている部分の体積 → V=1.3×10−4m3
r...首の部分の半径 → r=1.0×10−2m
S...首の部分の断面積 → S=3.14×(1.0×10−2)2m2=3.14×10−4m2
L...首の部分の長さ → L=5.0×10−2m
c...音速 → c=3.4×102m/s
試験管を使用した場合の測定結果および計算結果は以下のように658HZとなり、ほぼ測定値と一致しました。
L...長さ → L=1.25×10−1m
r...半径 → r=7.0×10−3m
開口端補正ΔL=0.6×r=0.6×7.0×10−3m=4.2×10−3m
λ/4=L+ΔL
→ λ=4(L+ΔL)=4(1.25×10−1+4.2×10−3)=0.5168m
f=c/λ=3.4×102/0.5168=658HZ
今後、この実験をさらに発展させ、超小型マイクを使って共鳴器の中での音波の腹や節の位置を探っていく実験をやってみたいものです。
(4)針の先端やカッターの刃が黒く見える実験(塚本栄世)
...図1、図2、写真11、写真12参照
第95回秦野物理サークル(2009.10.3.実施)で「黒い色のものには2種類あり、一つは染料の組み合わせによってすべての光を吸収する場合であり、もう一つは白金黒のように表面が複雑な形をした粒子の表面で何度も光の反射を繰り返し、光が戻ってこないために黒く見える場合である。」という話題が出ました。そこで、第45回秦野物理サークル(1999.11.20.実施)「光トラップ」ですでに発表済の実験ですが、「多数の針を束ねて先端から見ると、ピカピカ光っているはずの針が真っ黒に見える」実験(写真11参照)を再度紹介しました。この実験で針の先端が真っ黒に見える理由は、「(図1)のように針の間の狭い空間に入った光は何度も反射を繰り返しそのたびに少しずつ光の吸収を受けながら奥に入っていき、戻って来れない。そのために、真っ黒に見える」ということでした。この原理から考えて、カッターの刃でも同様の現象が起きるはずと思われますが、実際にやっていみるとその通り(写真12参照、第48回秦野物理サークル(2000.5.20.実施)「カッターナイフによる光トラップ」ですでに発表済)で、この方が工作の手間がかかりません。
また、黒いビロードの生地が真っ黒に見える現象も、同じ原理で説明することができます。「光の鉛筆」(鶴田匡夫 著、(株)新技術コミュニケーションズ、1985.1.15.初版 発行、1998.11.20.第9版 発行)によれば、イギリスのレーリー卿が光の実験のために工夫した「レーリーの角(つの)」(「光トラップ」ともいう)も同じ原理を応用したもので、牛の角のような形をした内側がピカピカの金属光沢をもった素材のもので、(図2)のようにこの中に入った光は何度も内側で反射を繰り返し(そのたびに少しずつ光は吸収される)戻ってくることができないためです。光の実験を行う際、理想的な背景として真っ黒なものが必要な場合にこの「レーリーの角」を使ったそうです。
(5)モーター2台の軸をモーター・ピンバイスでつないで回転させる実験(塚本栄世)
...写真13〜写真16参照
これも第40回秦野物理サークル(1999.1.16.実施)「モーター実験...2台のモーターをシャフトで結合した場合」ですでに発表済の実験です。当時は集中して市販の直流モーター(マブチ260等)を使ったいろいろな実験を工夫しましたが、その頃実験した「モーター2台の軸をモーター・ピンバイスでつないで回転させる実験」を再度発表しました。モーター・ピンバイスは市販のモーターの軸に取り付けることができるもので、このモーター・ピンバイスにさらにドリル刃を取り付けると、ミニドリルとしていろいろな工作等に使うことができます。今回の実験では、まず、2台のモーターA、Bの軸を向かい合わせ、その軸が同一直線上にくるように正確に調整してから2台のモーターの軸の先端にそれぞれモーター・ピンバイスを取り付け、間にしんちゅう棒をはさんでモーター・ピンバイスで接続します(写真13参照)。次に、モーターAに電源として単三乾電池2個をリード線で接続します。一方、モーターBにもリード線2本をつないで、その間にニクロム線(今回は1kW用のコイル状のものを使用)を電気抵抗として入れて、リード線の端子の位置を徐々に変えながら抵抗値を変化させるようにします(写真14、写真15参照)。
まず、モーターAに乾電池をつないで回転させ、モーターBに取り付けた2本のリード線の間につないだニクロム線の長さを徐々に変えていきます。このとき、モーターの回転数が低くなるのは、ニクロム線が長い場合と短い場合のどちらかということを考えます。物理Uの授業の中でこのことを質問すると、ニクロム線が長い場合の方が電気抵抗が大きいので、モーターの回転が遅くなるだろうと予想する生徒が多いのですが、実際に実験してみると結果は逆で、ニクロム線が長いときより短いときの方がモーターの回転が遅くなります。つまり、ショートさせた方が回転が遅くなります。この現象は電気自動車でブレーキをかける際にモーターをショートさせる方法や、電車の回生ブレーキ等にも応用されています。
その理由は、モーターAによって回されているモーターBには電磁誘導によって回転にブレーキをかける向きに誘導起電力がはたらくので、モーターBにつないでいる電気抵抗が小さいほどモーターBに流れる電流が大きくなって電磁制動が強くかかることになり、モーターの回転は遅くなります。この問題は昨年のセンター試験に出題された問題と同じ内容です。
なお、モーターの回転が遅くなることは見ているだけでは分かりにくいので、モーター・ピンバイスのギザギザの部分に工作用紙で作った小さな台形の角の部分を押し当て、そのときに発生する音の高さが低くなることで分かるようにしています(写真15参照)。
また、上記の実験との関連で、モーターの軸に取り付ける「ダブルロッドジョイント」(写真16参照、模型店で2〜3個200円で購入できる)という円筒形をしたアルミ製のコネクターの紹介をしました。このダブルロッドジョイントは中心軸の部分に穴が開いていてその穴にモーターの軸を差し込んでから、側面に開けた穴にイモネジをねじ込んでダブルロッドジョイントをモーターの軸に固定することができます。第94回秦野物理サークル(2009.7.25.実施)「モーターによる発電実験」で倉田先生から紹介された「DEVICE(釣道具の一種で、浮きをテグスに固定するために使う)、3〜4mm程度の大きさで円錐形でオレンジ色のやわらかい材質でできている、1個300円程度」と同様にモーターの軸に巻きつけたひもが抜けないようにしたり、2台のモーターの軸をつないだりすることができます。
モーターを使った実験としては、モーター、豆電球、乾電池をつないで閉回路をつくり(この状態でモーターが回転し、豆電球はうっすらと点灯している)、回転中のモーターの軸を指ではさんで回転を遅くすると、豆電球が明るくなるという実験があります。これも回転中のモーターに発生する誘導起電力(電磁制動のはたらきをする)に関する実験で、意外性があるので、授業の中で演示すると効果的です。
(6)擬似太陽による温度上昇の測定(METEXのマルチメーターを使った温度測定)(塚本栄世)
...グラフ1、グラフ2、写真17参照
第95回秦野物理サークル(2009.10.3.実施)「擬似太陽による温度上昇の測定」で「ミニレフ球」(白熱電球で、一種の擬似太陽とみなす)からの可視光や赤外線の照射によって透明な窓(この上にいろいろなフィルターを貼り付ける)をもつ断熱した箱内部の温度が上昇する実験について報告しました。ただ、使用した温度計がDIYの店で購入した1個1000円のデジタル温度計で、温度を検知する部分(半導体の一種であるサーミスターをプラスチックで囲んだものと思われます)の熱容量が大きいために急激な温度変化に追随できていない可能性があり、なんらかの方法でそのことを確認する必要がありました。今回、秋葉原の秋月電子通商で入手したMETEX社のデジタルマルチメーターM-6000H(以後、METEXと略記する、感温部は熱電対)を使用して温度を測定し、デジタル温度計を使用した場合の温度と比較してみました。(グラフ1)がその測定結果ですが、予想通りデジタル温度計は温度を検知する部分の熱容量が大きいためか急激な温度変化に追随できていないことが判明しました。箱の中の温度が急上昇するときには12〜13℃デジタル温度計の方がMETEXより測定温度が低くなってしまいます。
METEXでは自動計測が可能で、USV接続によって測定データをパソコンに入力し、そのデータをCSVファイルとして保存することが可能です。CSVファイルはEXCELで読み込むことができ、そのデータを元にして簡単にグラフを描くことができます。つまり、METEXは1チャンネルのデータロガーとして機能します。また、METEXは1台約7000円ですので、何とか手が出る価格です。
METEXで使用することができるパソコン計測用のフリーソフト「TsDigitalMultiMeterViewer」がインターネット上で公開されており、それを使うとリアルタイムでグラフを描いたり、測定値をメーターの針の動きで示したり、取り込んだデータをCSVファイルとして保存したりすることが可能です。METEXでは温度以外に、電圧、電流、コンデンサーの電気容量、電場の強さ、周波数、光の強さ、音の強さ等を測定することができます。
このMETEX2台とパソコン2台を使って、ミニレフ球からの可視光や赤外線の照射によって透明な窓をもつ断熱した箱内部の温度が上昇する実験について、箱の底の中央と端に熱電対2個を貼り付けて温度の測定を実施しました。その結果、(グラフ2)のように中央部と端では約5℃中央部の方が温度が高くなることが分かりました。ただ、温度上昇の傾向はほぼ同じなので、今後この種の温度測定をするときは中央部のみの測定をし、端の部分では中央部より少し温度が低いと考えておけばよさそうです。
(7)ブラウン運動観察用永久プレパラートの試作(塚本栄世)
...図3、図4、写真18〜写真23参照
ブラウン運動を観察するための実験装置は、微粒子を含む水を封じ込めたプレパラートを顕微鏡に装着し、ステージの下から白色LEDの光を照射してから、顕微鏡の接眼レンズにビデオカメラを接近させ、そのビデオカメラの出力映像を液晶プロジェクターで拡大表示して、ブラウン運動を観察するようにしています(写真18、写真19参照)。この方法を使うと、顕微鏡の映像を液晶プロジェクターのスクリーンに拡大表示して生徒全員が同時に同じ映像を見ることができるので、授業を進めながらリアルタイムで顕微鏡の映像を扱うことができます。ブラウン運動を観察するための微粒子としては、森永乳業の「クリープ」をお湯に溶かしてから水で薄めたものが適していることを以前報告しました(第79回秦野物理サークル(2006.1.28.実施)。それに対して、企業から入手したプラスチック微粒子(材質はPMMA(アクリル)で、数種類入手したアクリル球の中で粒子径が1μm程度のものがブラウン運動の観察に適している)を水に混ぜたものでも同様の方法でブラウン運動を観察することができる(第81回、第82回秦野物理サークル(2006.5.27.、2006.7.8.実施))ことが分かり、これを封じ込めたブラウン運動観察用永久プレパラートを作ろうとして試作を繰り返してきました。ただ、ホールスライドガラスとカバーガラスの間にある水が問題で、水がある状態でガラスどうしを接着することができません。水の中でも接着できるという接着剤も試してみましたが、接着剤そのものの流動性が悪く現実問題としてホールスライドガラスとカバーガラスを接着して微粒子入りの水を封入することには成功しませんでした。そこで、発想を転換して、従来やってきたようにホールスライドガラスにスポイトで微粒子入りの水を滴下し、その上からカバーガラスをかけてからホールスライドガラスとカバーガラスを接着するという方法を止め、ホールスライドガラス(ホールの部分に予めドリルで2個穴を開けておく)とカバーガラスを接着してから微粒子入りの水をホールスライドガラスとカバーガラスの間にできた空間に注射器で注入するという方法に変更しました。
その具体的な方法は、まず(図3)のようにホールスライドガラスのホールの部分に裏側から超硬ドリル刃で直径1mmの穴を2個(1個は微粒子入りの水を注入する穴で、もう1個は空気抜き用の穴)開けます。次に、ホールスライドガラスの表側を上に向け、ホールの周囲にガラス専用の接着剤である「ピタガラス」(【参考1】参照)を塗ってからカバーガラスを載せ、上から指でしっかり押し付けてから紫外線(紫外線発生装置を使用、波長は253.7nm)を約1時間照射して、ホールスライドガラスとカバーガラスを接着します。両者がしっかり接着できたら、裏返してからホールの部分に開けた2個の穴の一つから注射器を使って粒子径が0.6〜1.0μmのアクリル球を含む水をホールスライドガラスとカバーガラスの間にできた空間と直径1mmの穴の途中まで(「スライドガラスの厚さの半分程度まで」という意味で、この作業を慎重にやる必要があります)注入します。次に、スライドガラスの裏側全面に「ピタガラス」を塗り、その上から平らなスライドガラスを押し付けてから紫外線を約1時間照射して2枚のスライドガラスを接着します。この間、ガラスどうしの接着面には水が一切ついていませんので完全に接着させることができます。なお、顕微鏡にこのプレパラートを装着するときは、カバーガラスを上にして顕微鏡のステージに載せてクリップで固定します(写真19参照)。
例会では、このようにして製作したブラウン運動観察用プレパラートを使って粒子径が0.6〜1.0μmのアクリル球のブラウン運動を観察しましたが、すべての微粒子がたえず活発にブラウン運動を続け、なかなか見ごたえがありました(写真20参照)。例会で使用したプレパラートは、製作してから2日目のものでしたが、次回例会の際に再度このプレパラート(製作してから約2ヶ月後)を使ってブラウン運動の観察をしてみたいと思っています。
ホールスライドガラスやカバーガラスにこだわらず、プレパラート全体を透明アクリル板で作ることも可能であると考え、厚さ3mmと0.5mmのアクリル板を使って(図4)のようなブラウン運動観察用プレパラートも試作してみましたが、カッターで切断した切り口がバリでささくれ立っているためか接着がうまくいきませんでした。また、微粒子入りの水を冷蔵庫の冷凍庫で凍らせてからホールスライドガラスのホールに入れ、その上からカバーガラスをかけてホールスライドガラスとカバーガラスを接着するという方法も考えられますが、まだ試していません。また、アクリルは比重が1.19と水より大きいため、アクリル球は下に沈んでしまう傾向がありますが、今後比重が水と同程度のプラスチック球を入手して同様のブラウン運動観察用プレパラートを製作してみたいものです。
【参考1】ガラス専用の接着剤「ピタガラス」について...写真21〜写真23参照
紫外線硬化樹脂(アクリル樹脂100%)からなる透明な液体のガラス専用接着剤で、UVライトあるいは太陽光によって硬化します。インターネットを通して通信販売で入手しました。
(8)超小型マイクの紹介(塚本栄世)...写真24〜写真26参照
(3)の「HandyOscilloを使って身近な容器による共鳴音を解析する実験」をさらに進めていくため、音波の共鳴箱の役割をするガラス瓶や試験管の中で音波の定常波がどのようになっているかについて調べる必要があります。そのためには、共鳴箱の中で場所によって音圧や振幅がどのように変化しているかを直接調べるための超小型マイクを入手する必要があります。手始めに秋葉原の秋月電子通商の通信販売を利用して、いくつかの超小型マイクを入手し、その紹介をしました(写真24参照)。
@C9767BB422LFPエレクトリックコンデンサーマイクロホン ... 直径10mm、高さ7mm、4個100円、電源は1.5V、最大電流0.5mA、50〜16000HZ、SN比60dB以上
AWM−62PC無指向性バックエレクトレットコンデンサーマイクロフォン ... 直径6mm、高さ2mm、4個100円、電源は1.5V、最大電流0.5mA、20〜16000HZ、SN比58dB以上、4.7μFコンデンサー、2kΩ抵抗を外付けする必要あり
BWM−61A無指向性バックエレクトレットコンデンサーマイクロホン(写真25参照) ... 直径6mm、高さ3.4mm、2個200円、電源は1.5V、最大電流0.5mA、20〜16000HZ、SN比62dB以上、1μFコンデンサー、2.2kΩ抵抗を外付けする必要あり
CSP0103NC3-3超小型アンプ内蔵マイク(写真26参照) ... 縦6.16mm、横3.76mm、厚さ1.45mm、2個300円、電源は1.5〜5.5V、最大電流0.35mA、100〜10000HZ、SN比59dB、0.47μFコンデンサーを外付けしたときに最大ゲイン20dBになる
なお、上記の「エレクトレット」とは、1924年海軍技術研究所の江口元太郎氏が発見した半永久的な誘電体(江口氏が発見した素材はカルナウバワックスと松脂の混合物ですが、現在では主にポリフッ化ビニリデンが使われています)のことで、電気を通しにくい高分子材料等を加熱溶融し、これに直流の高電圧を加えながら電極の間で固化させたあと電極を取り去り、電極に接していた面を正または負に帯電させると、それらの分極が半永久的に保持されているもののことです。電気的な永久磁石(マグネット)だと思えばいいのでしょう。一種の永久コンデンサーが作れますので、振動現象を解析するときのセンサーや超小型発電機(交通量の多い第三京浜で振動により発電...電力10μW→発信機の電源として使用、2008年12月にJR渋谷駅改札口での実証実験...電力1W)の心臓部としても応用されています。超小型マイクの分野では不可欠の素材で、携帯などにも応用されている技術です。
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒243−0817 神奈川県厚木市王子1−1−1
県立厚木東高校 塚本栄世
TEL:046−221−3158
FAX:046−222−8204
【5】次回例会(第97回秦野物理サークル)について
1月23日(土)14:00〜17:00 伊勢原子ども科学館
なお、今後の例会の日程・場所は以下の通りです。
・3月27日(土)14:00〜17:00
場所は伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
●今後、追加記入すべき内容
A抵抗やコンデンサーを外付けする必要がある。→直径3mmの透明アクリルパイプの先端に超小型マイクを取り付け、リード線をパイプの中を通して、抵抗やコンデンサーは反対側の端に取り付ける。
Bエレクトレットについて
半永久的な誘電体
...永久磁石に相当するもの。
Cダイナミック・マイクとコンデンサー・マイク
ダイナミック・マイク...音波の振幅が最大のところで信号が最大になる。
コンデンサー・マイク...音波の音圧の変化が最大のところで信号が最大になる。
◎P12として、グラフ1、グラフ2を67パーセントに縮小コピーしたものを貼り付ける。
...ただし、モノクロ印刷になるので、グラフの色を黒色にし、実線と点線で区別する。
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