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第97回秦野物理サークル

                                 2010.3.22.発行
第97回秦野物理サークル報告

日時:2010年1月23日(土)14:00〜17:10
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:稲葉一弘(伊勢原子ども科学館)、岩瀬充璋(神奈川大学)、久保田信夫(立花学園)、倉田慎一(教育センター)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(厚木東高校)、茂泉俊夫(綾瀬西高校)
                                  計8名

【1】発表項目
(1)HandyOscilloと小型マイクを使って共鳴音を解析する実験(全員)
   ...資料1、写真1〜写真9参照
(2)Gold Finger(岩瀬充璋)...資料2、資料3、写真10〜写真14参照
(3)一極(いっきょく)モーター(茂泉俊夫)...図1、写真15、写真16参照
(4)リードスイッチを利用した永久独楽の紹介(茂泉俊夫)
   ...図2、図3、写真17〜写真20参照
(5)「ふわーとハート」の紹介(稲葉一弘)...資料4、写真21〜写真24参照
(6)レイケ管の温度測定(久保田信夫)...写真25〜写真27参照
(7)ジョッキを利用した「教訓茶碗」(倉田慎一)...図4、図5、写真28参照
(8)ブラウン運動観察用永久プレパラート...2ヵ月後の状態(塚本栄世)
   ...写真29参照
(9)吹き矢(塚本栄世)...図6、写真30〜写真32参照
(10)振動モーターを使ったゲジ虫(塚本栄世)...図7、写真33参照


【2】発表内容
(1)HandyOscilloと小型マイクを使って共鳴音を解析する実験(全員)
   ...資料1、写真1〜写真9参照
 アンプ付き低周波発信機の信号をスピーカーに入れ(写真1参照)、そのスピーカーから出る音波を透明アクリルパイプ(内径22mm、長さ102cm)の中に入れて、パイプ内に生じる音波の定常波について調べる実験を行ないました。直径6mmの小型マイクにリード線をハンダ付けし、そのリード線を内径3mmの透明アクリルパイプの中に通して反対側に引き出し、コンデンサーや抵抗をハンダ付けした万能基板にハンダ付けします。小型マイクを内径3mmの透明アクリルパイプの先端部に固定し、このマイクの出力をHandyOscilloをインストールしたノートパソコンに入力して音波の波形を調べます(写真2参照)。マイクはバックエレクトレット・マイクで、圧力に比例した出力が出ます。
 スピーカーから出る音波の振動数を1000HZに固定して音を拾うマイクの位置を徐々に変えていく(写真3参照)と、HandyOscilloの画面上に表示される波形の振幅が極大値をとる位置(定常波の節の位置、写真4参照)はアクリルパイプの端から7.0cm、25.2cm、42.2cm、59.1cm、74.2cm、93.0cmでした。このデータを元に、音波の波長について計算すると、
7.0   25.2   42.2   59.1   74.2   93.0

   18.2   17.0    16.9   15.1    18.8
従って、
=17.2 → λ=34.4cmとなります。
また、極小値をとる位置(定常波の腹の位置、写真5参照)はアクリルパイプの端から17.6cm、34.5cm、51.5cm、68.5cm、86.3cm、102.6cmでした。このデータを元に、音波の波長について計算すると、
17.6   34.5   51.5   68.5   86.3   102.6

   16.9   17.0    17.0   17.8   16.3
従って、
=17.0 → λ=34.0cmとなります。
また、アクリルパイプの内径が2.2cmなので、開口端補正が0.6rであるとすると、パイプの半径が1.1cmなので開口端補正の計算値は0.66cmとなるので、実測値と計算値はかなり一致しています。
 また、振動数1000HZのときに出力が極大になる位置にマイクを固定し、音波の振動数を990HZから1010HZの範囲で変化させるとHandyOscilloの画面での波形の振幅は急激に変化し、振動数が1000HZのときにこの位置で定常波の節が生じていることがはっきり分かります。
 以上のように、透明アクリルパイプと小型マイクを使って音波の定常波を観察する実験は充分説得力があることが分かりました。
 例会では、続けて前回の例会でヘルムホルツ共鳴器として使用したガラス瓶を使って音波の測定を行ないました。上記の実験と同様に小型マイクをこのガラス瓶の中に徐々に入れていくと(写真6参照)、瓶の底でも中央部でも口の部分でも、どの場所でも波形の振幅が全く変化しません。瓶の内部はどの位置でも345HZの共鳴周波数で大きな振幅(圧力変動)で振動します。場所によって少しは波形の振幅に差が出るのではないかと予想したのですが、瓶の中のどの場所でも波形の振幅が全く変化しませんでした。つまり、ヘルムホルツ共鳴器は開管や閉管とは全く別物です。その後、500mLの丸底フラスコ、「いいちこ」(焼酎)の瓶、ワインの瓶などでも同様の実験をしましたが、それぞれ145HZ、140HZ、125HZで共鳴し、ガラス瓶の中のどの位置でも波形の振幅は同じでした。なお、共鳴周波数のおおよその周波数を予め測定する便利な方法は、ドライヤーの風をガラス瓶の口に斜めに当て(写真7参照)、発生する音をマイクで拾いながらHandyOscilloのFFT画面で最も強度の大きな周波数を調べる方法です。この方法で共鳴周波数の値がほぼ予想できます。



 f...共鳴周波数 c...音速 S...首の部分の断面積 V...太くなっている部分の体積
 L...首の部分の長さ r...首の部分の半径
 また、ペットボトルの口に近い部分(直径が小さい)をカッターで切り取って(@式のLを小さくする)少しずつ変えながら共鳴音の振動数を測定する実験をやろうとしましたが、ペットボトルの内部に音波を送り込むためのスピーカーと音波の検出に使用する小型マイクがぶつかってしまい、両者の位置関係をうまく調整することができませんでした。今後、この実験を行なうためには超小型のスピーカーが必要で、そのスピーカーを予めペットボトルの中に固定し、小型マイクも中に入れて測定することが必要です。例会では、ドライヤーの風をペットボトルの口に斜めに当て(写真7参照)、発生する音をマイクで拾いながらHandyOscilloのFFT画面で最も強度の大きな周波数を調べる方法で共鳴周波数を測定したところ、加工する前のペットボトルでは172HZ、カッターで切り取った後の状態では313HZでした。ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数の計算式(@式)の分母にあるL(首の部分の長さ)を小さくすると、共鳴周波数fが高くなるという傾向を確認することは一応できました。今後は、もっと正確な測定をしてみたいものです。
 「フィルムケース・オカリナ」も一種のヘルムホルツ共鳴器と考えられますが、共鳴周波数の計算式の分母にあるL(首の部分の長さ)はフィルムケースの厚さとみなすことができ、手のひらでフィルムケースの上の部分(底と反対側)の開口面積Sを変化させると、Sを大きくするほど共鳴周波数fが高くなる現象についての定量的な実験も今後可能になってくるかもしれません。
 なお、小型スピーカーの話題から発展して、100円ショップで販売されている誕生祝い用の葉書(葉書を開けると、「ハッピーバースデー」の曲が流れるもの、写真8参照)の中に組み込まれている円板状の薄い圧電スピーカーが稲葉さんから紹介されました。また、この圧電素子をフィルムケースの内側の底に貼り付けて中にビー玉1個を入れてからふたをし、カチャカチャ上下に振ると圧電素子に電圧が発生し、回路の中にハンダ付けされているLEDが点灯する工作が紹介されました(写真9参照)。
(2)Gold Finger(岩瀬充璋)...資料2、資料3、写真10〜写真14参照
 紙コップの中にアルギン酸ナトリウム(歯科医が歯の型を取るときに使うピンク色のもの)6.7gを入れ、それに水を18mL加えて割り箸で約20秒間すばやくかき混ぜ、フィルムケースの中に流し込みます。気泡が残らないように軽くとんとんと振動を与えてから、その中に小指を入れて5分間じっとしていると、固まります(型の完成)。次に、紙コップに硫酸カルシウム(焼石膏)30gと水10mLを入れ、割り箸ですばやくかき混ぜ、また気泡を除くために軽く振動を与えます。この操作を1分以内に終わらせ、アルギン酸ナトリウムで作った型の中に流し込みます。約10分で硫酸カルシウム(焼石膏)が水と反応して固まります(石膏になる)。フィルムケースをカッターで切り、アルギン酸ナトリウムで作った型を手で取り去ると、石膏で作った小指の像が取り出せます。最後に、金色のスプレーを吹き付けて乾かせば、Gold Fingerのでき上がりです(写真10参照)。子どもたちが実験・工作を楽しみながら、化学変化についての体験をすることができる安全な実験・工作です。
 例会では、第81回秦野物理サークル(2006.5.27.)で紹介されたシリコンゴムで型をとり(写真11参照)、その中にアクリル樹脂を流し込んで作ったいろいろの像も紹介されました(写真12参照)。また、耐熱石膏を使って型をとると、高温の融けたガラスや金属を流し込んで像を作ることができます。(写真13)、(写真14)は緑色のガラス瓶を融かして作った沖縄のシーサーの置物と野菜のピーマンです。
【参考】アルギン酸ナトリウムについて
 アルギン酸ナトリウムは海草の昆布やワカメなどの褐藻類に含まれる多糖類の一種で、食物繊維のひとつです。海藻類のぬるぬるはこのアルギン酸ナトリウムです。食品用としては増粘安定剤、ゲル化剤、健康食品用として、医薬用としてはX線造影剤用安定剤、歯科印象剤基剤、湿布薬基剤、消化管粘膜保護剤として使用されており、また、化粧品にも使われています。
(3)一極(いっきょく)モーター(茂泉俊夫)...図1、写真15、写真16参照
 まず、直径10mm程度の円板形ネオジム磁石を机の上に置き、その上に単三乾電池を陽極を上にして立てます(写真15参照)。これがこのモーターの台になります。次に、小型透明プラコップ(試飲用のもの)を上下逆にし、外側の表面に底の中心を通るように縦に幅1cm程度の短冊形に切ったアルミホイルを(写真15参照)のように貼り付けます。このとき、アルミホイルの両端は長さ1.5cm程度余るように切り、その部分が水平になるように内側に曲げます。また、プラコップの底の中央部には画鋲を外側から突き刺します。このようにして作ったプラコップが回転子になります(写真16参照)。
 モーターの台の上に回転子を底の方が上になるようにしてそっと載せます(このとき、プラコップの底に刺した画鋲の先端が単三乾電池の陽極の上に載ります)。プラコップに貼り付けた短冊状のアルミホイルの両端部分(ほぼ水平になっている)の先端が単三乾電池の下に敷いたネオジム磁石の側面に軽く接触するように微調整してから回転子を軽く回転させると、回転子が少しゆれながらかなり勢いよく回転し始めます。
 回転子が回転する仕組みは、単三乾電池→画鋲→アルミホイル→ネオジム磁石→単三乾電池の閉回路に流れる電流のうち、プラコップの側面に貼り付けたアルミホイルに流れる上下方向の電流がネオジム磁石から湧き出す磁場の水平成分によってフレミングの左手の法則で説明される向き(回転の向き)に力を受けるためであると考えられます(図1参照)。
 以前からこのタイプのモーターは「青少年のための科学の祭典」等で紹介されていましたが、乾電池の消耗が激しく、回転を始めてしばらくすると乾電池が触れなくなる程熱くなってしまいました。それに対して、今回紹介された一極モーターは回転子が少しゆれながら回転するため、アルミホイルの両端部分はときどきネオジム磁石の側面に接触するだけで、電流が流れる時間はほんの一瞬であり、それ以外の時間は慣性で回転子が回っています。そのため、乾電池の消耗は余り激しくなく、乾電池が触れなくなる程熱くなってしまうこともありません。
 ところで、この一極モーターではネオジム磁石の側面に電流が流れることを利用していますが、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とするネオジム磁石は鉄を含むため錆びやすいので表面にメッキをしてあります。そのためネオジム磁石の表面は電流が流れやすくなっています。今回紹介された一極モーターはその性質をうまく利用しているといえます。
 また、ネオジム磁石は1982年 住友特殊金属の佐川眞人氏が発明した希土類磁石で、パソコンのハードディスクやCDプレーヤーの駆動部分、携帯電話の振動モーター等に広く利用されていて、以前より価格も下がり入手しやすくなっています。ネオジム磁石の普及は今後も進み、ますます安くなって科学実験や工作に利用されることが増えると思われます。ネオジム磁石を使った新しい科学実験や工作の開発を今後も目指して行きたいものです。
(4)リードスイッチを利用した永久独楽の紹介(茂泉俊夫)
   ...図2、図3、写真17〜写真20参照
 磁石で作った独楽を特殊な台の上で回すと、その独楽は止まることなくいつまでも回り続けることから「永久独楽」と名づけられました。以前の永久独楽はトランジスターと2個のコイル(1個はセンサーの役割をし、もう1個は磁石で作った独楽を加速するための磁場を発生する)を利用したものが各地の物理サークル等で紹介されていましたが、製作が難しいため余り広まりませんでした。それに対して、リードスイッチを利用した永久独楽は製作が簡単で、リードスイッチ(外部磁場を検知してONになるスイッチ、詳細は【参考】参照)さえ入手することができれば誰でも容易に製作することができます。なお、永久独楽にリードスイッチを利用する工夫は群馬物理サークルの石井信也氏の工夫です。
 その作り方は、手製のコイル(鉄製ボルトにエナメル線を200回程度巻いたもの)、リードスイッチ、LED、単三乾電池1個を(図2)のように配線すれば電子回路が完成します。この電子回路をコイルとリードスイッチが水平になるように(独楽を加速するためには水平方向の磁場が必要です)木枠に固定し、透明なプラスチック製の円筒状の容器(フタのないもの)の中に入れます。この容器の上にフタとして時計皿を下に凸になるように置きます。これで、台(独楽以外の部分)の製作は完成です。
 独楽は100円ショップで売られているネオジム磁石(表裏がN極、S極に磁化されているタイプ)付きの透明プラスチック円板(ビラや紙片を磁石の吸引力で鉄板入りの黒板等に貼り付けるためのもの)の中央部に取り付けられているネオジム磁石を取り出し、その穴に先端部を尖らしたアルミ棒を軸として差し込んでそのネオジム磁石を取り付ける穴2個を円板の中心に対して対称な位置に開けます。他のネオジム磁石付き透明プラスチック円板から取り出したネオジム磁石1個も含めて2個のネオジム磁石をN極、S極が両者で逆になるようにして、その穴の中に入れて接着剤で固定します。
 この独楽を台の上に載せて(写真17参照)指で軽く回すと、下の台の中に入っているコイルが発生する磁場によって独楽が加速され、かなりの速さで回転するようになり、そのままいつまでも回り続けます(また、「永久独楽」が回転している間ずっとLEDが点滅し続けます、写真18参照)。このとき、コイルに流れる電流をON・OFFするタイミングは、台の中に入っているリードスイッチが独楽に取り付けられているネオジム磁石のつくる磁場によってON・OFFされることによって自動的に調整されます。具体的には、リードスイッチがOFFになる瞬間にコイルに発生する誘導起電力によってLEDが点灯し、また、その瞬間にコイルに流れる大きな電流によって発生する磁場のはたらきで独楽が加速されます。
 例会では、理科教材を販売している会社(ケニス?)のドーナツ形片面2極フェライト磁石製の独楽と100円ショップで購入したネオジム磁石付き透明プラスチック円板を追加加工して製作した独楽の比較をしてみましたが、やはりネオジム磁石を使ったものの方が強く加速され、最終的に速く回転します(目で見てはっきり分かるくらい差があります)。当然、LEDの点滅の速さについても同様の差があり、フェライト磁石製の独楽のときはLEDが点滅しているのが分かる(写真19参照)のに対して、ネオジム磁石を使った独楽のときはLEDの点滅が速すぎるため、肉眼ではLEDがずっと点灯しているように見えます。また、時計皿の替わりに100円ショップで購入したプラスチック製のお玉(色は灰色や黒色、写真20参照)を使っても時計皿と同じように独楽が加速されます。要するに、中央部が凹んだ形で摩擦がすくない素材であれば何でもいいようです。ただ、時計皿(透明なガラス)の方が台の内部構造が見えるので、理科教材としてはいいと思われます。
 この「リードスイッチを利用した永久独楽」については、今後いろいろな工夫ができそうです。とりあえず、まず回転数を測定してみたいものです。
【参考】リードスイッチについて...図3参照
 小さなガラス管の中に2本のリード(葦の葉に似ているところから、この名称がつけられた)電極を封じ込めた構造のスイッチで、外部から加えた磁場の変化によってON・OFFさせることができるため、スイッチをON・OFFするための電力が不要です。(図3)に示すように、リードスイッチに磁石を近づけると、強磁性体でできたリード電極が磁化され、2本のリード電極の接点がそれぞれN極、S極に磁化されて引き付けあい、接触します(リードスイッチがONになる)。次に、リードスイッチから磁石が遠ざかると、磁化されていたリード電極の磁化が0になり、リード電極の弾性によって元の形に戻り接点が離れます(リードスイッチがOFFになる)。また、ガラス管の中には不活性なガスが封入されているため接点の耐久性が高く、ON・OFF動作が10億回以上可能であり、高周波特性も3kHZ〜10kHZと高いので、トランジスターやICとの相性もいいようです。

(5)「ふわーとハート」の紹介(稲葉一弘)...資料3、写真21〜写真24参照
 「ふわーとハート」という一種のモーターが紹介されました。単三乾電池の負極側にネオジム磁石2個を重ねたものをつけ、台(木製の円板の中心に鉄製の木ねじをねじ込んだもの(写真21参照)や乾電池(写真22参照)など、一番上の部分が鉄製のものであればよい)の上に磁力で固定して立てます。次に、直径1.6mmの銅線を曲げてハート形のものを作り、(写真23)のように単三乾電池の正極の上にハート形の銅線の内側に尖った先端部を載せます(単三乾電池の正極の上には、ハート形の銅線の内側に尖った先端部が単三乾電池の正極から外れてしまわないように、ナットを載せておきます)。このときハート形の銅線の下端部(もっとも外側にふくらんだ部分)がネオジム磁石2個の合わせ目に接触するように微調整する(写真23参照)と、単三乾電池(正極側)→ハート形の銅線→ネオジム磁石→単三乾電池(負極側)という閉回路に電流が流れ、ハート形の銅線とネオジム磁石2個の合わせ目の間で流れる水平方向の電流がネオジム磁石のつくる上下方向の磁場から回転方向の力を受ける(フレミングの左手の法則)ためハート形の銅線が回転し始めます。回転が速くなってくると、遠心力のためハート形の銅線の下端部がネオジム磁石2個の合わせ目から離れてしばらく「ふわー」と浮いた状態になって(写真24参照)ゆっくり回転します(「ふわーとハート」の名前の由来はここからきています)。
 ハート形の銅線の形が理想的で、重心がうまく微調整されていると、電流が流れる閉回路の接点(ハート形銅線の下端部とネオジム磁石2個の合わせ目との接点)が離れる時間が結構長くなるため、乾電池の消耗が抑えられ、乾電池が熱くなることもありません。また、ハート形の銅線が浮き上がって「ふわー」と優雅に回転する様子を見ていると、「癒し系」の工作という感じがします。「ふわーとハート」とは、いい名前をつけたものです。大阪府茨木市の早稲田摂陵中学校・高等学校の塚平恒雄先生の工夫です。なお、この「ふわーとハート」を長時間回し続けると、乾電池の電圧が低下して使用できなくなる前に、ハート形の銅線とネオジム磁石との接点が酸化されてしまい、電流が流れなくなるそうです。
 (3)の一極モーターも同様ですが、乾電池を使った閉回路の抵抗が小さい場合(乾電池をほぼショートさせた状態で使う場合)は長時間ショートさせた状態にならないよう、回路に流れる電流を切っている時間を長くする工夫が必要だと思われます。
(6)レイケ管の温度測定(久保田信夫)...写真25〜写真27参照
 まず、直径3cm、長さ90cmの金属パイプの中に金網を指でパイプの端から6〜7cmの位置に押し込みます。次に、金網側を下にしてパイプを鉛直に立てた状態でガスバーナーの炎の上に持っていき、5秒程度金網を炎で強熱(写真25参照)してから、パイプをそのまま横にずらすと「ポー」という大きな音が出ます。ところが、金網を押し込む位置がパイプの端から2〜3cmのときは、同じ操作をしても音が出ません。その原因を探ろうとしたことから今回の実験が始まりました。
 なぜこのようなことが起きたのかを調べるため、パイプ内部の様子をパイプの上端側からビデオカメラで撮影してみたところ、金網の入ったパイプをガスバーナーの炎の上に持っていき、金網を炎で強熱してからパイプを立てたまま横にずらして「ポー」という音が出ているとき、パイプの周囲が真っ黒に見える現象に気づきました。「熱い空気が上昇してきたために光の屈折率が場所によって大きく変化し、そのために光が屈折して黒くなったのか?」とも考えてみましたが、よく分かりません。そこで、パイプの内部の温度がパイプ内の場所によってどのように変化するのかを測定してみることにしました。
 METEXのK型熱電対をパイプの中に入れ、その熱電対の位置をパイプの中で上下方向に10cmきざみで移動させながら、音が出ているときの温度の時間的な変化をパソコン計測によって測定してみたところ、不思議な現象がみつかりました。
 熱したパイプから音が出ている状態でパイプ内の高さによって温度が時間とともにどのように変化するかを調べた結果が(写真26)です。パイプ内の高さ、温度、時間の関係を3次元のグラフとして表示したもので、少し分かりにくいためグラフの表わし方を変え、横軸にパイプ内での10cmきざみの高さをとり、縦軸に温度をとったグラフを表示してからそのグラフを時間の経過とともにパラパラ漫画のように静止画を時間の経過とともに切り替える表わし方で表示するようにしたところ、パイプの上端部や下端部では温度が時間とともに大きく変動するのに対し、パイプの下端部から50cmの高さでは時間によらず温度がほぼ一定に保たれている(写真27参照)ことが分かりました。また、この実験で出る共鳴音の振動数を測定したところ340HZであり、音速を340m/sであるとすると、計算では音波の波長は1.00mとなります。従って、このパイプを開管とみなすと、パイプの両端で定常波の腹が生じ、中央部が節になると考えるとつじつまがあいそうですが、音波の定常波の節では空気の振幅が0(つまり、空気が動かない)になることを考えると、中央部の温度が一定に保たれるとは考えにくいように思えます。金網の入ったパイプを炎で強熱したときにパイプから共鳴音が出る現象は、高校の物理の教科書で扱っている開管や閉管の理論では説明できない現象のようです。例会の中でもいろいろ議論してみましたが、どうもよく分かりません。強熱した金網のある位置は音波の定常波の腹になるのか節になるのか?どちらでもないのか?一種の音源になっていることは間違いないようですが...
 ところで、インターネットで調べてみると、熱によって共鳴音を発生するこのパイプは「レイケ管」と呼ばれ、大学の研究室等でも「熱音響自励振動」として研究されているようです。特に、ゴミ処理場等で排出される廃熱を利用して熱エネルギー→音エネルギー→熱エネルギーとエネルギー変換し、冷房に応用する研究が進んでいるようです。今後この現象について検討していくためには、「熱音響自励振動」について基本的な理解をする必要がありそうです。なかなか面白い現象のようですので、今後も話題にしていきましょう。
(7)ジョッキを利用した「教訓茶碗」(倉田慎一)...図4、図5、写真28参照
 100円ショップで購入したジョッキ(冷えたビールがぬるくならないように、二重構造になっている)を加工して作った「教訓茶碗」の工夫です。(図4)のように、ジョッキの底の端とジョッキ上部の内側にドリルで穴を開け、その2個の穴にストローを通します。これでジョッキを利用した教訓茶碗ができ上がります。ジョッキの中に徐々に水を入れ、水面の位置がストローの一番高い位置を越えると、サイフォンの原理によってジョッキの中の水がどんどん流れ出てしまい(写真28参照)、水面の高さがジョッキ内部に入っているストロー先端の一番低い位置に下がるまで水が出続けます。
 ところで、この教訓茶碗の実験ではサイフォンの原理を高校生に分かりやすく説明する必要がありますが、すっきりとした説明をするのが難しく、高校物理を教える教師にとっては苦労する部分です。このサイフォンの原理についてのスッキリとした解説が昭和38年の高校物理の教科書(金原寿郎 著、三省堂)に載っていたということで、その紹介がされました。つまり、(図5)のように、ホースの最上部Aの左側の水圧はP−ρgh1、右側の水圧はP−ρgh2であり、最上部Aの水を左側から右に向かって押す力F1と右側から左に向かって押す力F2を比較すると、
F1=S(P−ρgh1)、F2=S(P−ρgh2)
S ... ホースの断面積  ρ ... 水の密度  
g ... 重力加速度  P ... 大気圧  h1 ... A点と容器内の水面との高さの差  h2 ... A点とホース下端部との高さの差
h2>h1 だから F1>F2 となり、Aの水は右に向かって押されることになります。確かに、分かりやすいスッキリした説明です。
 この教科書では、他の分野でもかなり突っ込んだ解説がされており、今日の高校物理教科書に比べてかなり分厚く、内容も豊富です。例えば、流体力学の分野でのベルヌーイの法則が扱われており、また、レンズについての詳しい解説もなされています。教科書の検定制度が今と違っていたのか、教科書の内容についての自由度がかなりあったようです。
(8)ブラウン運動観察用永久プレパラート...2ヵ月後の状態(塚本栄世)
   ...写真29参照
 前回の例会で粒子径が0.6〜1.0μmのアクリル球を含む水をホールスライドガラスとカバーガラスの間の空間に封じ込めた「ブラウン運動観察用永久プレパラート」を試作した報告をしましたが、今回の例会で製作2ヵ月後の状態について報告しました。ガラス専用接着剤を使用したためか、アクリル球を含む水が蒸発などによってなくなってしまうことはありませんでしたが、アクリル球のほとんどが下に沈んでしまうという問題が起きていることが明らかになりました。しかも、このアクリル球はスライドガラスに付着してしまったのか、プレパラートを裏返してスライドガラス側から軽く指で叩いても離れることはありません。顕微鏡の視野の中で数個のアクリル球はブラウン運動していますが、ほとんどのアクリル球はスライドガラスにくっついた状態で静止しています(写真29参照)。
 アクリル樹脂(メタクリル樹脂)は比重が水より大きく(1.17〜1.20)、微粒子の状態であっても長時間水の中にあると下に沈んでしまうようです。従って、比重が水とほぼ等しい(約1.0)プラスチック微粒子が入手できれば、下に沈んでしまいスライドガラスとくっついてしまったり、上に浮かんでしまいカバーガラスにくっついてしまったりする現象が起きにくくなると思われます。従って、例えば、今後の候補として以下のプラスチック(数値は比重)が考えられます。
ABS樹脂 1.01〜1.05
ポリスチレン 1.04〜1.05
ポリエチレン 0.95〜0.97
ポリプロピレン 0.90〜0.91
 また、今回の試作では微粒子がお互いにくっついてしまう現象は起きませんでしたが、プラスチックの種類によっては微粒子がお互いにくっついてしまわないようにするために添加剤を混ぜる必要が出てくる可能性もあります。例えば、アクリルエマルジョン等の人工的なコロイドでは、アクリル球どうしがくっついてしまう現象が起きないようにするため、同種の電荷によって反発力が発生するような添加剤が入れてあります。
 ホールスライドガラスとアクリル球が水の存在下でくっついてしまったことから、ガラスとアクリル樹脂は水の存在下でくっついてしまう性質があるようですが、プラスチックの種類によってはそのようなことがおきにくいのかも知れません。このあたりの仕組みもよく分かりません。
 例会では、「ブラウン運動を観察するプレパラートを作ることが目的なのだからプラスチック球を入れる液体は水でなくてもいいのではないか」という指摘もありました。今後の検討課題です。
(9)吹き矢(塚本栄世)...図6、写真30〜写真32参照
 前回の例会で紹介された「ストローを利用した空気ロケット」はストローを材料にして作ったロケットを弁当用のソース入れの容器を拳固のグーで叩くときに発生する空気の圧力で飛ばす工作でしたが、同じ原理で「吹き矢」を飛ばすものを作ってみようと、手始めに息で吹いて飛ばす吹き矢を作ってみました。
 まず、外径6mm、内径5.4mm、長さ30cmのストローを使って、ストロー1本そのまま用いたものとストローを14cmの長さに切ったものをつないで一体にし、それぞれのストローの中に吹き矢として綿棒(両端の太い部分の直径5mm、長さ7.8cm)をつめて両方のストローを同時に吹くと、明らかに長いストローの中に入れた綿棒の方が遠くへ飛びます。このような実験結果になる理由は、ストローが長い方が綿棒に力を加える時間tが長いため、息によって綿棒に加える力積Ftが大きくなるので、運動量の変化mv−m×0が大きくなる(つまり、ストローを飛び出すときの速さvが大きくなる)ためです。
... mv−m×0=Ft
あるいは、ストローが長い方が息によって綿棒に加える仕事Fxが大きくなるので、運動エネルギーの変化1/2・mv2−1/2・m×02が大きくなる(つまり、ストローを飛び出すときの速さvが大きくなる)と解釈する方法もあります。
... 1/2・mv2−1/2・m×02=Fx
 この実験を(運動量の変化)=(力積)や(運動エネルギーの変化)=(仕事)について説明する物理の授業の中でやると、なかなか説得力があり、生徒にとって分かりやすいようですが、必ず「もっと長くしたらどうなるのか。是非やってほしい。」と言い出す生徒がいます。そこで、長さ30cmのストロー4本をセロテープで縦につないで長くし(全体で1.2mの長さ)、綿棒を中に入れて思い切り息で吹くと、「吹き矢」である綿棒はすごい速さで飛んでいきます。
 例会では、このストロー4本をセロテープでつないで1.2mの長さにしたものに綿棒を入れて「吹き矢」の実験をやりましたが、かなりの速さで綿棒が飛び出し、白板に立てかけたダンボールに衝突した綿棒はダンボールにめり込んでしまう威力を持っている(写真30参照)ことが分かりました。
 綿棒以外の「吹き矢」も試してみようと、(図6)のように外径10mm、長さ42mmのプラスチック・パイプに直径6mmの木の棒を押し込んでホットメルトで固めたもの(質量は5.2g)を作りました。これを内径11mm、長さ1mの透明アクリルパイプの中に入れて、息で吹いてみました(写真31参照)が、綿棒ほどの速さは出ませんでした。綿棒(質量は0.4g)に比べて質量が大きい(5.2g)ことと、パイプの断面積がストローに比べて大きい(ストローは0.23cm2、アクリルパイプは0.95cm2)ためにパイプの内圧が上がりきっていないことが考えられます。ただし、質量が大きいため、白板に立てかけたダンボールに衝突したときの威力(写真32参照)は綿棒以上のものがあります。
 今後の課題として、今回作ったものよりもっと軽くて速く飛ぶ「吹き矢」を作ることや「吹き矢」の速さの測定などが考えられます。
(10)振動モーターを使ったゲジ虫(塚本栄世)...図7、写真33参照
 秋葉原の秋月電子通商で購入した円板形の振動モーター(携帯電話用のものと思われる)を使った「ゲジ虫」(振動によって動く玩具)を製作しました。まず、500mLのペットボトルの上部1/3を切り取って上下逆にし、口の部分を切り取ると下の方ほど直径が小さくなり、机の上に載せたときにペットボトルの断面が机の上面に対して斜めになります(図7参照)。従って、ペットボトルに振動が加わると机からペットボトルに斜め上向きに力が加わります(図7参照、この力は前向きの成分を持っています)。ペットボトル全体として前進するためには、机から受ける前向きの力と後向きの力に差があることが必要で、そのために(後ろ向きの力を机から受けないようにするために)ペットボトル後部の机と接触する部分(1cm程度の幅)を切り取ります。また、振動モーターを動かすための乾電池はできるだけ軽い単五乾電池を使用し、重さのバランスをとるためこの単五乾電池2個を対称の位置に固定して、それらの乾電池を直列接続して振動モーターにつなぎます。スイッチを入れるとペットボトルが振動しながら前進するので、初めて見る人にとっては「車輪もないのに前進する?!」と不思議な現象に思えることでしょう。今後は、歯ブラシにこの円板形の振動モーターをつけてみたいものです。

【3】会費について
今年度は会費を集めません。

【4】連絡先について
〒243−0817 神奈川県厚木市王子1−1−1
県立厚木東高校 塚本栄世
TEL:046−221−3158    
FAX:046−222−8204    

【5】次回例会(第97回秦野物理サークル)について
 3月27日(土)14:00〜17:00 伊勢原子ども科学館
なお、来年度の例会の日程は現時点で未定です。

    文責 塚本栄世

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