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2010.5.17.発行
第98回秦野物理サークル報告
日時:2010年3月27日(土)14:00〜17:10
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:稲葉一弘(伊勢原子ども科学館)、岩瀬充璋(神奈川大学)、久保田信夫(立花学園)、倉田慎一(教育センター)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(伊勢原高校)、内藤哲也(相模向陽館高校)、平野郁子(山北高校)、深津貴志(伊勢原子ども科学館)、茂泉俊夫(綾瀬西高校)
計11名
【1】発表項目
(1)工作「吹き矢」(全員)...図1、写真1〜写真3参照
(2)「吹き矢」の実験(速さの測定)(塚本栄世)...写真4〜写真15参照
(3)「レイケ管」の資料の紹介(塚本栄世)...図2、写真16参照
(4)「レイケ管」の実験(塚本栄世)...写真17、写真18参照
(5)高温の水蒸気でマッチに火をつける実験(塚本栄世)...写真19〜写真22参照
(6)仙台科学館の紹介(久保田信夫)...写真23〜写真27参照
(7)砂鉄の紹介(鈴木孝雄)...写真28〜写真30参照
(8)新聞記事の内容についての検討(全員)
@「現代の秘術でチチンプイ」...資料1参照
【2】発表内容
(1)工作「吹き矢」(全員)...図1、写真1〜写真3参照
前回の例会で「吹き矢」の実験をしましたが、その「吹き矢」は外径6mm、内径5.4mm、長さ30cmのストローを使って、ストロー1本をそのまま使ったものと14cmの長さに切ったものをつないで一体にし、それぞれのストローの中に矢として綿棒(図1参照、両端の太い部分の直径5mm、長さ7.8cm)をつめて両方のストローを同時に吹くと、明らかに長いストローの中に入れた綿棒の方が遠くへ飛びます。このような実験結果になる理由は、(運動量の変化)=(力積)、つまり、ストローが長い方が綿棒に力を加える時間tが長いため、息によって綿棒に加える力積Ftが大きくなるので、運動量の変化mv−m×0が大きくなる(つまり、ストローを飛び出すときの速さvが大きくなる)ためです。あるいは、(運動エネルギーの変化)=(仕事)、つまり、ストローが長い方が息によって綿棒に加える仕事Fxが大きくなるので、運動エネルギーの変化1/2・mv2−1/2・m×02が大きくなる(つまり、ストローを飛び出すときの速さvが大きくなる)と解釈する方法もあります。
授業の中で、この実験を行なう前に、長いストローの中に入れた綿棒と短いストローの中に入れた綿棒のどちらが遠くへ飛ぶと思うか生徒に予想させると、長いストローの中に入れた綿棒の方が遠くまで飛ぶと思う生徒と短いストローの中に入れた綿棒の方が遠くへ飛ぶと思う生徒の数はほぼ同じです。短いストローの中に入れた綿棒の方が遠くへ飛ぶと思う生徒は、綿棒の位置がストローを吹く場所に近いから綿棒に力が伝わりやすいと感じるためのようです。それに対して、長いストローの中に入れた綿棒の方が遠くへ飛ぶと思う生徒は、ストローが長いほど長い時間綿棒に力を加えることになるから綿棒は速くなると考えるようです。また、その場で実験をやって、長いストローの中に入れた綿棒の方が遠くへ飛ぶことを示すと、必ずストローをもっと長くしたらどうなるのかと聞く生徒が出てきます。ストロー4〜5本をセロテープでつないだ長いストローの中に綿棒を入れて、思い切り吹くとびっくりするような速さで飛びます。
今回、この工作を全員でやりました(写真1参照)。ただ、100円ショップで入手できる外径6mmのストローはジャバラ付きであるため、このストローを4〜5本セロテープでつないで一本につないだときにジャバラの部分で曲がってしまうために、この中に綿棒を入れて「吹き矢」として吹いたときにうまく飛び出さなかったり、斜めに飛び出したりします。そのため、ストローのジャバラ部分を含んで短い側を切り落としてしまい、残った部分(長さ約20cm)4〜5本分をセロテープでつないで一本にすると、中に綿棒を入れて吹いたときにまっすぐ飛び出します。また、矢として使う綿棒を100円ショップで入手すると、軸のパイプ部分が紙製のものとポリプロピレン製のものがありますが、ポリプロピレン製のものはときどきかなり曲がって飛ぶものがありますが、紙製のものはほぼまっすぐ飛ぶようです。
「ストロー吹き矢」の工作をしながら、以下のようなことが話題になりました。
@ストローを5〜6本つなぐと、口から一番遠いストローに手が届かなくなり、5〜6本つないだストローが全体としてまっすぐにならない。木の棒を「添え木」として使い、5〜6本つないだストローを木の棒にセロテープで固定すると、つないだストロー全体がまっすぐになるので、綿棒が途中で引っ掛かることがなくなります。
A綿棒の後部をねじっておくと、回転しながら飛ぶので、綿棒の姿勢が安定し、まっすぐ飛ぶ。
B綿棒の運動量を直接測定する方法はないか?
→板を上からぶら下げ、その板に綿棒をぶつけるようにすれば、板の運動を調べることで綿
棒の運動量を測定することができるはず。
→机の上に立てた箱に綿棒をぶつけることで箱を倒すようにする。
→フラワーアレンジメント用の「オアシス」に綿棒が刺さるようにして、綿棒が刺さる深さ
を調べることで綿棒の運動量を測定することができる。
C綿棒の替わりに発泡スチロール等の軽い球を飛ばすようにしてはどうか?
→ストローの出口側に細工をすることで、飛び出す球に回転を与え、カーブやシュートの変
化球が飛び出すようにできるのでは?
また、例会では、稲葉さんの発案で、透明アクリルパイプの中に多数の綿棒をパイプの長さ方向に並べて入れてから吹くと先端に近い綿棒から順番に飛び出すかどうかやってみようということになり、実験してみた(写真2参照)ところ同時に何本もの綿棒が飛び出すように見え、何が何だかよく分かりません。そこで、透明アクリルパイプの先端に近い位置に1本、口で吹く部分に近い位置に1本の綿棒を入れ、吹いてみた(写真3参照)ところ、先端に近い位置の綿棒は余り遠くまで飛ばずに手前に落下し、口で吹く部分に近い位置の綿棒は遠くまで飛ぶという結果になり、明らかに2本の綿棒の飛び方に差が出ることが分かりました。
(2)「吹き矢」の実験(速さの測定)(塚本栄世)...写真4〜写真15参照
「吹き矢」の綿棒の速さを測定する(写真4参照)ために、外径7mm(内径約5.5mm)、長さ1mの銅パイプの口で吹く側に外径6mm、長さ30cmのストロー1本を押し込んでから、この銅パイプを木の板に固定し、銅パイプの口で吹く側に綿棒を入れます。次に、銅パイプの先端部の外側に「ビースピー」(写真5、写真6参照、「チョロQ」という玩具の車の速さを測るために開発された測定玩具で、2本の赤外線ビームを物体が切る時間を測定することにより、物体の速さを測るように作られています→【参考1】参照)を置いてから、銅パイプを思い切り吹くと「ビースピー」には99.99km/hの値が表示されます。「ビースピー」に表示される速さは99.99km/hまでの値なので、このような簡単な「吹き矢」で綿棒の速さが時速100キロを超えるということが分かりました。
また、綿棒の軌道が放物線になっていることを示すための試みとして、レーザーポインターと濡らしたティッシュペーパーを使った以下のような実験をやってみました。銅パイプを固定している木の板の先端部に秋月電子で購入した薄型の超小型レーザーポインター(写真7、写真8参照、【参考2】参照)を固定し、そのレーザー光を一種の照準として窓をくり抜いた段ボール箱に貼り付けた濡らしたティッシュペーパー(写真9参照)に照射します。この状態で「吹き矢」を吹くと、矢である綿棒が濡らしたティッシュペーパーに穴をあけます(写真10参照)。綿棒がティッシュペーパーにあけた穴の位置とレーザー光のスポットの位置との距離を測定することで、綿棒が直進した場合に比べてどれだけの距離落下しているかを調べることができます。
例会では、「銅パイプの長さ方向とレーザーポインターのレーザー光が平行になっているのか?」という質問がありましたが、まだそのような正確な実験には程遠い段階で、実験のアイディアを形にしてみただけの段階です。
綿棒の軌道を調べるために濡らしたティッシュペーパーを綿棒が突き抜けていくようにしたのは、日本の初期のペンシル・ロケットの実験が水平方向で行われ(写真11参照)、その時に木枠に貼った紙をロケットが突き破りながら進んで行く方法で、ロケットの運動を調べたことを本で読んだ記憶があったからです。例会後、インターネットで日本のペンシル・ロケットについて検索したところ、迫力のある当時の動画(【参考3】参照)が公開されていました。是非、このホームページを見て下さい。
例会では、外径13mm(内径11mm)、長さ1mの透明アクリルパイプを「吹き矢」として使う場合は、100円ショップで入手できる介護用の綿棒(写真12参照)が使えることが紹介され、その場合は綿棒の太い側が前でも細い側が前でも安定して飛ぶのはなぜかという問も出されました。また、伊勢原子ども科学館で「吹き矢」のサイエンスショーをやったときに製作した数種類の矢(写真13参照、金属製の鉛筆キャップに紙を巻きつけたもの、鉛筆そのもの、紙を巻いて作った円錐形の矢(インターネットでは、このタイプの矢の作り方が紹介されています)、...)が紹介されました。紙を巻いて作った円錐形の矢の先端に釘をつけたものは威力があり、段ボール箱に突き刺さってしまいます(写真14参照)。伊勢原子ども科学館で「吹き矢」のサイエンスショーを行なったときには、まずこの矢を吹いて段ボール箱に突き刺さるところを見せてから、「吹き矢を絶対に人に向けてはいけない」ということを話し、その後でストローと綿棒を使った「吹き矢」の工作を行なったとのこと。いろいろな矢を手作りして「吹き矢」として飛ばしてみると、前の方を重くしないと飛んでいる途中で前後がひっくり返ってしまう場合があります。空気抵抗の影響等によってこのような現象が起きると考えられますが、今後の課題です。
なお、例会では、ハイスピードカメラやマルチストロボを使って綿棒の運動を調べてみたらどうかとの提案がありましたが、是非やってみたいものです。
例会では、「ビースピー」についての追加の話題として、「ビースピー」を使って物体の落下加速度を測定した例が紹介されました。(写真15)のように、厚さ1mmの透明アクリル板を長さ28cm×幅4cmの長方形に切ってから、上部に黒いビニールテープを貼り、下部には糸を通してゴム栓(おもり)を取り付けます。次に、黒いビニールテープを貼った部分を指ではさんで全体をぶら下げ、透明アクリル板の下端部を「ビースピー」ではさむようにしてから指を離すと、2本の赤外線を黒いビニールテープの部分が通過する速さが表示されます。黒いビニールテープを貼り付けた部分と「ビースピー」の赤外線の位置との高さの差xを予め測定しておけば、v2−02=2gxの式を使って重力加速度gの値が求まります。実験結果はほぼ10m/s2でした。なお、落下物体として透明アクリル板におもりをぶら下げたものを使用した理由は、鉄球等を2本の赤外線を横切るように落下させることは至難のわざですが、長い板状のものを使うことで落下物体の姿勢を安定させ、落下物体が常に2本の赤外線を横切るように落下させることができるからです。また、透明アクリル板を使用した理由は、透明アクリル板は赤外線を透過するためです。
【参考1】「ビースピー」について
「チョロQ」という玩具の車の速さを測るために(株)ハドソンが開発した測定玩具で、赤外線LEDと赤外線センサー(フォトダイオードまたはフォトトランジスターか?)の組み合わせを2組内蔵(つまり、4cm離れた平行な2本の赤外線の糸が空間に張られていると考えてよい)しています。この2本の糸を物体が横切るのにかかる時間を測定し、内蔵されている計算機能を使って直ちに速さを計算してその値を表示します。(株)ハドソンが開発したものはkm/hで表示されます。
その後、(株)ハドソンが「ビースピー」の製造を中止したとき、(株)ナリカ(当時は(株)中村理科工業)が在庫をすべて買い取り、学校の教師向けに10数年間販売してきましたが、昨年4月に在庫がなくなったため、理科教育用の新しい仕様で開発し直したそうです(販売価格は2,800円)。その際、以下のような改良を加えています。
・表示する速さの単位をkm/hからm/s、cm/s、km/hから選べるようにした。
・5個の測定データを蓄えることができるようにメモリを追加した。
【参考2】薄型の超小型レーザーポインターについて
薄型赤色レーザー発光モジュール 秋月電子 LM−102−B 650nm 450円
出力:1mW以下(FDAクラス2) 電源:3V(3.1V±10%)、40mA
寸法:厚さ3mm、長さ34.8mm、幅10mm
【参考3】ペンシルロケット水平発射実験(1955年)の動画について
http://www.jaxa.jp/article/special/pencil50/p2_j.html
(3)「レイケ管」の資料の紹介(塚本栄世)...図2、写真16参照
第95回秦野物理サークル(2009.10.3.)の「鉄パイプやアキ缶を使った釜鳴りの実験」および第97回秦野物理サークル(2010.1.23.)の「レイケ管の温度測定」で久保田先生から紹介されたレイケ管の実験についてインターネットでいろいろ調べ、ホームページ等から入手した資料を紹介しました。なお、この実験は第37回秦野物理サークル(1998.7.4.実施)で、「熱で鳴るパイプ」として岩瀬先生からも紹介されたことがあります。
ヨーロッパでは、パイプオルガンの修理をする際に音が出ることが知られていたようですが、この現象を初めて自然科学の対象として研究したのがオランダのレイケで、「パイプの中に金網を入れ、その金網をバーナーの炎で加熱し、充分に熱くなったところで加熱を止めると、数秒後に音が鳴り始めしばらくして音が鳴り止む」現象として1859に報告されました。
@資料...「レイケ管による熱音響自励振動の可視化(名古屋大学工学部工学研究科技術部)」
・金属パイプの中に入れる金網の位置はパイプの端から共鳴音の波長の1/4離れた位置が最適である。
・パイプの中に入れる金網は二重にした方がよい。(その方が共鳴音が出やすい。)
・レイケ管によって出る共鳴音は熱音響自励振動によって出る音である。
・この現象は、ごみ焼却場等から出る廃熱を利用して将来の冷房装置に応用することができる可能性がある。
・この現象は、熱エネルギー→音エネルギー→熱エネルギーのエネルギー変換をしている。
・透明な四角いアクリル管を利用してレイケ管による熱音響自励振動の様子をシュリーレン写真として可視化することに世界で初めて成功した。...(写真16参照)
→写真16の写真(b)で、金網のすぐ上の部分で左右方向の黒いすじ状の部分は熱音響自励振動によってできた音波(疎密波)の密な部分である。
A資料...URL : http://wiredvision.jp/blog/yamaji/200802/200802151144.html
・熱音響冷却システムの紹介...図2参照
スタックAによって工場等からの廃熱を利用して熱エネルギーから音エネルギーへの変換を行い、発生した音をスタックBによって音エネルギーから熱エネルギー(スタックの上下に温度差をつくる)への変換をする。スタックBの上下に生じる温度差のある領域のうち低温側を冷房に利用する。
・熱エネルギー→音エネルギー、音エネルギー→熱エネルギーのエネルギー変換を行うために使用するスタックは、1mm程度の細かい穴がびっしり開いているハニカム・セラミックスでできている。
・熱音響冷却システムのパイプの中で発生する音のエネルギーの仕事率は約100Wであり、直接その音を聞いた場合は、聴覚に異常が起きるくらいの大きな音である。
...ベートーベンの「運命」第1楽章の「ジャジャジャジャーン...」のフォルテシモでさえ1Wにもならない。
・管の下から1/4離れた位置が熱エネルギーを注入するのに一番効率がよいポイントである。
B資料...URL : http://members.jcom.home.ne.jp/rikaken/genden/2003.html
・スターリング・エンジンの教材開発でよく知られている小林先生のホームページに掲載されている資料
・「吉備津の釜」についての紹介
「吉備津の釜」は湯を沸かした釜がうなるような音を発する現象で、古来より不思議な現象として知られてきた。その構造は、鉄製の釜の上にすのこを敷いたせいろを載せ、鉄製の釜の中に入れた水が沸騰するまで下から熱する。次に、上から玄米を入れると「ボー」という低い音が2分間程度出続ける。この音で吉兆を占うというものである。
・「ゆうれい試験管」(試験管、硫黄、スチールウールを使って音を出す実験)の紹介
・丸底フラスコの中に20〜30mL程度の水を入れ、首のつけ根の位置に2枚重ねにした金網を押し込んでから、下からバーナーの炎で熱して水を沸騰させる。水が沸騰したら少し火を弱め、水で冷やした竹串(輪ゴムで束ねたもの)やお菓子作りに使うアルミニウムの粒を入れると、「ボー」という音が出る。
・水で冷やした竹串やアルミニウムの粒を入れる替わりに、何重にも折り曲げた銅パイプを入れ、その銅パイプに水を流し続けると「ボー」という音が連続的に出る。
・まず、入浴剤が入っていた空き缶(鉄製の缶か?)3個を準備する。次に、上の2個は上下の部分を取り除いて単なるパイプとして使い、一番下の缶は上の部分を取り除いて、その部分に金網を二重にして貼りつける。下の缶に上の缶を重ね、両者の間をすきまが生じないようビニールテープでしっかり固定する。上から20〜30mL程度の水を入れ、下からバーナーで強熱して水を沸騰させる。バーナーの火を少し弱めてから、水で冷やした竹串やアルミニウムの粒を上から入れると、丸底フラスコを使った実験と同様に、音が出る。また、竹串やアルミニウムの粒の替わりに銅パイプを渦巻状に巻いたものを金網のすぐ上の部分に入れ、水を流し続けると音が出続ける。
C資料
・1コマ1/1000秒の高速度カメラによるシュリーレン写真がカラーで紹介されている。
D資料...URL : http://ctt.doshisha.ac.jp/contents.html
・「熱音響技術センター」により熱音響自励振動についての理論的な解説がなされている。
E資料...URL : http://members.jcom.home.ne.jp/kobysh/experiment/kama/kama.html
・題名...「水蒸気かま鳴り」の真実
・レイケ管では金網の上下で約400℃の温度差が必要であるが、「吉備津の釜」では80℃程度の温度差で音が出る。「吉備津の釜」では、温度差が小さいのに音が出るのは、水蒸気が水に変化するときの凝縮熱が大きいからである。
・熱音響自励振動はある程度振動数が低くないと起きない現象であるが、丸底フラスコのような小型の共鳴器で音が出るのは、丸底フラスコが一種のヘルムホルツ共鳴器であるため小型の共鳴器であっても共鳴振動数が低いからである。
(4)「レイケ管」の実験(塚本栄世)
...写真17、写真18参照
上記(3)の「レイケ管」の資料を参考にして、いくつかの追試験を例会でやってみました。学校ではうまくいった実験が例会では失敗した実験もあり、後日再度実験してみたいと思っています。
○レイケ管の実験
直径3cm×長さ90cmの鉄パイプ(表面はクロムメッキ)にステンレス製の金網(メッシュの大きさは1.5mm)2枚をパイプの端から10cm程度の深さに押し込み、パイプを立てた状態にしてガスバーナーの炎で金網を5秒程度強熱してから、パイプを立てたまま横にずらすと「ボー」という大きな音が2〜3秒間出ます(写真17参照)。ところが、パイプを立てた状態で金網を強熱して横にずらし、「ボー」という大きな音が出ている状態で、パイプを水平にすると音が消え、再び鉛直に立てると「ボー」と音が出ます。なお、この実験で金網を1枚にしたときは音が出ませんでしたが、金網を2枚重ねにしてから実験したときには音が出ました。この結果とハニカムセラミックで作ったスタックの形状を考え合わせると、音が出るためには金網によるすきまが上下方向にある程度の長さを持っていることが必要であるのかもしれません。
○丸底フラスコを使った実験
丸底フラスコの中に20〜30mL程度の水を入れ、首のつけ根の位置に2枚重ねにした金網を押し込んでから、丸底フラスコの下からバーナーの炎で熱して水を沸騰させます。水が沸騰したら少し火を弱め、竹串を輪ゴムで束ねたもの(水で冷やして使う、写真18参照)やお菓子作りに使うアルミニウムの粒を入れると、「ボー」という音が出ます(例会前に学校で実験したときにはうまくいきました)が、例会で実験したところ、全然音が出ませんでした。失敗した原因として、丸底フラスコを熱したバーナーの炎が大きすぎたため、丸底フラスコ全体の温度が上がってしまい、金網の上下に充分な温度差が生じなかったことが考えられます。
(5)高温の水蒸気でマッチに火をつける実験(塚本栄世)...写真19〜写真22参照
外形6mm、長さ1mの銅パイプをガスバーナーの大きな炎で強く加熱して、そのまま放置します(つまり、「焼きなまし」をします)。焼きなますと銅パイプは柔らかくなるので、曲がりやすくなります。そこで、学校の中で配管として使われている直径7〜8cm程度の太いパイプを探して、そのパイプに徐々に巻きつけながら銅パイプをらせん形に変形させます。らせん形に変形させた銅パイプをゴム栓に通し、そのゴム栓を50mL程度の水を入れた500mLの丸底フラスコに取り付けて、下からガスバーナーで水が沸騰するまで過熱します。このとき、銅パイプの先端から白い煙のように見えるものが出ています(写真19参照)が、これは水蒸気ではなく、水蒸気が冷やされてできた水滴です。つまり、水蒸気は気体であって、目に見えません。白い煙のように見えるのは水滴です。この状態でさらに銅パイプのらせん形の部分を別の携帯式ガスバーナーで加熱する(写真20参照)と、銅パイプから出ていた白い煙のようなものが無色透明の水蒸気に変わります(写真21参照)。つまり、銅パイプの先端から出る水蒸気をさらに加熱して高温の水蒸気に変えるわけです。このような高温の水蒸気にマッチを近づけると発火します(写真22参照)。また、銅パイプの出口のすぐそばの無色透明に見える高温の水蒸気を三角フラスコの底に当ててみたところ、水蒸気が温度が低い三角フラスコで冷やされるために液体の水になって垂れてきます。水蒸気は白く見えると思い込んでいる生徒が多いので、その誤解を解く意味でこの実験は是非生徒たちに見せたいものです。
ところで、例会で銅パイプを曲げるのに非常に苦労したことを話題にしたところ、「D.I.Y.の店で売られている銅パイプはしんちゅうが混ざっているため硬いが、エアコンの工事などで使う銅パイプは純粋な銅でできていて、指で簡単に曲がる。」という指摘を受け、子ども科学館にあるエアコンの工事などで使う銅パイプを出してきてもらってみんなで指で曲がるかどうか試したところ、実に柔らかく指で簡単に曲がります。銅パイプを焼きなまししてらせん形に変形するために大変な苦労をしたのにあっけないほど簡単に銅パイプをらせん形に変形させることができました。
(6)仙台科学館の紹介(久保田信夫)...写真23〜写真27参照
仙台科学館の見学に行って来たということで、その展示物等について紹介がありました。展示物にかなりお金をかけている科学館であるらしく、魚などを丸ごと透明なプラスチックの中に保存したもの(写真24参照)、来場者が自分でラベンダーの香を合成する装置(写真25参照)、水の中にアルミニウムの粉を混ぜて流体の動きを示す(流れの可視化)装置(写真26参照)、水波の実験装置、ナトリウムのD線を観察する装置、...等見ごたえのある展示物が多いようですが、展示物どうしの間の関連性がなく、何をアピールしようとしているかがよく分からない展示になっていると感じたとのこと。また、分かりやすい説明を記載した掲示がなかったり、何の説明もない展示物があったりといった、ソフト面での配慮に欠ける面があるようです。例えば、ブラウン運動を観察する装置ではブラウン運動している粒子がまったくないといったメンテナンス面での不備、導体・半導体・不導体の違いを説明する装置についての理解し難い内容(詳細は以下に示します)、...等、いろいろ首を傾げてしまう展示物もあったそうです。
導体・半導体・不導体の違いを説明する装置(写真27参照)は、一つの平面上に同じ大きさと形の金属製円板が等間隔で並び、それら多数の円板が一定の速さで回転するようになっています。それぞれの円板は原子の電子軌道をイメージするような多層構造になっていて、一番外側の層に小さな切り込みが作られていて、導体を説明する装置ではその切り込みの間で小さな金属球をやり取りし、半導体を説明する装置ではその切り込みに入っている小さな金属球の数が少なくなり、ときどき切り込みの間で小さな金属球をやり取りするようになっていて、不導体を説明する装置ではその切り込みに小さな金属球が入っていないため、切り込みの間で小さな金属球をやり取りするがないようになっています。導体・半導体・不導体の違いを原子論的に説明するねらいがあるようですが、この装置でそのことを理解させることはできないと思われます。
一般論ですが、科学館の展示物について検討するチームの中に自然科学に対する知識や経験を持った方が大勢入っていて、展示物について責任を持って直接検討する体制を作っていないと、展示物を業者に丸投げしてしまい(場合によっては、その業者がさらに他の業者に丸投げするケースもあるようです)、分かりにくい展示物になることがあるようです。仙台科学館がそうであったかどうかは分かりませんが、科学館としてどのような方針でどんな展示物を配置するかについてのもっと明確な主張が必要でありそうです。
(7)砂鉄の紹介(鈴木孝雄)...写真28〜写真30参照
千葉県館山(房総半島の先端部)の海岸で採取した砂鉄が紹介されました。その海岸では砂の上に黒い縞模様が広がっていて、いつも車に積んでいる磁石を近付けてみたところ大量の砂鉄が磁石にくっついてきたので、ペットボトルに入れて持ち帰ったとのこと。例会では、この砂鉄が話題になりました。
まず、砂鉄は磁鉄鉱からなり、化学式はFe3O4で、この化学式を分解して考えると、FeO・Fe2O3となります。つまり、鉄のイオンは2価のイオンFe2+と3価のイオンFe3+があり、磁鉄鉱全体としてはスピネル構造をしています。
最近、100円ショップでネオジム磁石が安く手に入るようになりました。そのネオジム磁石をガラス瓶等に使われているプラスチック製のふたを間にはさんで館山の海岸で採取した砂鉄に近付けると大量の砂鉄がくっついてきます(写真28、写真29参照)。それに対して、以前三浦半島の海岸で採取した砂鉄は磁石に余り強く引きつけられることがありません。両者の外観にもかなり差があり、館山の海岸で採取した砂鉄は色が真っ黒で粒子が細かく、それに対して以前三浦半島の海岸で採取した砂鉄は色がこげ茶色で粒子が少し粗いように見えます。房総半島と三浦半島の地層は続いている(元は海底火山)ので、両者の砂鉄の間でこのように大きな差が生じる原因は何なのでしょうか?
ところで、砂鉄がプラスチック製のふたを間にはさんでネオジム磁石に引きつけられている状態でネオジム磁石を遠ざけると、ネオジム磁石に引き付けられていた砂鉄はすべて落下してしまいます。つまり、砂鉄は強力なネオジム磁石によっても磁化されません。事務用品である小さなクリップ(表面がクロムメッキされた鉄製品)の場合は、いったんネオジム磁石に引きつけられると残留磁化によって磁性を帯びてしまいます。砂鉄が強力なネオジム磁石によって磁化されないのはなぜでしょうか?例会では、子ども科学館にある着磁コイルを使って、試験管の中に入れた砂鉄を磁化しようとしました(写真30参照)が、砂鉄はこの装置によって磁化されることはありませんでした。
また、海岸や川原の砂の表面に砂鉄の層ができる仕組みはどうなっているのでしょうか?その仕組みについて議論しましたが、細かく砕かれた岩石が海岸の波や川の流れによって比重の差のため分かれてしまういわゆる選鉱をされるのではないかと考えられます。
(8)新聞記事の内容についての検討(全員)
@「現代の秘術でチチンプイ」...資料1参照
2010.3.23.(火)の朝日新聞の科学欄に紹介されていた記事の内容について議論しました。ペンシルベニア州立大学のウェルフォード・キャッスルマン教授がアルミニウムと酸素からヨウ素、チタンと酸素からニッケル、ジルコニウムと酸素からパラジウム、タングステンと炭素から白金の「超原子」(原子がいくつか集まったクラスターのこと)をつくることに成功したとあるが、クラスターのもつ電子のエネルギーや角運動量のグラフが他の原子と似ているというだけで、「化学的な性質も似ていると期待できる」とし、「現代の秘術でチチンプイ」とか「21世紀によみがえる錬金術」とか書くのはまずいという点で意見が一致しました。高エネルギーの原子核反応を起こさずに元素の変換ができるという誤解を与えかねないのではないかとの疑問の声もありました。
【3】会費について
今年度は会費を集めません。
【4】連絡先について
〒259−1142 神奈川県伊勢原市田中1008−3
神奈川県立伊勢原高等学校 塚本栄世
TEL:0463−95−2578
FAX:0463−96−2558
【5】次回例会(第99回秦野物理サークル)について
5月22日(土)14:00〜17:00 伊勢原子ども科学館
なお、今年度の例会の日程は以下の通りです。
・7月24日(土) 第100回例会 14:00〜17:00
・9月25日(土) 第101回例会 14:00〜17:00
・11月27日(土)第102回例会 14:00〜17:00
・1月22日(土) 第103回例会 14:00〜17:00
・3月26日(土) 第104回例会 14:00〜17:00
例会の会場はいずれも伊勢原子ども科学館です。
文責 塚本栄世
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