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第99回秦野物理サークル
                                 2010.7.19.発行
第99回秦野物理サークル報告

日時:2010年5月22日(土)14:00〜17:10
場所:伊勢原子ども科学館
参加者:稲葉一弘(伊勢原子ども科学館)、久保田信夫(立花学園)、倉田慎一(教育センター)、志村潤子((株)ナリカ)、鈴木孝雄(一般)、塚本栄世(伊勢原高校)、深津貴志(伊勢原子ども科学館)
                                  計7名

【1】発表項目
(1)ヘルムホルツ共鳴器の周波数測定(全員)...写真1〜写真4参照
(2)新しいタイプのチョロQ(?)の紹介(稲葉一弘)...写真5〜写真8参照
(3)新聞紙で作った飛行リング(鈴木孝雄)...図1、写真9〜写真11参照
(4)DVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器(鈴木孝雄)
   ...写真12〜写真15参照
(5)ビースピーの紹介(志村潤子)...写真16参照
(6)立体視の実験(倉田慎一)...写真17、写真18参照
(7)人体の内臓や骨格を描いたエプロンの紹介(倉田慎一)...写真19、写真20参照
(8)液晶体温計の紹介(倉田慎一)...写真21参照
(9)サイホンの原理についての検討(倉田慎一)...資料1、図2参照
(10)砂を使った圧力の実験(塚本栄世)...図3、図4、写真22〜写真24参照

【2】発表内容
(1)ヘルムホルツ共鳴器の周波数測定(全員)...写真1〜写真4参照
 前回の例会(第98回秦野物理サークル...2010.5.22.実施)でヘルムホルツ共鳴器の周波数測定を行いました。その方法は、まず、アンプ付き低周波発信機の信号を直径3cm程度のスピーカーに入れて周波数が一定の音を出すようにしてから、そのスピーカーを「いいちこ」(焼酎)の瓶等のヘルムホルツ共鳴器としてはたらくガラス瓶の口にできるだけ近づけて、そのスピーカーから出る音波をガラス瓶の中に入れます。そして、直径6mmの小型マイクの出力をHandyOscilloをインストールしたノートパソコンに入力して音波の波形を調べました。その結果、瓶の底、中央部、口のどの場所でも音波の振幅が全く変化しませんでした。ただ、この実験の際に出された意見として、ガラス瓶の口の面積に比べスピーカーの面積が大きすぎるためにガラス瓶の底、中央部、口のどの場所でも音波の振幅が全く変化しないのではないかという指摘があり、もっと小さなスピーカーをガラス瓶の中に入れて詳細な測定をする必要がありました。
 今回の例会では、(写真1)のようにガラス瓶の中に入れることができる小さなスピーカーとしてイヤホンを使い、前回と同様の方法で音波の波形を調べました。「いいちこ」の瓶を横にして、瓶の中の一番底の位置にイヤホンを固定し、小型マイクを瓶の中に入れて音波の様子を調べてみた(写真2参照)ところ、前回の例会同様、瓶の底、中央部、口のどの場所でも周波数は140.6HZで、音波の振幅も全く変化しませんでした。ただ、イヤホンから出る音が小さいため、音波の波形の振幅が小さく、途中から前回の例会同様、直径3cm程度のスピーカーを使って実験を進めました(写真3参照)。実験結果は前回の例会と同様のもので、瓶の底、中央部、口のどの場所でも周波数は同じで、音波の振幅も全く変化しませんでした(写真4参照)。
 ところで、今回の実験を全員で行ってみて、以下のように疑問が多く出されました。今後も実験や理論的な検討を続けてヘルムホルツ共鳴器について解明していきたいものです。
@ガラス瓶の内部での音波の位相はどうなっているのか?
...入射した音波がガラス瓶の内側の壁で反射することを考えると、場所によって音波の位相が違ってくると思われる。
Aガラス瓶に入射した音波がガラス瓶の内側の壁で反射するのだから、それらの反射波が干渉しあうはずで、そのことを考えると、場所によって音波の振幅が違ってくるはずであると思える。そうならない仕組みはどうなっているのか?
Bガラス瓶の内部での音圧の分布はどうなっているのか?
Cガラス瓶の内部では音波の腹や節が本当に生じないのか?
【参考】ヘルムホルツ共鳴器の周波数について



 f...共鳴周波数 c...音速 S...首の部分の断面積 L...首の部分の長さ
 r...首の部分の半径 V...太くなっている部分(共鳴器)の体積
(2)新しいタイプのチョロQ(?)の紹介(稲葉一弘)...写真5〜写真8参照
 かって(株)タカラから「チョロQ」という名前のぜんまい仕掛けの玩具の車が発売され、子どもたちの間ですごい人気だったことを記憶していますが、この「チョロQ」は車を上から机の上に軽く押さえて少し後ろに引いてから手を放すとかなりの速さで走り出すというもので、後輪駆動の車でした。それに対して、今回紹介された玩具の車は4輪駆動で、長さ3cm程度のぜんまい仕掛けのものです。(「ワンダー」という名前の缶コーヒーの景品として付いてくるそうです。)その特徴は、車を上から机の上に軽く押さえて少し後ろに引いてから手を放すと走り出し、かなり大きな段差をものともせずに乗り越えていくところにあります。例えば、厚さ3mmのベニヤ板(写真5参照)や直径4mm程度の電源コード(写真6参照)なども強引に乗り越えていきます。
 例会では、この玩具の車の仕組みを調べるために分解しようとしましたが、ギヤーボックスを分解することができない構造になっていて、5〜6枚のギヤー(写真7、写真8参照)の組み合わせがどのようになっているのか詳細は不明です。ただ、車を上から机の上に軽く押さえて少し後ろに引いたときにゼンマイが巻かれ、手を放す瞬間にギヤーが切り替わって車輪の回転数が上がる構造になっていることは間違いなさそうです。なお、この玩具の車の名称はよく分かりませんが、説明書には「四輪駆動式 プルバックカー ハマーH1」と書かれています。ただし、メーカー名は不明です。ほぼ一定の速さで走るように見えますので、ビースピーと組み合わせて物体の運動の一例として力学の授業で使うことができるのかも知れません。
(3)新聞紙で作った飛行リング(鈴木孝雄)...図1、写真9〜写真11参照
 (図1)のように新聞紙を使って直径2rが7〜8cm、奥行きLが2〜3cm(ただし、前の方が重くなるように何重かに折り曲げます)のリングを作ります(写真9参照)。このリングを重い方を前にして軽く投げると、空中をすべるように飛びます(写真10参照)。投げるときのコツとしては、余り力を入れずに軽く押し出すように投げることと、リングの進行方向と垂直な面内で回転がかかるようにすることです。上手に投げることができるようになるためには少々練習が必要ですが、新聞紙で作った飛行リングですから室内で投げても全然危険がないことが魅力です。スピンをかけながら押し出すように投げると、なぜ安定してよく飛ぶのか等面白い問題を含んでもいます。例会では、この飛行リングを紙筒に通してから、左手で紙筒を握り、右手でリングを回転させながら押し出す投げ方(写真11参照)も紹介されました。
(4)DVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器(鈴木孝雄)
   ...写真12〜写真15参照
 CDを反射型回折格子や透過型回折格子として利用した簡易分光器は「青少年のための科学の祭典」等を通して情報が広がり、各地の理科教育に関するイベントで作られてきましたが、DVDを反射型回折格子や透過型回折格子として利用した簡易分光器は余り作られることがありませんでした。その理由は、透過型回折格子として利用した簡易分光器で観察されるスペクトルは明るさに欠け、迫力がないことと、反射型回折格子として利用した簡易分光器では一次の回折光の回折角がCDに比べてかなり大きくなるため可視光の連続スペクトル全体を見ることができるように工作することが難しいことがありました。
 それに対して、今回発表されたDVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器は、光を取り入れるスリットの部分にメンディングテープ(少し白く濁った色のテープ)を貼り付ける(写真12参照)ことによって白色光を散乱させ(つまり、この部分が白色光を放射する光源のはたらきをする)、可視光の連続スペクトル全体を見ることができる(写真13参照)ように工夫されています。このような工夫はおそらく今まで誰もやっていないものと思われ、その意味で新しいタイプの簡易分光器です。
 このような簡易分光器を作ることになった流れを以下に説明します。まずDVDを透過型回折格子として利用した簡易分光器を作ろうとして、DVDをハサミで扇形に切ってからアルミの蒸着面を布製ガムテープではがそうとすると、切り口がギザギザになると同時にDVDが上下2枚に分かれてしまい、使用できなくなりました。また、DVDを反射型回折格子として利用した簡易分光器を作ろうと何とかハサミで扇形に切ったDVDを15cm×15cm×5cm程度の大きさのスナック菓子の箱に入れ、光の取り入れ口として幅2〜3mmのスリットを開けて、反射型回折格子であるDVDから回折されてくるスペクトルを観察すると、ほとんど単色光と思われる一色のスペクトルしか見えません(写真14参照)。例えば、光源として電球を使うときには電球そのものが見えてしまいます。つまり、一種の針穴写真機と同じはたらきをしてしまうのです。そこで、光を取り入れるスリットの部分にメンディングテープを貼り付けてみたところ、連続スペクトルが見えるようになったとのことです。その原理を説明する図が(写真15)で、スリットの部分に貼り付けたメンディングテープが白色光を散乱するとき、いろいろな角度でDVDに白色光が入射することになり、そのために反射型回折格子であるDVDの表面で回折される光は連続スペクトルになります。
 例会では、この新しいタイプの簡易分光器に関心が集まり、以下のようにいろいろな提案や疑問が出されました。
@DVDを金ノコで扇形に切ろうとせず、DVDをそのまま使ってはどうか?
A簡易分光器のスリットの部分に色セロハンを置けば、入射光として白色光ばかりでなくフィルターである色セロハンを透過した光のスペクトルについても検討することができる。
B可視光だけでなく、赤外線や紫外線についてもスペクトルの観察をすることができるのでは?...例えば、日焼け止めクリームの効果を確認する実験。
C観察窓に半透明の膜を貼り付け、その膜に連続スペクトルを映すようにできないか?ただし、光が弱いためこの半透明な膜をさらに黒い工作用紙等で囲んで周囲を暗くする必要がある。
D観察されるスペクトルは実像か虚像か?
 今後も、いろいろな発展がありそうです。
(5)ビースピーの紹介(志村潤子)...写真16参照
 ビースピーは「チョロQ」という玩具の車の速さを測るために(株)ハドソンが開発した測定玩具で、赤外線LEDと赤外線センサーの組み合わせを2組内蔵(つまり、4cm離れた平行な2本の赤外線の糸が空間に張られていると考えてよい)しています。この2本の糸を物体が横切るのにかかる時間を測定し、内蔵されている計算機能を使って直ちに速さを計算してその値をkm/hの単位で表示します。その後、(株)ハドソンが「ビースピー」の製造を中止したときに(株)ナリカ(当時は(株)中村理科工業)が在庫をすべて買い取り、学校の教師向けに10数年間販売してきましたが、昨年4月に在庫がなくなったため、理科教育用の新しい仕様で開発し直しました。今回の例会で、その新しい仕様のビースピーが紹介されました。
 ビースピーは手軽に運動物体の速さを測定することができるので非常に使いやすい測定装置ですが、物理教育分野で使う点からいって一つ困ることがありました。それは、表示される速さの単位がkm/hであることです。(株)ナリカが開発した新しい仕様のビースピーでは、この点の改良を含め、以下のような改良が加えられています(販売価格は2,800円)。
・表示する速さの単位はm/s、cm/s、km/hから選べるようにした。
・5個の測定データを蓄えることができるようにメモリを追加した。
 例会では、さっそく上記(2)で紹介された新しいタイプのチョロQの速さを測定してみました。その結果、0.354m/s、0.447m/sという表示がなされ(写真16参照)、確かに従来のkm/hの単位ではなくm/sの単位で表示されることを確認しました。その他、下記のような意見、要望が出されました。
@ビースピーに導入したメモリは是非メモリチップにして、抜き差しすることでパソコンにデータを取り込めるようにしてほしい。
...ビースピーがこのようなタイプになれば、例えば一つの班が5〜6個のビースピーを同時に使った速度、加速度等の測定を行い、そのデータをパソコンに取り込んでから、別の班が同様の測定を行なうといったスピーディーな使い方ができる。
Aラップタイムのモードで5個のデータをメモリに蓄えるようにすると、透明なアクリル板に等間隔に5枚のビニールテープを貼り付けたものをただ1個のビースピーの間で落下させるだけで重力加速度を求めることができる。この方法は、従来のビースピーでは5個のビースピーを使わなければできなかった測定であり、新しい仕様のビースピーの特徴を生かした使い方であろう。
B速度の向きを測定できるようにしてほしい。
C100km/h以上の速さも測定できるようにしてほしい。
Dモータの回転数を測定する(モータの軸に窓のついた円板を取り付ける等の工夫が必要)場合、速さの測定範囲をもっと広げる必用があるのでは?
(6)立体視の実験(倉田慎一)...写真17、写真18参照
 まず、紙筒を使用して立体視をしやすくする装置が紹介されました。立体視は簡単にできてしまう人となかなかうまくいかない人がいますが、立体視が苦手な人には立体視がしやすくなる補助具があると便利です。一度立体視に成功すれば、その感覚を身につけることでその後も立体視に成功する可能性が高くなります。(写真17)のように「Aタイプ」と名づけたものは紙筒が長く、立体視が苦手な人にも簡単に立体視ができるようになっています。2本の紙筒の先端には、右側には右目から見た映像が左側には左目から見た映像が貼り付けてあり、両目から得た映像を脳で混ぜて知覚することで立体的にものが見えます。「Bタイプ」は紙筒が少し短くなり、立体視が比較的得意な人向けのものです。また、「Cタイプ」は紙筒を使用せず、右側の映像と左側の映像の間に仕切りを取り付けただけのものです(写真18参照)。使用している映像は「カシミール」というソフトを使って巨人の目(右目と左目の間の距離が1km)で見た場合の箱根の外輪山の様子(地形を強調するため高さを実際の3倍にして描いてある)です。迫力のある3D映像にみんな圧倒されました。
(7)人体の内臓や骨格を描いたエプロンの紹介(倉田慎一)...写真19、写真20参照
 日本科学未来館の土産物売り場で290円で入手した人体の内臓や骨格を描いたエプロンが紹介されました。プラスチック製フィルムでできたエプロンには白地に黒い線で人体の内臓(写真19参照)や骨格(写真20参照)が描かれています。余り生々しい色だと嫌悪感を持つ子どもたちも出てくる可能性があることからくる配慮であると思われます。
 このエプロンは小学校6年理科の「人や動物の体のしくみ」を学習する際に小学校で使われているようです。内臓や骨格が少し小さめに描かれているので、おそらく子どもたち自身がこのエプロンをつけてお互いに見合うことで学習を進めるようにできているようです。教科書や参考書の図で見るだけではなく、このエプロンをつけてお互いに観察することで、体のどの位置にどのような内臓や骨格があるのかを実感を持って知ることができます。
 例会では、このエプロンを見て気づくこととして以下のことが指摘されました。
・このエプロンをつけた子どもとそれを見ている子どもでは右と左が逆になる。例えば、虫垂は
このエプロンを見ている子どもにとっては左側であるが、エプロンをつけている本人にとっては自分の虫垂は右側にある。大人にとっては当たり前のことであるが、子どもたちにこのことを意識させることは大事なことである。
・人の体の外側はほぼ左右対称であるが、内臓は左右非対称である。
・消化器系の内臓に着目した場合、食道→胃→小腸の順で上から下へ続いているのに対して、大腸は下から上へ続いている部分があり、不自然な気がする。何か理由があるのだろうか?
(8)液晶体温計の紹介(倉田慎一)...写真21参照
 コクヨのカタログに掲載されている「備える」というシリーズの防災用品の中に含まれている液晶式体温計が紹介されました。長さ約10cm、幅約1cmのほぼ長方形をした薄い白色のプラスチック板の上に多数の緑色の液晶が貼り付けられている構造をしています。この緑色の液晶がある温度で黒く変色することで温度が分かる仕組みです。価格は420円で、測定範囲は35℃〜40℃、0.1℃の精度で温度を測ることができる体温計で、舌の下にこの温度計をはさんで約1分で体温が測れます。洗えば何度でも繰り返し使用することができます。
 この体温計を、空気の断熱圧縮によって温度が上がる現象の測定や、摩擦熱の測定に応用できないかと検討中とのこと。
(9)サイホンの原理についての検討(倉田慎一)...資料1、図2参照
 サイホンの原理についての資料「Australian physicist spots dictionary error」が紹介されました。この資料によれば、ほとんどの辞書がサイホンの原理を大気圧の差(下図のh2−h1の高さの差による大気圧の差)で説明しているが、それは誤りで、正しくは重力の差によって「長い方の水が短い方の水を引っ張る」からであると主張している。
 第97回の例会(2010.1.23.(土))での発表「ジョッキを利用した教訓茶碗」(倉田慎一)の中で、昭和38年の高校物理の教科書(金原寿郎 著、三省堂)に載っていたサイホンの原理についての説明(下記【参考1】参照のこと)が非常に分かりやすく、この解釈が正しいのではないかとの指摘がありました。今回紹介された資料の著者はこの解釈と同じ立場です。
【参考1】
(図2)のように、ホースの最上部Aの左側の水圧はP−ρgh1、右側の水圧はP−ρgh2であり、最上部Aの水を左側から右に向かって押す力F1と右側から左に向かって押す力F2を比較すると、
F1=S(P−ρgh1)、F2=S(P−ρgh2)
S ... ホースの断面積  ρ ... 水の密度  
g ... 重力加速度  P ... 大気圧  h1 ... A点と容器内の水面との高さの差  h2 ... A点とホース下端部との高さの差
h2>h1 だから F1>F2 となり、Aの水は右に向かって押される。
(10)砂を使った圧力の実験(塚本栄世)...図3、図4、写真22〜写真24参照
 直径3.0cm、長さ1.0mの透明アクリルパイプの端をパソコンのプリンター用紙1枚で塞ぎ、この用紙とパイプを固定するためにビニールテープをパイプの側面に巻きつけながら貼り付けます(写真22参照)。パイプを鉛直に立ててから、パイプの反対側の端から平塚の金目川の川原で集めた砂(ふるいを使って小石等を取り除き、細かい砂だけにしてある)を長さ70cm程度まで入れます(従って、パイプの底に貼られている紙1枚だけでパイプの中に入っている砂を支えている(?)状態になります)。次に、上から長い棒で砂の上面を思い切り突きます(写真23参照)。普通に考えると、パイプの中に入っている砂の上面を棒で強く突けばその力が砂の中を伝わってパイプの底を塞いでいる紙に加わり、この紙はひとたまりもなく破れてしまうと思われます。ところが、実際に実験してみるとパイプの底を塞いでいる紙が破れることはありませんでした。パイプの中に入っている砂の量を減らせば必ず紙は破れるはずですので、砂の量を減らしながら同様の実験を繰り返したところ、砂の高さをパイプの底から10cmの高さまで減らしたときに初めてパイプの底を塞いでいる紙が破れて砂がこぼれだしました(写真24参照)。この実験から分かることは、長いパイプの中に入っている砂の最上部で力を加えても、パイプの内壁と砂の間ではたらく摩擦力が砂の最上部で加えた力を打ち消してしまい、砂が入っているパイプの長さがある程度以上長い場合は砂の最下部には力が伝わらない(このような性質を定量化した法則として「ヤンセンの式」(そのグラフは図3参照)が知られています)ということです。
 このような実験を思い立ったのは、実は何年も前に読んだ本(【参考2】参照)の中で、ピラミッドの中での盗掘防止の仕組みとして砂を利用した昔から知られていた方法が紹介されていたことを微かに記憶していたためです。乾いた細かい砂が手に入ったら是非やってみたいと10年以上前から考えていて、散歩に出かけた平塚の金目川の川原でたまたま細かい砂をみつけた時点からいつか実験してみようと思っていたのです。ただ、【参考2】の内容から考えて、本来は砂の上面を棒で突くのではなく、ジワーッと静水圧を加えて実験すべきだと思われます。そのためには、実験装置も大掛かりなものを作る必要があり、現時点ではとりあえず長年の念願がかなったということで満足すべきでしょうか。
 なぜ上記の実験のような現象が起きるのかについて考えてみると、パイプの中に入っている砂の上面を棒で強く突いたとき、その力が砂の中を伝わって分散され、パイプの内側側面と砂の間で摩擦力がはたらき、その力で砂の上面を棒で突いた力を打ち消してしまうためと考えられます。いくつかの本を調べてみると、【参考2】の「粉体の科学」以外に「物理の散歩道」(ロゲルギスト著、岩波書店)の中でも論じており、茶筒に一様に砂をつめる問題や錠剤の強さについてのデモンストレーション実験の話題として今回の例会で行なった実験とほぼ同じ実験が紹介されています。
【参考2】...(図4)参照
「粉体の科学」 神保元二(じんぼ げんじ)著 講談社 ブルーバックスB−613 
 ピラミッドの中で用いられている砂を利用した盗掘防止の仕組みは、(図4)のようにピラミッドの外面から墓室に通じる通路(斜面になっていて、墓室の方が低い位置にある)を塞ぐ大きい石を太い柱で天井の位置に支え、その柱は砂を満たした穴の上に立ててあります。そして、砂を満たした穴の底は素焼きの壷になっています。この素焼きの壷は、ピラミッドの外面から墓室に通じる通路と平行に作られた細い通路の天井に固定されており、この通路の上端部には素焼きのつぼを破壊するための石がロープで固定されています。石を固定しているロープが盗掘しようとしている者によって何らかの仕組みで切られると、石が通路を滑り落ち、天井にある素焼きのつぼを破壊するため穴の中に満たされた砂が流れ落ちます。そのため、砂によって支えられていた柱が下がって墓室に通じる通路の天井にあった大きい石が通路に落ちてしまい、墓室の中のものを盗掘しようとした者がピラミッドの中に閉じ込められてしまうことになります。このような仕組みをピラミッドに応用しているということは、砂と圧力についてのかなりの知識が何千年も前の時代にすでにあったということです。

【3】会費について
今年度は会費を集めません。

【4】連絡先について
〒259−1142 神奈川県伊勢原市田中1008−3
神奈川県立伊勢原高等学校 塚本栄世
TEL:0463−95−2578    
FAX:0463−96−2558    

【5】次回例会(第100回秦野物理サークル)について
 7月24日(土)14:00〜17:00 伊勢原子ども科学館
なお、今年度の例会の日程は以下の通りです。
・9月25日(土) 第101回例会 14:00〜17:00
・11月27日(土)第102回例会 14:00〜17:00
・1月22日(土) 第103回例会 14:00〜17:00
・3月26日(土) 第104回例会 14:00〜17:00
例会の会場はいずれも伊勢原子ども科学館です。
    文責 塚本栄世