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夕焼けの実験(データベース用)
【1】実験の題目 : 夕焼けの実験
【2】分野 : 波動、光、光の散乱
【3】キーワード : 夕焼け、青空、光の散乱、レーリー散乱、アクリルエマルジョン、微粒子、偏光

【4】実験工作のねらい・概要
夕焼けは、太陽からやってくる光が地球の大気の層を通過する間に空気中の窒素分子や酸素分子によって波長の短い青色や紫色の光が散乱され、余り散乱されなかった波長の長い赤色やオレンジ色の光が目に入るために起きる現象である。この夕焼けの現象を実験室の中で再現し、光の散乱について正しく理解させると同時に、美しい自然現象に関する実験を通して科学的好奇心を育てたい。
【5】特徴
 夕焼けの現象は、物理を学ぶものにとって必ず一度は不思議に思う自然現象の一つである。その原理をこの手軽な実験を通して体験的に理解することができる。
【6】実験工作の材料
 ・ペットボトル...1.5l、発泡飲料用、透明で側面が円筒状のもの、蓋も必要
 ・アクリルエマルジョン(中に含まれるアクリル球の直径が0.09μmのもの)
...アクリルエマルジョンが入手できないときは、Pタイル用のワックスを代用   品として使うとよい。
  [参考]アクリルエマルジョンについて
アクリルエマルジョンはアクリルの小さな球を水の中に分散させたもので、主   な用途はフロアーポリッシュ、接着剤、塗料などである。
  アクリルエマルジョンを入手したい方は、以下の連絡先に必ずFAXで連絡を下  さい。水で10倍に薄めたものをポリ瓶に入れて、「着払い」でお送りします。
  (連絡先)神奈川県立厚木西高校 塚本栄世
   FAX : 046−248−7461
 ・透明アクリル板(厚さ2mm)
 ・懐中電灯
 ・赤セロハン、青セロハン
【7】実験器具の製作方法
 @ドリルやシャシーリーマーを使ってペットボトルの蓋の中央部に直径約15mmの穴を開ける。
A透明アクリル板をペットボトルの蓋の上面と同じ形に加工する。
Bこのアクリル板をエポキシ系接着剤で@の蓋に接着する。
  ...(注)蓋の中央部には接着剤をつけない。
C水の中にアクリルエマルジョンを適量混ぜる。
...以下に示す2種類の濃度のものをつくる。
  ・濃度の高いもの(「A液」と名付ける。)
   ...水1.5lにアクリルエマルジョン(水で10倍に薄めたもの)を20ml入れる。
  ・濃度の低いもの(「B液」と名付ける。)
   ...水1.5lにアクリルエマルジョン(水で10倍に薄めたもの)を5ml    入れる。
DB液をペットボトルに満たし、空気の泡が入らないようにBの蓋を閉める。
...A液については別のペットボトルに入れ、普通の蓋を閉める。
【8】実験の手順...実験は暗幕を引いて、実験室を暗くして行う。
@A液の入ったペットボトルを水平にして実験台の上に置き(ペットボトルが転がり落ちないように、下に雑巾を敷くとよい。)、懐中電灯の光を軸方向に入射させると、微粒子による光の散乱のため、光源に近い側から順に青→緑→黄→オレンジと連続的に色が変化する現象が観察される。このとき透過光のオレンジ色は夕焼けを表わし、光源に近い青色の散乱光は青空を表わす。...(写真1)参照
AB液を入れたペットボトルに懐中電灯の光を入射させ、青みを帯びた散乱光を観察する。
B懐中電灯に赤セロハンをかぶせて、B液を入れたペットボトルに赤色光を入射させると、赤色光はかなり透過する。...(写真2)参照
C懐中電灯に青セロハンをかぶせて、B液を入れたペットボトルに青色光を入射させると、青色光は余り透過しない。...(写真3)参照
D B、Cの結果から波長の短い青色の光は微粒子によって強く散乱されるため余り透過しないが、波長の長い赤色の光は余り散乱されないためかなり透過することが分かる。この結果をもとに、夕焼けは、太陽の光が地球の大気の層を通過する間に空気中の微粒子(実際には、窒素分子や酸素分子)によって波長の短い青色や紫色の光が散乱され、波長の長い赤色やオレンジ色の光が目に入るために起きる現象であることを説明する。
【9】原理の説明
夕焼けは、太陽からやってくる光が地球の大気の層を通過する間に空気中の窒素分子や酸素分子によって波長の短い青色や紫色の光が散乱され、余り散乱されなかった波長の長い赤色やオレンジ色の光が目に入るために起きる現象である。この現象における光の散乱は「レーリー散乱」と呼ばれているが、光の波長よりずっと小さい粒子によって光が散乱されるときに起きる散乱で、散乱される光の強度は波長の4乗に反比例する。つまり、波長の短い紫色や青色の光ほど強く散乱される。
●レーリー散乱の式について
レーリー散乱の式(Rがλの1/20程度以下のときになりたつ式)
レーリー散乱では、光の波長の変化は生じない。
R...微粒子の半径  λ...光の波長  n1...微粒子の屈折率 n0...媒体の屈折率
 I0...入射光の強度  I...散乱光の強度 r...微粒子と検出器の距離


上式から分かることについて整理すると、
@λが小さいほどIが大きい。(Iはλの4乗に反比例する。)つまり、波長の短い光ほど強く散乱される。
An1とn0の値が異なるときのみI≠0となる。n1とn0の比が大きいほどIが大きくなる。
BRが大きいほどIが大きい。つまり、粒子が大きいほど散乱光が強くなる。ただし、余り粒子径が大きくなるとレーリー散乱ではなくなり、散乱光は白色になる。
Cθ=0゜またはθ=180゜のとき散乱光が最大、θ=90゜またはθ=270゜のとき最少となる。
【10】授業の中での展開例
 @光の散乱や光のスペクトルを学習する前にこの実験を見せ、興味を持たせた上で光の散乱や光のスペクトルについて説明する。
 A光の散乱や光のスペクトルを学習した後でこの実験を見せ、夕焼けや青空の現象についての理解を深める。
【11】参考文献
@「理科部会会報 1996年5月 NO.40 神奈川県高等学校教科研究会理科部会」の「夕焼けの実験(微粒子による光の散乱の実験) 塚本栄世」
A「コロイド科学の基礎」D.H.Everett著、関集三 監訳、(株)化学 同人
B「高分子ラテックスの化学」室井宗一 著、高分子刊行会
C「ポリマーコロイド」高分子学会 編、共立出版
D「ビールびんの中の雲」Craig F. Bohren 著、住明正 訳、  丸善(株)
E「応用物理ハンドブック」応用物理学会編、丸善(株)
【12】補足説明
(補足1)アクリルエマルジョンについて
アクリルエマルジョンはアクリルの小さな球を水の中に分散させたもので、主な用途はフロアーポリッシュ、接着剤、塗料などである。今回用いたものは粒子径0.09μmのアクリル球を含むアクリルエマルジョンである。現時点ではこのアクリルエマルジョンの入った水による散乱光が最も色が鮮やかで演示効果が大きい。(散乱光の色が光源に近い側から順に青→緑→黄→橙→赤と連続的に変化する現象が観察される。)なお、このアクリルエマルジョンは原液の状態では光の多重散乱のために白く見えるが、水で薄めると光の単一散乱により青く見える。1mの長さの透明アクリルパイプを使うときの濃度は、水1lに対してアクリルエマルジョンの原液をスポイトで10滴程度(約0.3ml)を入れるとよい。(水で10倍に薄めたアクリルエマルジョンの場合は、水1lに対して約3ml入れる。)なお、パイプの長さが半分のときは、濃度を2倍にする。
(補足2)Pタイル用のワックスについて
学校で教室の床用に使われているワックスを、アクリルエマルジョンの代用品として「夕焼けの実験」に使うことができる。床用ワックスはアクリルエマルジョンに比べ、散乱光の青色は少々劣るが、透過光の赤色は遜色がない。現時点では、アクリルエマルジョンの入手は困難だが、床用ワックスはどの学校でも容易に入手できる。
(補足3)偏光について
 アクリルパイプの軸と直角方向に散乱される光は直線偏光になっているため、アクリルパイプと直角方向に立ち、眼の前で偏光板を回転させると、明るくなったり暗くなったりする(この現象は太陽と直角の方向の青空を見ながら目の前で偏光板を回転させると、明るくなったり暗くなったりする現象と同じである)。なお、透過光は偏光ではない。
(補足4)家庭実験について
 実験に必要なものはほとんど台所で揃えることができる。透明なコップ、牛乳、緑茶、急須、箸、アルミホイール、懐中電灯を準備する。実験は夜、部屋を暗くして行なう。実験の方法は、まずコップに水を入れ、下から懐中電灯(懐中電灯には箸で直径2〜3cmの穴を開けたアルミホイールをかぶせて光を細く絞る。)の光で照らしながら、箸につけた牛乳を水の中に一滴入れてはかき混ぜるということを繰り返す。上から見て、光が赤く見えるようになったところで牛乳を加えるのを止める。このとき、牛乳の入った水は全体的に白っぽいが、上から見ると赤みを帯びている。また、横から見ると懐中電灯に近い部分は少し青みを帯びているのが分かる。次に、煎茶を急須に入れ、お湯を注いで湯呑に緑茶を入れる。この緑茶を使って同様の実験をすることができる。緑茶の場合は、牛乳に比べて上から見たときの赤みは強くなるが、横から見たときの青みを帯びた色は分かりにくい。牛乳や緑茶以外でも台所で手に入るいろいろなものを使って実験できそうである。なお、おにぎり等を入れるのに使う透明なプラスチック製のパックを使えば、上記の実験を水平方向で行なうことができる。